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輝く宝石の原石

ある日、大学の後輩からLINEがきた。

"本当にゼミをやめたいんですけど…"

相談ということで、
ZOOMで話を聞いてみた。

なんでも、
周りの仲の良かった子が
みんなやめてしまって
話せる人がいない。

毎回の発表で、
先生から厳しいコメントが来るから嫌だ。

ということだった。

確かに、彼女の所属しているゼミは
大学の中でも研究に対して厳しく、
途中で離脱する学生も少なくなかった。

やめることは、悪ではないと感じたので

「やめてもいいんじゃないの?」

と、伝えた上で

「研究は嫌いなの?」

と聞いてみた。

すると

「研究は好きです」

と、彼女は答えた。

そのとき、僕は
なにか宝石の原石を
見つけた気がした。

「やめるのは全然いいと思うけど、
せっかくなら、やりきってからやめたくない?」

彼女に聞いてみた。すると

「本当はそうなんですよ…」

と答えた。

その次の週から
1対1の勉強会がはじまった。

 * * * 

彼女は教育社会学を
やりたいと言っていた。

しかし、ゼミの発表のレジュメを
見せてもらうと、

研究の領域も引用の書き方も
問いもぐちゃぐちゃだった。

日本の中等教育の研究なのに
サッチャー政権の経済政策について
力説されていた。

正直、先生に厳しく
言われるのも無理はない。

僕は教育社会学の専門家ではないけれど
「社会科学」の中に「社会学」があってね…
そこから説明した。

でも、伝えたことの吸収は
とても早かった。

1週間後には、自分の研究分野の
先行研究を3冊も読んできた。
なにやら苅谷剛彦さんに怒っていた(笑)

もともと小・中・高と不登校を経験したらしく、
教育の研究に対してとても切実に向き合っていた。

研究を自分のアイデンティティのための
記号として消費しかけた僕には
持っていない切実さだった。

 * * *

先にも書いたように
僕は教育社会学に詳しいわけではないので
彼女の研究が進んだら
僕の役目は終わると思う。

これは僕のエゴをかもしれないが
ぜひ研究が好きな彼女が
研究で輝く瞬間を見てみたい。

原石が磨かれて宝石になる瞬間を。



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