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{小説}天国は遠いね

ねぇねぇ知ってる?
なになに?
あの森でいろんな人がいなくなってるらしいよー!
えー!怖いね
ねー!近づかないでおこうね


――――――――――――――――――――



森に向かった
何故かはわからない
何かに逃げたっかたんだと思う
私は森に向った。
いつもは人けがないところ。

今日は誰かいるみたい
ザクザク
パラパラ
シャンシャラン
音が森にこだました
午後五時
明るい夕日が足元を照らした。

シャンシャラン
シャンシャラン

音が近づいてきた
夕日の光の間から影が出てくる
「誰?」

反射で質問をした。

「誰かな私が見えるのかい?珍しいね」
「見えるよ。はっきりと」

「あなた、人間みたいに話すのね。」

冬の乾燥でボロボロになった唇から漏れた。

「この角本物?かっこいいね、青くて。」
「そうかい、初めて言われたよ。ありがとう。」
目元が釣り上がる

「ここでは危ないだろう、少し歩かないか。」
「うん。」

「なぜ君はここにいるんだ、これから暗くなる。しかも十二月に裸足で森に来るなんて。」
「わからない。気がついたら外にいてこの森に来ていたの。でも懐かしい場所な気がする、、思い出した。ここは小さい時にみんなと遊んだの。今と違って外で元気に遊んでた。」
「そうかい。無意識のうちにここに来たんだね。」
「そうかも。」

この子は、、十三歳か?幼い言葉使いから推測した。
しかしこの子には生きる覇気が無い。普通ならあるものなんだけど。
手首にある鈴に手を当てがいながら考えた。

ザクザク歩み続ける

ザクザク
パラパラ
シャンシャラン

雪が降ったのか雪を踏む音が楽しい。
霜焼けで足が赤くなる
感覚がなくなってきた

「あなたは人間なの?」
「さぁな。人間じゃないかもしれない。でも人間に近いものかもしれない。」
「へぇ。」
「自分で聞いといて興味無さそうだな。」
「難しいことは分からないよ。」

なんだか心がふわふわする。少し話したからだろうか。
さっきまでの黒いモヤが晴れそうだ。



 

この子は私が見えているのか
はっきりと
しかも喋れる
相性がいいかもしれない

攫ってしまおうか

歩きながら考える
小柄な背丈に小綺麗な制服
入学で仕立てたのかしわが無い

少女を見ながら考える
夕日に向かって歩く

ザクザク
パラパラ
シャンシャラン

「ねぇいつまで歩くの?」
「もうちょっとだよ」
「もうちょっとってどのくらい?」
「もう少しだな」
「はぐれないように手を繋ごうか」
生ぬるい体温が伝わった。

足が悴んで痛い
夕日の光に向かって歩く
目の前に鳥居が見えた

「あれ?ここに鳥居なんてあったっけ?」
生ぬるい体温を感じながら目の前の誰かに言う
「どうだろう?最近できたんじゃないか?」
「そう。」

透き通った青色の鳥居を抜ける

空気が変わった気がする
十二月なのに暖かいような、生ぬるい感覚が肌にまとわりつく

ここにいていいのか
戻れない気がする
心の奥に違和感を覚えた

帰ろうと思い足を元来た方向に足を進める

「何故?戻ろうとするんだ。」
頭に響く低音がこだまする
足が重くなった
腕を掴まれる
関節からちぎられそうで痛い
腕に爪が食い込んだ
「お前は生きる希望も感じないからここに来たんだろう?」

口が三日月のように笑った

最近聞いたような気がする
ここの森で人がいなくなる事件があるって

背筋が凍る

「まだ怖いのかい?大丈夫。ここに君を傷つける者はいない。天国のような場所さ。」

甘ったるい声が聞こえる
気持ち悪い
居心地がいいのにどこか不安がある

「行こうか、中に。冷えているだろう。」
雪でふやけた足をとり、手を引かれながらついていった。
まぁ、少しなら大丈夫だろう。

建物の中に入る
木造で作られていた
和室にはソファとかテーブルとかあって和洋折衷な感じの部屋

神社ってこういうところなのか?考えながら歩く
雪のせいで床に足跡がつく
「なんか汚している気がする」
「大丈夫だよ。掃除好きの使用人が居てね。きっと片付けてくれるよ。」

使用人がいるのか
こいつはここに住んでるんだな
確かに広いし1人では大変か
周りを見渡す

トタトタ
シャンシャラン

「ついたよ。少し散らかっているけどね。」
「お茶を出すから待っててくれないか?くつろぐといい。時間はたくさんある。」

暖炉とソファがあった。暖炉の火が心地良い私が住んでいたところでは見ない家具が揃っていた。
あれ、私ってどこに住んでたっけ?まぁいいか。
思考にキリがかかる

奥には使用人らしき人が立っていた
どこかで見た顔だ。

ソファでくつろぐ
使用人の顔を見る
黒のワンピースを着ている
目を合わせたと思ったら避けられた

思い出した
テレビで行方不明になった子だ。
目の下のほくろが特徴的だった気がする。

「ねぇ。」
「この前近くの森であいつに会ったでしょう?」
「、、、。」
「答えてよっ。」
俯いたままだった。

この使用人もあの森で迷ったのか
私みたいに生きる希望もないんだろう。
あいつの言葉が脳をよぎる
みんな無かったのかな
ここで使用人として居ることが生きる希望を見出しているのか
弱いところに漬け込んでいる気がして吐き気がした。
ここから出たいけど

まぁいいか、もうちょっと。

出された紅茶を手にした
カチカチと和室に似合わない洋風の時計の針が鳴る。

血の流れる音がする

トタトタ
シャンシャラン

「お」
「紅茶飲んだのかい?」
「どうだ?庭で採れたものを使っているんだ。」
「おいしいね。」
「ところで聞くが、ここで使用人として働くのはどうだ?」

お腹が気持ち悪い、掻き回される気分になった。
ここで使用人として働くということはこいつと長い間一緒にいるんだと自覚した。
そんなの嫌だ。そんなの私にとって酔生夢死じゃないか。
カップを雑に置いて部屋を飛び出した。
後ろから足音が聞こえる

トタトタ
ドタドタ
シャンシャラン


鳥居を抜ける
霧が晴れた
目が眩む
足がすくむように重くなった

目の前にあいつがいる
「おい、あそこに引き返してどうする?」
「お前には生きる希望もないんだろう?」
「引き返して何になる?」

あいつの声が聞こえる
甘ったるい、洗脳されそうな声

私には生きる希望はないんだ
はっきりそう自覚した

特徴的な角が光る

“生きる希望もないんだろう?“
リフレイン
リフレイン
そうだ私には生きる希望が無い
あの家に戻るのか
違う、使用人として一生を捧げるんだ

あいつのところに戻った。
三日月のように笑った口を見る
抱きついた

不安と安心が脳みそを駆け回る

「よく来てくれた。戻ろうか、私たちの天国へ。」
青の鳥居をくぐった。
生きる希望が沸々と煮えかえる

トタトタ
シャンシャラン
トトト

手を繋いだ
暖かい
何色のワンピースを着ようかな

ニュース番組をつける
暗くなっても娘は帰ってこない
「速報です。今日五時頃、一人の少女が行方不明になりました。
場所はXXXXの森です。情報が集りしだい_____」

今日も青のワンピースで紅茶をいれる
私には生きる希望がふつふつと湧き出ている

前の記憶なんて、   。




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