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『とある科学の青春記録』 シナリオ分析

コラボということで表には出てこないシナリオ上の制約があるかもしれないが今回はそのことはあまり考慮せず単純に物語のみの分析を行った。
また筆者のとあるシリーズ経験は昔に禁書無印を6巻まで読んだ程度であるため原作と絡めた話は行わない。
主観100%。


良かった点

コラボキャラの見せ場が作られていた

 コラボシナリオを作る際に「コラボキャラ1人ごとに見せ場を設ける」というのはほぼ必須条件だが今回のシナリオでは美琴のレールガン、涙子のバット、操祈の心理掌握が披露されていたため良かった。

美琴との出会い方

 エイミの連絡から物語が始まり正体不明の少女たちに会いに保健室に行くもそこには誰もいなかった。消えた少女たちの詳細について話していた最中に爆発音が聞こえて外に出ると、そこにはモブ生徒をなぎ倒したばかりの美琴が立っていた。
 我々読者はこのシナリオが既に『超電磁砲T』とのコラボであることを知っている状態で上記の勿体ぶった登場が行われた。コラボキャラの登場は期待感を持たせるべきだがそれ以外にも「異世界転移」というイベントがブルアカ世界内では滅多に発生しないレアケースであることから上記の引きが効果的に機能していた。
 またどういう経緯で事件(美琴たちの転移)が発生したのかをエイミが先生に共有するという形で自然に状況説明を行った点や、美琴がじっとしていられない性格で喧嘩っ早い側面があることや能力をどう使うのか、更にはブルアカ世界に来るにあたってデバフが与えられていることの説明をモブを倒すことで端的に表現した点もよく練られていたと思う。

エイミの服装へのツッコミ

 エイミの開放的な服装にツッコミを入れたのは特に良かった。
エイミの服装はほとんどの読者が一度引っ掛かるネタであるため美琴の主張がごく自然に受け入れられる。またエロ方面のネタは話題性がある(水着コハルの黒線、サクラコの覚悟など)ためSNS上での見栄えもいい。また序盤に読者の肩の力が抜けるようなネタが入ることはシナリオを読む行為へのストレス感を減らしたり後半のシリアス描写とのギャップを生み出したりする効果もあり、その点でもこのネタが入っていたことは良かった。

世界観のズレの描写

 物語では銃を持たない美琴たちと超能力のないブルアカ勢という両者の違いが強調されていた。違いを比較するのは物事をより詳細に把握するひとつの手がかりとなり、シナリオの場合は物語を動かすことにもつながるので『ブルアカ』の特色であるヘイローと銃、『超電磁砲T』の特色である超能力を話題に上げたのは良かった。また今回は同じ「学園都市」という共通項があったため違いを示すのはより重要だっただろう。

原作の要素

 インディアンポーカーやサバ缶、食蜂の「あっちにも似たような場所がないとは~」という発言など原作勢がにやけるような要素を設けていた点は良かった。

悪かった点

主役がエイミ

 ここが最大の問題点だと筆者は感じたのだが、コラボシナリオであるのに精神的な成長をするのがブルアカのエイミであるという点が良くないと思った。
 面白いとされる物語の多くは元々問題を抱えていた主人公がストーリーを通じて何かしらの気づき(多くは成長に繋がる)を得て終幕するという流れである。この主人公が得る気づきはテーゼと呼ばれ、基本的な物語では冒頭に主人公がそれとは反対の主張(アンチテーゼ)を持っている場合が多い。今回のシナリオでは「失われる記憶を充実させる必要はない」というアンチテーゼを持っていたエイミが冒険と交流を通じて「消えてしまうとしても大事にする意味がある」という気づき(テーゼ)を得てひとつ成長して物語が終わっている。
 このシナリオは上記の型を守っているため最低限の面白さが担保されているが、その成長描写がコラボ先のキャラではなくエイミに当てられているためこのシナリオの主役がエイミであるように読者には伝わってしまう。ここでたとえば物語の中軸がエイミと美琴の絆描写であればこのシナリオは友情もの、バディものとして機能するのだが、実際のシナリオでは美琴たちがブルアカキャラと深く関わるようなことはなく終始お客様と案内人の関係になっていた(正確には美琴がエイミを下の名前で呼びようになるなど多少関係の進展は見られたがその経緯にドラマ性がないため絆とは言い難い)。そのためシナリオ本筋上での美琴たちの役割がエイミの成長を引き出す(代替可能な)装置となってしまっている。

