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定期ゲームソフトレビューその3 DS文学全集

ちょっと小粒な作品でレビューの書き方に慣れていきたい思惑があります。と言うことで今回は「DS文学全集」。ゲームというより実用ソフトの趣きが強いですが、手軽に名作が100冊(+α)読めるという利点は未だ失われていないと感じます。
ちなみに収録作品の中なら、筆者は堀辰雄の「風立ちぬ」と梶井基次郎の「檸檬」、それと夏目漱石の「明暗」が好きかな。

ちなみに本作のCEROは実用・データベースなので全年齢ですが、ヰタ・セクスアリスなんかも収録されているぞ!

DS文学全集
発売元: 任天堂
機種: DS(パッケージのみ)
ジャンル: 読書
価格: 定価2667円(税別)
発売日: 2007年10月18日

概要

空前の大ヒットにより、今まで以上に多種多様なゲームソフトが発売されたニンテンドーDS。
そのうちのひとつ、当時としてはまだ普及していなかった電子書籍を取り扱ったソフトが「DS文学全集」である。
その名の通り、文学作品が合計100本収録されている。海外作品は無く、全て日本文学。

教科書に載るような有名な小説から、「ゴン狐」のような童話に近い物語に「学問のすゝめ」みたいな小説では無いものまで幅広いジャンルの名文が取り揃えてある。

DSを縦持ちにすることで実際の本のように見立てており、ページを繰る動作することで画面が切り替わるなど電子書籍としては面白みのあるアイディアが搭載されている。指定のページにジャンプする機能もあるし、ゲームらしく専用BGMを流すこともできる(中には環境音すら用意されているし、無音にすることもできる)。


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ページを繰ることによって物語は進む。軽く指でスライドするだけでいいので没入感も阻害することはない。
見た目だけでは無く、紙が捲れるSEも一緒に鳴るが、思いのほか心地いい印象を受ける。


評価点(良いところ)

定価の時点で非常に安い。今から入手するなら中古だろうが、実はそっちの方がメリットが強かったりする。

それは後述するとして、中古価格もそこまで高くないゲームなので入手も容易。それでいてデフォルトで100冊もの日本文学が読めるのは破格だろう。

短編も収録されているが、長編作品もそれなりにあるので、全作読破するには最低でも1ヶ月以上は掛かるんじゃないだろうか。例え特定の作品しか読まなかったとしても、2〜3冊読めばお釣りが付いてくるぐらいのコストパフォーマンスの良さを誇る。

概要で触れたように収録作品のジャンルも多岐に渡る。すごく長くなってしまうのでここで紹介はしないが、よほど文章を読むことが苦痛ではない限り、自分に合う作品は見つかるだろうと思う。
(公式サイトの収録作品リストはこちら)


でもそれだけなら今の時代、スマホからでも購入できる。いくら安いからと言って、DSを引っ張り出す価値があるのだろうか、と思うだろう。

実はこのゲームの魅力は収録数だけではない。
まず、視覚情報からしてオシャレだ。その最たる例が「背表紙と帯」である。

作品を選ぶ際に、プレイヤーは本棚に並べられた書籍から目当ての物を選ぶことになる。本作では電子書籍ながらその動作が再現されており、様々なタイトルが印字された背表紙を見てるだけで楽しいし、本の厚さも再現されている。プレイヤーはそれを見るだけで、その物語が短編か長編かすぐに察せるわけである。普通にすごいアイディアだよね。


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この画像なら山月記(画像右端)の背表紙は他より薄く、短編であることを察せられる。逆に門(画像左側)は分厚く、長編であることが分かりやすい。


そして本を選ぶことで表紙の画面に移る。そこにはその本に対する「帯」を見ることができる。例え作者や作品を知らなかったとしても、まず宣伝文句だけでも見て読むか決めることができる。
限られた収録数の中で少しでも興味を持ってもらうための工夫だと思うし、実際プレイヤーとしてはそれを見るのが楽しく感じる。タイトルからでは想像できない作品のエッセンスを短い文章で表してもらえるからこそ、より興味を惹かれるのだと思う。


