見出し画像

水道水の安全

 水道から出る水がぬるむようになってきましたね。氷を入れて飲みたくなる季節もすぐそこまで来ています。


 どうも、水割りの水にはこだわる私です。

 
 noteの記事を巡回していて、ふとしたことから水道水の安全について考えるようになりました。

 日本の上水道の普及率は令和元年度で98.1%となっており、世界の中でも飲料水へのアクセスは良好と言えます。では単刀直入に、その水道水は安全なのか?という疑問にダイブしていきましょう。


■日本の水道水はどうやってつくられているか

 水道水は、ダム湖や河川の水などといった地表に表れている水を原水としています。その後、浄水処理場で取水された原水は以下の順に浄水場を巡っていきます。


・取水塔(水を取り入れる)

・沈砂池(ちんさち。水に混ざっている砂や泥を沈殿させる)

・導水ポンプ(浄水場に水を送る)

・着水井(ちゃくすいせい。送られてきた水が最初に浄水場につくところ。ここで次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの薬剤で殺菌消毒を開始し、phを調整する)

・薬品混和池(やくひんこんわち。不純物を凝集させるためポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウムなどの薬剤を加える)

・フロック形成池(薬剤を投入した水をかき混ぜ、フロック(不純物の凝集したもの)の形成を促進させる)

・沈殿池(フロックを沈めて取り除く)

・濾過池(ろかち。残ったフロックを取り除くため、砂や砂利の層で濾過する。次亜塩素酸ナトリウムを加える)

・浄水池(再度、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを加えて殺菌消毒、phの調整を行う)

・配水池(浄化作業の終わった水(上水)をためておく)

・送水ポンプ(各地の給水塔、給水所などの配水所に上水を送る)

・使用する施設


 と、実に念入りに浄化作業を行っているのがわかりますね。


■使用される薬剤の安全性

 では浄水場で使用される薬剤は安全なものなのか?どの程度残留しているものなのか?という疑問は当然わいてきます。

・次亜塩素酸ナトリウム
 これは水酸化ナトリウムに塩素を加えたものです。水道水は塩素で消毒、とはよく聞くフレーズですけれども、正確には塩素を加えた水酸化ナトリウムで殺菌消毒している、ですね。殺菌消毒に用いられるものですから、当然、濃度が高ければ有害になります。WHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドラインでは、塩素のガイドライン値は5mg/Lとされており、この値は生涯にわたりその水を飲んでも健康に影響が生じない濃度を表しています。東京都水道局では、残留塩素濃度を水道法で定められている0.1mg/L以上、水質管理目標設定項目の目標値である1mg/L以下を蛇口において常に確保できるように管理しているとのこと。次亜塩素酸ナトリウムの残留濃度は心配するレベルにはないということですね。(もちろん「人間に対しては」であり、金魚などの水槽にそのまま入れていいわけではありません)

 ちなみに以前は次亜塩素酸カルシウムという薬剤が主に使われていて、カルシウムから「カルキ臭」の名がついたそうです。

・水酸化ナトリウム
 強いアルカリ性を示す薬剤で、浄水中の水のph調整をするために投入されます。水道水が酸性に傾くと水道管の腐食を誘発するため、必要になります。水酸化ナトリウムは水中で電解し、最終的に酸素と水素とナトリウムになります。ナトリウムの残留基準値は200mg/L以下です。phの調整が目的なので、入れる量を大きく間違えたりしなければ残留の心配はありません。

・ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム
 原水中の細かい微生物や汚れなどの不純物を集めてくっつける(凝集する)作用を持った薬剤です。そのほとんどが直後の濾過の段階で不純物とともに取り除かれ、浄水完了段階での残留基準値は0.2mg/Lまでと定められています。これはWHOの基準値に準拠しています。


■トリハロメタン

 水道水の安全性を調べると必ず出てくるのが、このトリハロメタンです。ひとつ最初に覚えておいていただきたいのは、「トリハロメタン」とはある特定の物質ではなく、メタン(methane)を構成する4つの水素原子のうち3つ(tri)がハロゲン(halogen)に置換した化合物の総称である、ということです。

フルオロホルムクロロジフルオロメタンクロロホルムブロモジクロロメタンジブロモクロロメタンブロモホルムヨードホルムなどといったトリハロメタンが代表的なところで、特にクロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムの4つを指して総トリハロメタンと呼び、残留基準値は0.1mg/L以下と定められています。ではいったいその正体はなんなのでしょうか?

