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「嗚呼、麗しのメンエス嬢」その4

〜紀子.48歳の場合


おはよー。


あ!そのライダース、

あたしと同じだ!

ZARAのでしょ?




服、好きなんだ、あたし。


昔さ、アパレルで働いてたの。


これでもマネージャーやってたんだよね。



結局、辞めなきゃいけなくなっちゃったけど。




理由?


身内の借金だよ。


うん、かなりの額あってね。


しゃーなしだよね。




デリと掛け持ちでメンエスやってるんだ、あたし。


デリヘルの仕事?

結構しんどいのさ。


体力的にね、キツくなってきたのよ。


で、メンエスもギャラ変わらないよーって聞いて、

試しにね、働いてみようってね。



昔はさぁ、

デリヘルもね、

それなりに稼げたんだよね。


ギャラも良かったしね。


今は昔みたいにはいかないさ。


年齢もあるし、

時代ってやつかなぁ?


デリやってた仲間も

みんなメンエスに流れてっちゃう。


まあねぇ、

同じくらいの額稼げて

抜かなくていいならメンエスのが楽だよね、

あたしたちにしてみりゃさ。



だけど今日、暇だねぇ〜



やることないと....辛くなっちゃうのよ あたし。



あ、コレ?

携帯2個持ちなんて別に珍しくないでしょ?



よく見てるねぇ。


....この携帯は...

うん....もう何処とも繋がってない。



でも、あたしにとっちゃ

命と同じくらい大事なんだよね。


うん、言い過ぎか。

じゃあ、命の次に大事なんだな、きっと。


そう、メッセージ、毎日見てるよ。




あたしね、凄く好きな男がいたんだよ。


もう、死んじゃったけど。



そう、その男とやり取りしてたの、この携帯で。


あたしさ、やつの死に目に会えなかったんだよね。


家族の居る人だったってのもあるよ、もちろん。


でも、毎日連絡取ってたしね。




家族のとこにもほとんど帰んないで


マンションをオフィスにしてたから、

あいつ、そこに普通に住んでたね。


だから、会いたい時はいつでも会えた。




一緒に暮らさなかったのかって?


うん、あたし お母さんと一緒に暮らしてんの。


かっわいいお母さんでさ、

大好きなんだよね、あたし。


ちょっと身体がね不自由でさ、

あたしが居ないとダメなんだわ、お母さん。


歳も取ってるしね。


あたしのこと大好きでさぁ、

あたしの仕事の休みを

指折り数えて待ってんのよ。


今度はいつお休みなの?ってね。


可愛くない?あたしのお母さん。


可愛いよね?




弟が一人いるよ。


今まではね、弟と二人でお母さんの面倒見てたんだけど....っても、弟は一緒に暮らしてないけどね。


でも、まあ、二人で見てたよ。



弟ね、

病気になっちゃってさぁ。


半年くらい前かなぁ。


難病なんだってさ。


死にゃしないけど、治らないってやつよ。



働けないからさ、

障害者手帳の申請しててね、

通るまでは何とか あたし、踏ん張んないとなってね。




ねぇ、神さまっていると思う?


あたしは、居ないと思ってんの。


少なくとも、

ここ4年はね....




だってさ、

身内の借金だけでも充分しんどいだろって話しよ。


なのに、お母さんは身体が不自由で、


大好きな人も死んじゃって、

弟まで病気になって........


神さま居たら、あたしをこんな風にしないよね?


流石にさ、あたしばっかりなんでって思ったよ。





彼ね、急に亡くなったのよ。


あたしたち、ほんと仲良しだった。


彼はあたしのこと何でもわかってたよ。

あたしも彼のこと、なーんでもわかってた。


そのつもりだった。


彼の亡くなる2週間ほど前....っても

正確にはわからないけどね。


だいたいその辺りかなって。


だって、息を引き取った日、知らないから。


あたしたちは良く口喧嘩してたのよ。

犬も食わない程度のやつよ。


時々いぢわるするのよ、あたしに。


あたし、少女みたいにふくれてさ....

もう、知らない!っとかってさ。


なんだろね?


やつの前だと可愛くなっちゃうのよ。


頑張らなくていいってのかなぁ?