キャラ数とシナリオ分量の釣り合い

 今回のシナリオは総文字数がかなり少ない(それ自体は色々と事情があるのだろう)。それでありながらモブを除いた登場人物がコラボ3+ブルアカ5+先生1の9人だったのは良くないと思った。短い物語の中で脇役のエンジニア部やヒマリにも纏まった分量のセリフや(ネタを含めた)見せ場が与えられていたため1人1人の印象が薄まっている。特にコラボ組に関しては能力の行使やツッコミ、性格の良さなど表面的な部分しか見えておらず原作未履修の読者からすれば別世界の凄い人が突然来てすぐ帰らせた、ついでに能力を使うところを見せて貰えたくらいの印象しかなかった。

ブルアカ世界に美琴たちが転移してきた点

 これは正確には悪かった点という訳ではないが、今回のシナリオが上記のように美琴たちの印象が薄くなってしまった原因のひとつとしてブルアカ世界に美琴たちが転移してきたことが挙げられるだろう。作中で郷に入っては郷に従えという描写が出てきていた通り、別の環境から転移してきた人間は多くの場合その転移先の常識や習慣といったものに従うことになる。そして常識や習慣といったものはキャラの個性と密接に結びついている。美琴たちがブルアカ世界の常識に従うということは少なからず彼女たちの個性を奪う結果になっており『超電磁砲T』感を薄れさせてしまっている。
 これが先生たちが転移したのであれば否が応でも『超電磁砲T』感は出てくるだろう。ただし黒子などの『超電磁砲T』世界の他キャラの立ち絵を出せない制約をどうにか工夫する必要があったり、『超電磁砲T』のどの時期に転移させるかによってネタバレ配慮が必要になったり、『超電磁砲』の土俵で事件を生み出す必要があり原作へのより深い理解が必要になってくるなどシナリオを書く労力は倍増するだろう。

キヴォトス観光シーンの省略

 読者が一番見たかったであろう和気藹々とした観光シーンが丸々カットされていたのは良くないと思った。ここのブルアカ勢と美琴たちとの絆が深まる描写がどれだけ力が入っているかでラストの美琴たちが武器を返すシーン、エイミが気づきを得るシーンの説得力が変わってくると思うが、それがそもそも描写されなかったのは勿体ないと思った。
 尺的な問題で観光描写をしっかり描くことはできなかったが美琴たちのモモトークがいつ行われてるのか問題を解決するために浮いた時間を作りたかったのかもしれない。

ヘイローの詳細

 ヘイローの謎はブルアカの世界観の根幹に関わる問題でありおいそれとコラボイベントで深掘りできないだろうが、公式生放送やPVでヘイローの存在を強調しており読者に期待させていたにも関わらず特に理由が分からなかったのは多少肩透かしを食らった。ほんの少しでも設定の深掘り、もしくは情報の整理や問題提起(先生と美琴たちとの比較をするなど)があってもいいと思った。

後半の一直線感

 後半に設置された戦闘やバリア要素がコラボ組それぞれに見せ場を作るために用意されている感が抜けきれず、また特に苦労もなかったため単調に見えてしまった。
 また個人的にはレールガン披露時の掛け合いもハイテンションなエンジニア部とそれに押される誰かという見慣れた構図で特別感がなかったことや、その件で特に絆が深まった印象がなかったことも気になった。

まとめ

 個人的には前半は良かったが後半が単調に感じられた。
また背景が既存のものだったり新規BGMが1曲だったりシナリオが短かったりと他のイベントと比べると全体的に控えめな印象を受けた。
 だがコラボということで色々と厳しい縛りがあったと予想される。そのため批評することは容易だがいざ作るとなると非常に難しいだろう。

あとモモトーク良かった。

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