社会人司法試験合格者の就活

はじめに

 法曹以外の社会人で司法試験を受ける人は現在でも多く存在します。修習生のうち1割くらいが何らかの社会人経験を持っており、ごく少数のマイノリティとまでは言えないでしょう。しかし「なんとなく人生が変わりそう」という動機の人も多く、深くキャリアを見通してから受けるわけではないというのが大半と見受けられます。そこで、自分も社会人10年程度を経て法曹になったため、何か役に立てばと思い、まとめてみました。
 ただし、別に社会人だから特別ということはなく、法曹になったらどんな前職があろうとも、基本的には法曹1年生から始まることに代わりはなく、99%は社会人経験を持たない人のキャリアと同じであり、あくまで「敢えて言えば気に留めておいた方が良い事項」という話です。「基本的には」と述べたのは、隣接士業出身の方や、知財など専門的知見を持っている人は事情が異なると考えられるからです。

裁判官、検察官

 裁判官や検察官は若い人(25歳くらいまで)がリクルートされてなるイメージが強いと思います。しかし、76期の任官者を見ると、裁判官は42歳、検察官は43歳が最高齢であり、少なくとも40代前半までは選択肢に入り得ると思われ、年齢というよりも、ちゃんと勉強する人であることが大事だという印象です。
 もっとも、23歳であろうと43歳であろうと新任から始まり給与は周りと一緒なので、一般的な転職と違って所得が大幅に下がることはやむを得ないでしょう。なお、所得が下がるとは言っても裁判官・検察官の給与は国家公務員の中では破格の高さであり、生活に困るということはありませんし、一般民事系の法律事務所に新人として入った場合に大きく劣るわけではありません。むしろ、毎年必ず昇給していくので、一生イソ弁というケースよりは生涯所得は高くなると考えられます。
 ただし、特に検察官は上下下達の雰囲気が強く、10個も年下の先輩からの指示に対し、「Yes」、「はい」、「喜んで」の3択の答えをできる柔軟さが求められる点は留意した方が良いと思います。裁判官は、あまり上下下達の雰囲気もないので、そこまでは気にしなくても良いかもしれません。
 社会人経験が5年以下で、20代で合格した社会人であれば、一般的な修習生と同じ感覚で任官できるでしょう。

四大法律事務所等

 四大法律事務所をはじめとした大手事務所も、一般的に若い人を好むと言われています。ただ、30前後で入所する人も存在し、30歳くらいまでであれば絶対に無理というわけではないと思います。最初の給与水準が若手と同じであることは裁判官・検察官と同じですが、最初から1000万円を超える好待遇であり、多くの人は前職よりも上がるのでその点は気にならなそうです。
 しかし、そのまま勤め続けたとして、40~50歳近くまでアソシエイトである可能性が高いので、それまで激務に耐える体力が残っているのかという点については考えておいた方が良さそうです。

中規模企業法務系事務所

 1年の修習生採用人数が1~5人程度の中規模の企業法務系事務所のことです。四大のように総花的に扱っているわけではなく、何らかの得意分野を定めて企業法務を提供している事務所が多いです。
 四大と異なり、優秀な人であれば絶対採用するというわけではなく、事務所のテイストに合った人を採用するので、四大よりもある程度年齢が行っていてもチャンスがあると考えられます。
 また、法曹になる前に所属していた業界を多く扱っている事務所であれば、前職経験を活かせるチャンスもあり、前職の延長線上で法曹としてのキャリアを描く方にとっては良い選択肢なのかなと思います。

インハウス

 法曹資格を持ちつつ企業に所属する会社員です。元からいた会社に所属しつづける人もいますし、法曹資格を武器に転職活動をする人もいます。いずれにしても、法曹としての就活というよりも、転職活動の範疇だと思います。
 「はじめに」のところで書いたことの例外ですが、前職経験をそのまま活用できるので、「人生を変えたい」と思う人でなければ素晴らしい選択だと思います。
 なお、インハウスといっても色々であり、近時は、誰もが知っているグローバル企業から地方の中小企業まで弁護士ないし法曹有資格者を雇う時代です。グローバル企業であれば法曹とそん色ない給与が得られると思いますが、地方の企業だと給与は法曹の中では安いですし、オーナー企業も多く相性も重要になってきそうです。

一般民事・刑事系事務所

 東京や大阪を除けば、法律事務所はほぼこの類型です。新興系と呼ばれる事務所は少し違うかもしれませんが、ある意味で法律事務所の典型的な形態です。
 60歳を超えたレジェンドのようなボスがいて、50前後の実質的に事務所を支えている先生がいて、イソ弁を数人抱えているような事務所です。千差万別なので一概には言えませんが、基本的には20代であろうと40代であろうと、ボスから見たら若手なので、あまり変わりません。
 将来の独立が前提とされていることが多いので、独立したいと考える社会人には相性が良いかもしれません。ただ、事務所からの給与はあまり期待できず、個人事件がなければ、1年目の裁判官や検察官より安いかもしれません。独立開業までの修行として入るのであればこれが一番近道ですが、しばらくの生活費を持っておく必要があると思います。

即独

 「即独してはならない」というのは修習生の中では常識です。それは間違っていないのですが、社会人経験がある人であればリスクは少ないかもしれません。なぜなら、新卒で修習生になった人は、独立初期に手持ち資金が足りずにショートする可能性がありますが、社会人経験者であれば、余裕資金で食いつなぐことができるからです(もちろん、貯金があればですが・・・)。
 また、ビジネスマナーなどは既に学んでいるでしょうから、即独のデメリットの一部は当てはまりません。
 もっとも、法律相談や起案について先輩法曹の指導が受けづらいので、この点は何らかの対処をした方がよいと思います。どれだけ社会人経験があっても、法曹が行う相談や法曹が書く文書は特殊なので、誰かの指導は受ける必要があります。この点、弁護士会などが即独の方向けの支援制度を設けている場合が多いですし、共同受任などを通して指導してもらえる機会があればそれを最大限活用すると良いですね。

最後に

 法曹は、専門職人的な職業なので、基本的には社会人経験がそのまま活かせることはありません。よくいるのが、「前職の営業実績をもってすれば自分は稼げる」という感覚ですが、営業というのは商材によって全然違うので、営業系からの転身の方はよくよく慎重になった方が良いと思います。
 いずれにしても、法曹になってすぐに前職経験が活かせるケースはあまり多くないのですが、10年、20年とやっていくうちに前職を持った法曹がジワジワと良い味を出していくことを願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?