彼はあたしに頑張らなせない人だったから。



車のドアを開けてくれるし、

お魚の骨まで取ってくれた。


あたしお姫さまだった。

彼の前ではね、ほんとお姫さまだったのよ。



その日はね、

またくだらない喧嘩をしたのよ。


で、3日ほど経てばね、

いつもみたいに彼からごめんねって謝ってくるだろうと思ってさ。


けど、3日経っても、

4日経っても連絡なくてさ。



忙しい時もあるからね、

そっとしてたんだよね、あたし。



そんな時はさ、

彼のSNS見たりして無事を確認してたりね。


便利な世の中だよね。



1週間経っても連絡なくてさ、

流石に心配になったんだけどね、


ほら、あたし、

姫だったからさ、彼の前では。


自分から連絡するの、

なんか悔しいじゃない?


しなかったのよ、だから。



SNSも更新されてなかったの。


なんかおかしいなって思った。



そしたらね、

彼を知ってる友達から連絡が来てね、

彼のSNSのページを見ろって言うのよ。



何だろって思って

とりあえず見てみたのよ、あたし。


そしたらね、

お悔やみのメッセージで埋めつくされてたの....



えっ?って

何が起こったの?って。


一つや二つのメッセージならね、

友達同士ふざけてるだけだって
笑えない冗談だけどそう思えたかも知れない。


でも、スクロールしても、しても

永遠にお悔やみのメッセージばかり続いてさ....

「安らかにお眠りください。」だの、

「もう苦しまないでいいんだよ。」とか、


何処の世界の話し?って感じで

全く信じてなかったの。



その友達がね、

方々聞いて回ってくれてようやく色々わかったの。

お葬式の日と場所とか......



それでもさあ、

何だろ、

ぜんぜん理解が追いつかないのよ。



だってさ、

この前まで笑ってたんだよ、やつ。


ふざけ合って、笑い合って....


なんで?なんでなの?ってね。



それでもさ、確かめたい気持ちもあったから、


お葬式の日、友達に付き添ってもらってね、

葬儀場まで行ったのよ。


そこ、
橋を渡ってすぐの所にある葬儀場なんだけどね、


橋、渡れなかったんだ、あたし。


橋をね、進んでくとね、

斎場の前に故人の名前書いてあるじゃない?


あれが見えてきたんだよ。


あたし、橋の真ん中でね

息が出来なくなったの。


これ、渡ったら終わりだって、

彼と本当にお別れしなきゃいけないんだって、

そう思ったら渡れなかった。



書かれた故人の名前も見ないで

橋を引き返してきちゃったの、あたし。


ごめん!渡れない!ってね....


友達に支えてもらわないと

まともに歩けやしないほどだったわ。




最後、くだらない喧嘩したこと後悔してないなんて言えないけど、後悔って感情とはまた違うんだよね、なんか。



あたしは、彼が亡くなったこと認めてないのよ、まだ。


だから、あたしの中では彼は死んでないの。


あたしの中の彼を死なせないの。



まだ、生きててくれないと、あたし....どうすれば....

どうすればいい?



借金あるし、

家族はみんな病気だし、

あたし、頑張らなきゃいけないし、

まだまだ頑張らなきゃいけないし....



今もね、

その携帯にメッセージ書いてる。



おはようって、

今日は、こんな事があったよって、

また明日ねって....



うん、毎日 連絡してる。



いつか返信あるんじゃないかって、

やっぱり、亡くなったのは嘘だったんだなって。


そんな日が来ても、来なくても

あたしにとって、この携帯が、

彼と繋がる唯一の場所なんだ。



だからこのままね、

繋がったまま

あたしが あっちの世界に逝くまでね、

このままにしてやろーかと思ってんのよ。



あっち着いたら、

あたし、めっちゃ怒ってやろうと思う。

やつを、めっちゃ怒ってやろうと思う。

酷いじゃないかっ!ってね。




既読の付かないメッセージが

もう四年分も溜まっちゃったよ。



笑っちゃうよね、まったく。



あーあ、

こんな話し、するつもり無かったのになぁ〜



何でだろ?

暇だから話しちゃったんだって思って許してね。


話し聞いてくれて、ありがと。


一緒に泣いてくれて

ほんとにありがとね。














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