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吾輩は猫であるの表紙。キャッチーな帯によって手に取りやすくなっている。画面右の項目にあるように、簡単に物語を要約された文章が読める「あらすじを読む」と、作者の人柄や生涯を知れる「作者の紹介」も用意されている。
時間が無い時や軽く触れたい時にあらすじは気軽に読めるし、作者の紹介は作品に歩み寄るきっかけにもなる。読みやすくまとめられた作者の紹介は、それ単体でも読み物として面白かった。

他にもその時の気分からオススメの本を選んでくれる機能など、読書が楽しくなる要素が散りばめられている。しおり(中断機能)によって途中で止めることも容易く、本当に本を読んでいるかのようだった。
文字サイズの変更などもできるので、自分にとって読みやすくカスタムできるのも優しいと思う。


問題点(悪いところ)

本を実際に読んでいるかのような要素が特徴的な本作ではあるが、問題点も少なからずある。

UIの面では、本を追求したがために電子書籍特有のスムーズさが若干損なわれている。決して動作は遅くないのだが、スピーディーに次ページを表示したりできるのが電子書籍である。そこを蔑ろにしてまで本の形式に凝る必要に疑問を感じる人もいるだろう。

文字サイズなども自由に調整できるものではなく、あらかじめ用意されたパターンからの選択である。画質などの関係上、細かい文字を一気に表示することもできず、結構な頻度でページを繰ることになるのも今の電子書籍に慣れていると不便に思えてくると思う。

しょうがないこととはいえ、読める数に限度があるのも問題点だろう。今はDSよりもスマホの方が手元にあることが多いだろうし、2画面でない分、手軽に読めるということでもある。
確かに本を再現したシステムは面白いが、作品の内容が劇的に変わるわけでもない。収録数に限りがあってDSと3DSでしか起動できないとなれば、少し値段が高くても興味ある作品だけをスマホに落とせばいいと考えるのもおかしくないと思う。

Wi-Fi機能が終了してしまったので、読書後の評価機能が自己満足だけになってしまったのも寂しい。
実は新たに小説をダウンロードする機能もあったが、こちらも今は終了している。


総評

確かに、今DSで電子書籍を読む理由は薄いかも知れない。遥かに高性能なスマホが普及した中では、電子書籍の物珍しさもない。

しかし、本作には「本を読む楽しさ」が詰まっている。背表紙を見て、どれを読もうかワクワクする。帯や作者紹介はポップを読んでいる気持ちになる。
選んだ本を開くと、落ち着く音楽が流れながら出す。ゆったりと文章を読んで、1ページめくる。

本を読む行為をDSで再現しようと挑戦し、ほぼベストな状態にたどり着いたのが本作だと思う。
まずは公式サイトの収録リストを見て、興味がある作品が少しでもあるなら手に取って欲しい。
ある意味、本作だけでしか味わえない「電子書籍の楽しさ」を実感できるかも知れないから。


余談(DS文学全集ガチャについて)

前述の通り、本作のWi-Fiサービスは終了している。しかし、DSは本体では無くカードリッジにデータを保存する形式だったのでインストールしたデータは消されない限りカードリッジに残るのである。

Wi-Fiでダウンロードできた作品は多岐にわたる。四谷怪談のようなホラー小説から、探偵物や「アメニモマケズ」のような詩まで様々である。中には本作のためのオリジナル小説もいくつか配信された。(後にまとめて書籍化されているので入手できないわけではない)

Wi-Fiサービスが終了した現在、DS文学全集は新品より中古で入手する方が良いのである。だって追加作品がダウンロードされている可能性があるから。

ゲーム内で消すこともできるので必ずそうだとは限らないが、中古価格が高くないために少ない出費で挑戦できる。これが「DS文学全集ガチャ」である。

別に本作で読まなくても紙の書籍や電子書籍でいくらでも読めるが、「DS文学全集のUIで」読むにはこれしか手段がないのである。

別にやって楽しいことではないが、そんな変な趣味を持つ人もいるんだなぁ…というご紹介です。私はやってないけどね!ちょっとだけやったけど!


参考文献

DS文学全集の公式サイト。画像は全てここからお借りしました。

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