{小説} 「蓋閉じて海 深夜三時」
暗い部屋の中
聞こえて来るのは今の自分に寄り添ったような音楽
コメント欄に同情を集めて安心する
自分への罵声、期待が込められた嫌な音はもう聞こえない
音楽で思考を乱して
インターネットの広い広い海に溺れて落ちる深夜三時
今日もヘッドフォンを手に取った
周りは静か
誰の声も聞こえない
冬のキンとした寒さが肌を刺激する
頬を濡れたのをほっといて
濡れた手首をほっといて
床に散らかった甘くて苦いラムネをほっといて
投げ出したい人生
薄い希死念慮をほっといて
朦朧とする意識をほっといて
意識を落とす午前六時
音楽で蓋したくて
今日も耐えてく嫌な音たち
こんな僕を認めてもらいたいだなんて
欲望が溶け出す
何を考えているの? 僕
またわからなくなる
何を感じてるの? 私
感覚がない
嫌な音に飲まれてドロドロになって帰ってくる午後八時
また嫌な思考に飲まれて蓋をする午前三時
僕はまた涙で頬を濡らす
嫌なはずなのに今日も依存していく何も変わらない日常
その日常から抜け出したくて
濡れた手首
濡れた頬をほっといて
今の僕に寄り添った音楽は鳴りっぱなし
自分の空っぽでドス黒い心を置いてきて
生きる意味も見出せないまま
聴きなれたアラームで起床する
カーテンから入る綺麗な朝日を浴びて
慣れないスカートに身を通して
冷たい水で顔を洗って
焼き上がったトーストに齧り付く
深夜の汚い自分を忘れながら
今日も私はプリンセスだ。
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多様性の蜜
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