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{小説}臨界思考

夢はクスクス
火照りは誉れ

西の夕焼けが海を照らす
電車から無数の鳥の鳴き声が聞こえた後
少女は目を閉じた

足を止めたなら
話しを止めたなら
注意をこっちに向けてビー玉のような透き通る瞳を見たなら

いつか恐れていた
あなたを失うことを
でもどこかで覚悟していた、いつかは終わりが来る
いつかは君を手放す瞬間が来るとどこか心の中で悟っていた

学校の屋上
誰もいない教室で2人きり
カフェで2人並んでいる時
暖かい体温の残る手のヒラを合わせ体温を共有する時
幸せを感じていた
これだけの幸せがあるかと
独占欲と多幸感を抱きながら寂しさも感じていた
もし君が蝶のようにどこかひらひら行ってしまうんじゃないかと

生暖かい心臓を抱えながら君との時間を過ごした


今日はいつもより心臓が冷えていた
あなたがいなくなっちゃうんじゃないかと不安でいつもより手を強く握った

はずだった

あなたは夕焼けに向かって
線路に行った
私の方を向いて寂しそうな笑顔を向けて
いなくなってしまった
あの時何か言っていたが無数の鳥のせいで聞こえなかった

あなたがいない日々はとても冷たかった
いつも手のひらの体温は冷たいし
それを温める相手もいない

私はあなたの体温を求めて
いつもの見慣れた道を歩く

目の前の現実を抱えきれない心を持ったまま

私は無数の鳥の声を聞く
さっきまで辿ってきた道は記憶にない

刹那 大人の汚くて大きい声が聞こえる

私は気づく
無意識にあの時あなたを失った線路の上にいることを
私は思い出すあなたを失った時のあの赤いザクロの海を
私は安堵する今あなたの元へ行けると
私は思うやっと一つになれたと

もういいや

西の夕焼けが海を照らすころ
私は無数の鳥の鳴き声を聞きながら

あなたを思い出す

最後に暖かいザクロとあなたの体温が重なった気がした。

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