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ゆうちゃん

「最後に抱っこさせて」
「いいよ」
そして私はもうすぐ遠くへ行ってしまう「ゆうちゃん」を抱っこしました。

あれから16年経ちました。ゆうちゃんも息子と同じ様に社会人になっているのでしょうか。

ゆうちゃんとの出会いは、息子が幼稚園に通い始めたばかりの頃でした。
その日は幼稚園に早く着いてしまい、正門が開くのを息子と外で待っていました。

すると、誰かがそっと私の手を握ってきたのです。
小さな柔らかい手でした。
見ると、ゆうちゃんと言う女の子でした。
照れた様に私を見上げています。
「すみません。」と付き添っていた若い女性が言いました。
近所にある愛児園(養護施設)の先生でした。
「いいんですよ」と私は答えて、正門が開くと、ゆうちゃんと手を繋いで幼稚園の入り口まで歩きました。

「おはよう!」と幼稚園の先生の所へゆうちゃんは走って行ってしまいました。

2歳違いの妹が生まれてから息子はすっかりお兄ちゃんになり、私とは手も繋がないし、抱っこをせがむ事もなかったのです。
ですから息子はゆうちゃんが私と手を繋いでも焼きもちを焼くことはありませんでした。

息子も「じゃねー!お母さん」と言って園舎へ入って行きました。

ゆうちゃんは事情があり、お母さんと離れて愛児園で一時的に暮らしていたそうです。

なぜか私に懐いてくれて、その後も時々私と手を繋いだり、「抱っこして」とせがんだりしました。
そんな時は、私はゆうちゃんを抱っこしてあげました。
軽くて、柔らくて本当に小さな女の子でした。

卒園式の時、お母さんが迎えに来ていました。
とても若くて、でもしっかりした感じのお母さんでした。
ゆうちゃんは
「お母さんと富士山が見える所で暮らすんだよ」と言って元気に去って行きました。

今頃ゆうちゃんはどうしているでしょうか?私と手を繋いだ事を覚えているでしょうか?


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