山本芳久『キリスト教の核心をよむ』(NHK出版、2021年)を読んで。

 本書はキリスト教に興味を持った人に真っ先に薦めたいキリスト教入門である。「学びのきほん」シリーズの一冊である本書は、帯に二時間で読めると書かれている通り、短い紙幅にエッセンスをギュッと凝縮したキリスト教入門である。とはいえ必要な部分だけを解説するというスタイルではなく、アブラハムの宗教と言われるユダヤ教とキリスト教とイスラム教の関わりから説き起こし、何が共通していて何が違うのか、そして聖書には具体的に何が書かれているのかという全体像を示しつつ、そこからキリスト教のエッセンスを旧約聖書、新約聖書、アウグスティヌス、教皇フランシスコ、ヘンリ・ナウエンのテクストそれぞれから析出していくというスタイルを取っている。
 本書ではキリスト教はどうして新約聖書だけではなく旧約聖書をも聖典としているのかといった疑問に答える内容が、旧約聖書と新約聖書の重要な箇所を読み解いていくことで自然と理解できるように論が進むのが印象的である。その過程で、旧約聖書における働きかける神の姿、新約聖書におけるイエスの教えの革新さが浮き彫りになる。そしてキリスト教思想を代表するアウグスティヌスの『告白』が如何に現代を生きる私たちに問いかけるものであるかが明らかにされ、現代においてそのキリスト教思想が如何に読み解かれているのかが教皇フランシスコとヘンリ・ナウエンのテクストを通して確かめられる。
 本書を特徴づけるのは、冒頭にも記されているように「旅人の神学」という視座である。旧約聖書に始まる神と人との具体的な関わりを読み解くことを通じて、現代を生きる私たちにとって如何にキリスト教思想が「生きた」ものとなりうるかをありありと示してくれる。浩瀚な神学書を読み解くことではなかなか見出すことのできないテクストの核心に迫る叙述は、初学者だけでなく思想研究に馴染みがある読者にとってもまた新鮮な気づきを与え、読者のその後のキリスト教との出会いを力強く後押ししてくれるものである。
 キリスト教は愛の宗教である。本書はその内実をいきいきと描き出し、キリスト教の基本的な考えを明らかにし、学術的な著書を通してはなかなか得られない洞察を惜しみなく与えてくれるキリスト教入門である。信仰の手引きとしてではなく、一人ひとりの読者がキリスト教思想のエッセンスに触れていくことを通して、テクストそのものが人生への問いかけに満ちたものとして立ち現れてくるに違いない。基本を確認するためにも、新鮮な気持ちで原点に立ち返るためにも、繰り返し手に取りたくなる必携のキリスト教入門である。


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