 それは、浄水中に使われる塩素と、水中に存在するフミンなどの有機化合物の反応で生成される副産物、消毒副生成物という物質です。毒性のあるもので、中でも総トリハロメタン筆頭に挙げたクロロホルムは1831年にドイツで発見され、その後麻酔薬としてヨーロッパで急速に使用が拡大した薬剤ですが、その後、血圧や呼吸、心拍の低下などの影響が確認され、肝臓、腎臓、呼吸器などへも影響を与えることも分かりました。発がん性も疑われ、IRAC(国際がん研究所)の発がん性評価ではグループ2Bに分類されています。ゆえに水道水への残留は厳しく制限され、日本では残留基準値が0.06mg/L以下となっています。WHOの基準値は0.2mg/L以下です。


■水道水は基本的に安全

ご覧のように、日本の水道水は国際的に見ても高い基準を満たしています。飲用するのになんら問題はありません。(水道管やアパート・マンションなどの給水施設に問題がある場合を除き)

 以下に、よくある疑問をQ&A方式で挙げていきますね。


・Q.日本の水道水の塩素濃度は外国と比べて高いの?
 A.基準値としては日本の方が5倍厳しい(濃度が薄い)。

・Q.浄水場で使ったアルミニウムは残留してないの?
 A.わずかに残留しているが問題ない。国際基準に準拠している。

・Q.アルミニウムはアルツハイマー病の発症率を上げると聞いたけど……
 A.1989年にそのような研究レポートが出されたが、1997年の再調査では前回の結果を再現できなかった。

・Q.トリハロメタンには発がん性がある?
・A.発がん性が疑われている。ちなみにグループ2Bには「漬物」「コーヒー」も入っている。グループ1(発がん性がある)には「アルコール飲料」が入っている。

・Q.トリハロメタンは煮沸すると3倍に増えるって……
・沸騰して3~5分は化合物の生成を促し、1.5~3倍くらいに増えるという研究結果がある。その後10分ほどすると塩素と共に揮発していく。ただし元の基準値が0.06mg/L以下なので、それが3倍になってもまだ国際基準値以下。

・Q.赤ちゃんにあげるミルクを水道水で作っても大丈夫?
・A.問題ないが、煮沸して塩素の抜けた水は殺菌力を失って劣化しやすいのでじゅうぶんな注意が必要。

Q.水道管の材質とか劣化が心配……
A.敷設地域、敷設年代によっては金属成分の溶出、錆の発生、破断などの恐れがある。地域の水道局から認定された「指定給水装置工事事業者」がいるはずなので、適当な業者をあせって選ぶ前に、まずは各自治体のHPを確認。


■終わりに

 今回、調べていて思ったのですが、ことさらに水道水の危険性を煽り立てているのは、すべて浄水器やウォーターサーバーを販売している企業のサイトでした。いちばん納得がいかなかったのは、単に「発がん性が疑われている」ものを「発がん性がある」と断じているところがとても多かったことです。これは決めつけることで人の不安をあおって商売につなげようとする、ラベリング型ナッジ効果を狙ったものと言っていいでしょう。自社の製品を売らんとするために、地道な努力を続けて高い安全性を守り続けている水道水を貶めるのは、見ていて気持ちのいいものではありませんでした。

 正しい知識で、正しく恐れよ。新型コロナウィルスの蔓延初期に言われていたことですが、これはどんな場面であっても同じことだと思います。

 それでも不安だ、危険なものは一滴でも体に入れないほうがいいに決まっている、浄水器を買いたい、ウォーターサーバーを契約したい、という方がいるのはわかりますし、それはご自身でお決めになればよろしいのだとは思いますけれど(天然水はガチでおいしいですからね)、「それが手に入らなくなった時、どうするんだろう……?」という思いもあります。


 健康に良いものだけを追及することが、はたして健全な生活なのか?


 もちろん、今日の水道水の安全は国民の健康のために積み上げられていったものですし、これからもそうなのでしょうけど、災害や戦争などが起きた時に、「○○でなければダメ」という温室育ちの人から真っ先に命を落とすような気がするのは考えすぎでしょうか。選択肢は多いほうがいいと思うんです。

 いずれにしても、何が正しくて何が欺瞞なのか、判断するのは、勉強と、おのれの判断以外にはありませんね。私も今日一日で、かなりの水道博士になった気がします。


☆ ☆ ☆


 そうそう、私がこだわっている水割りの水って、「水道水」なんですよ。地域によって味が違うので、いろいろなところの水道水をペットボトルにつめて持ち帰り、飲み比べをしているんです。(今回、発がん性がある物質グループ1にアルコール飲料が入っていたのはショックでしたけどね)


 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 それでは、ごきげんよう。


参考サイト様

・水道対策/厚生労働省
・クロロホルムに係る健康リスク評価について/環境省
・国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について/農林水産省
・WHO 飲料水水質ガイドライン
・よくある質問/東京都水道局
・東京都 水の科学館
・千葉県営水道/千葉県
・Q&A/日本アルミニウム協会
・アルミニウムに関する情報/厚生労働省
・浄水場で使用される薬液/兵神装備株式会社
・浄水場の仕組みが知りたい! 水道水ってホントに飲んでも大丈夫?/工場タイムス
・水道水ってどんな水?飲んでもいい?水道水の成分や安全性、塩素のこと/トリム ミズラボ
・あなたはそれでも水道水を飲み続けられますか?水のプロが本気で語る水道水まとめ/水のススメ
・水道水の危険性は?そのまま飲むのはOK?/ウォーターサーバーNAVI@スポニチBIZ
・水道水に含まれるトリハロメタンとは?有害性や加熱時の注意点などを解説/おいしい水の贈り物 うるのん

サポートしていただくと私の取材頻度が上がり、行動範囲が広がります!より多彩で精度の高いクリエイションができるようになります!