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「触れられない男。」

昔々、
死ぬほど「欲しい」男がいたのよ。

あたし、基本
〜欲しいものは必ず手に入れる女。

....なのだけど、

唯一、指一本触れられなかった男がいる。

後にも先にも
その男だけよ。

あたしは欲張りだから
男の全てが欲しかった。

それは今思えば恋愛なんかではないなと思う。

何とも不可思議な男だった。

なんと言うか、
そのそれは

現実であって現実ではない世界、
そこの住人のような男。

確かにそこにいるのだけれど、
あたしの住んでる世界には居ないのよ。

あたしの世界の
隣にある世界、

そこにいる男には触れることすら出来なかった。

男は旅人のような風貌で突然姿を表し、
あたしの髪を撫でるだけ撫でて行ってしまった。

まるでフィルター越しのように
触れているのに触れていないのよ。

もどかしくて
もどかしくて
ちょっと切ない。

つく溜め息も色つきで、
なんてゆーかそのもどかしさも愛おしいわけで。

結局、男は
あたしに触れられることもなく

また別の世界で家族を作ったのだけどね。

こことは違う世界で、
なんとも幸せそうな顔をして笑う男の姿を見て

あたしもまた
今の幸せを噛み締める。

あたしたちはお互いが別個のパラレルワールドに住む住人のようね。

次の世界で巡り逢っても
やっぱり、あたしには指一本触れさせないで欲しいわね。

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