小型竜の「ドス化」という生存戦略
動物における「群れ」とは、多数の同種個体が統一された行動をとる集団である(※たまに異種も混ざることがある)。
現存する哺乳類の群れには、狩りや集団移動時に他個体を統率する「リーダー」が存在する場合が多い。哺乳類の群れでは、体サイズが大きく戦闘能力が高い個体(オスの場合が多い)がリーダーとなり、リーダーを頂点としたピラミッド型の社会構造がみられるという特徴がある。
一方、現存する爬虫類・鳥類の系統にも群れで活動を行う種は存在するが、群れの中には、明確なリーダー(ボス?)は存在しておらず、哺乳類でみられるような社会性も認められない。しかしながら、モンハンシリーズに登場する爬虫類の内、小型鳥竜および牙竜の系統には、絶対的なリーダーによって統率された群れで生活を営む種が複数存在する。
以上のように、ドス個体の存在は、異なる2つの系統で認められていることから、個体の「ドス化」は、複数の系統で収斂して進化した性質であると考えられる。本稿では、各系統で「ドス個体」が出現する仕組みについて、形態学、生態学および進化学的視点から考察してゆく(ドスファンゴとドスガレオスは、群れを率いてなさそうなので例外とさせてください >_<)。
まず、一般的な爬虫類の特徴として、
体サイズは死ぬまで大きくなり続ける。
メスは、受精せずとも定期的に排卵を行いエネルギーを消費するため、オスよりも寿命が短い。
雌雄の体サイズが同等でなければ、交尾の失敗率が上がる。特に体サイズの大きいオスは、生殖器官がメスの総排泄腔内に入らないため、交尾がほとんど成功しない。
などが挙げられる。
以上より、爬虫類では、歳を重ね体サイズが大きくなりすぎたオスは、自身と同等の体サイズのメスがいない場合が多く、交尾を行なって子孫を残すことがほとんどできないことが推察される。筆者は、爬虫類全般にみられるこの特徴が、一部の鳥竜および牙竜におけるドス化の由来であると考える。
なぜ、群れをつくる小型鳥竜および牙竜では、ドス化という戦略が選択されたのだろうか。筆者は、「ドス化とは、物理的に生殖行動を行えなくなったオスが、その体を戦闘行動に特化したものにつくり変えること」であると考える。群れの中で大型化したオスは、子孫は残せないかもしれないが、巨躯ゆえに他個体と比べ戦闘能力は高い。そういった個体がドス化してリーダーとなり、狩りや天敵に対する戦闘の最前線に立つことで、群れを護りながら統率することができると考えられる。自身の子孫を残せなくなった個体が戦闘専門のドス個体となり、リーダーとして闘いながら群れを護ることが、群れ、ひいては種の生存に有利な戦略として、進化を通して選択された可能性がある。
哺乳類の群れにおいて、リーダーは常に1頭であり、その座を巡ってたびたび個体間での闘争が起こる。一方、小型鳥竜や牙竜では複数のドス個体が同じ群れの中に共存することができる(二体同時討伐クエストなど)。このことから、各系統のドス個体は、哺乳類のように社会性に基づいて出現するわけではないと判断され、この事実も、ドス化(リーダーの出現)が生体内外の物理的変化によってもたらされる可能性を高めている。
群れをつくる牙竜系統であるジャグラスにおいて、ドス個体が担う役割は戦闘のみではない。ドスジャグラスは、通常のジャグラスと異なり、きわめて大きな腹部をもつとともに、仕留めた獲物を一気に丸呑みして腹部に収めるという生態を有している。獲物を捕食したドスジャグラスは、群れが集まる縄張りまで移動し、そこで捕食した獲物の一部を体外へ吐き戻してジャグラスたちに分け与える(※詳しくは「モンスターハンター大辞典 Wiki」を参照)。ジャグラスでは、ドス個体が狩りから餌の確保までの一連の行動を行うことから、通常個体は狩りのためのコストをほとんど支払う必要がない。ジャグラスにおける「ドス化」は、群れを生存させる性質として、他の鳥竜および牙竜系統のそれよりも合理的に進化していることは興味深い知見である。
現時点では、リーダーが群れを統率するという爬虫類の系統は知られていない。しかし、今後の爬虫類の進化では、ドス個体がいる鳥竜および牙竜のように、リーダーによって統率される群れを構成する系統が出現するかもしれない。モンスターハンターは、生物進化の今後の可能性についても、前衛的な視点を提供してくれるゲームである。
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