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「破壊も再生も今となっちゃあ全てが愛おしい。」その6.〜離婚はある日突然に。

その6.〜離婚はある日突然に。〜



とても愛されてたわ、あたし。



妊娠がわかってから旦さんは起業したのよ。


普通は止めるかもね、

「赤ちゃん生まれてからにしてちょーだい!」てね。


一か八か的なところもあるわよね、商売って。

最初は不安定なのだろうしね。




でも、あたしにはわかってたの。


彼がお給料で働いていた時から

この人は必ず凄い人になるって。



だから、全くもって不安など1ヨクトメートルも無かったわ。


....あ、ヨクトメートルは

最小の単位よ。


どうしてもコレで表したかったのよ。


時には知識をひけらかす事も

あたしには大切なことなのよ。


許してちょんまげ。



案の定、

旦さんの会社はあっちゅー間に大きくなったわ。



頭の回転が速く

冷静で

それでいて情に熱くてね。


口数の少ない男だったけど

人に好かれる人だった。



誰にも嫌われないのよ、旦さんは。


あたしなんて、

凄い嫌われるか

凄い好かれるかなのにさ。



皆んなが信頼する男は

それなりに大変だったのだと思うわね。



皆んなは彼をとても気に入っていたけど、

彼のお気に入りは見つからなかったのかも知れないわ。



旦さんの信頼できる人間は

あたしだけだったのよね。



娘のことはとても可愛いがっていた。


でも、時々、娘にこんな事を言う人だった。


〜ママが一番大切だから、あなたはその次だよ。



あたしは怒ったわ。


そんなこと言うもんじゃないって。


彼は一歩も引かなかった。


そして、最後までそれを貫いたわね。



その話しは娘のちょっとしたトラウマにもなっていたのにね。


「パパはママが居ればいいの、ハルはいらないんだ。」

そんなことを小さな彼女が言ったのよ。



彼女を抱きしめて

沢山の愛してるを伝えることしか出来なかったわ。





旦さんはあたしを愛し過ぎたのよね。




羨ましいですって?


とんでもないわ。




あたしは籠の鳥だったのですもの。


飛ぶには充分過ぎる大きさの鳥籠を与えて貰っていたのよ。


自由に空を飛んでいると錯覚するくらいの大きさよ。



ある時、籠の端っこに羽がぶつかっちまって、

それでようやく気がついたの。


〜嗚呼、ここは籠の中なんだ。




突然、息が出来なくなったのよ。

吸っているか吐いているかわからなくなるの。


度々それは訪れたわ。


体重が40キロを切ろうとしていたとき、

「もう無理なんやろ?」旦さんはそう言って

あたしの籠をそっと開けてくれたのよ。




旦さんは守ってくれてたのよ、あたしを。


だって籠の外は

大きな鷹やら何やらだらけで

あたしをいつも狙っていたのだものね。



籠をすっかり出てしまってからその事、

痛いほど理解したわ。



あたしは強い羽と

大きく羽ばたく力を身につけるしかなかったわ。



傷だらけになったわね。



でも、その度に

羽を休める場所が見つかるの。



あたしはやっぱりラッキーなのよね。



羽を休めればまた

羽ばたいて行くのだけども....






今でも旦さんのことは尊敬しているの。



素晴らしい男だと。



彼の妻であったことを誇りに思うもの。



次は、
〜当たって砕けてこっぱ微塵。



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