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飛竜における翼の形態進化

 数ある脊椎動物群の内、爬虫類、鳥類および哺乳類は陸上への高度な適応を果たしたグループであり、現存するその種数は23,000種を超えると言われている [1-3]。彼らが陸上環境に適応する中で獲得された独創的な形質の一つとして、空中のニッチを利用するための飛翔装置である「翼」が挙げられる。現在までに、翼による動力飛行を行えた系統は、鳥類、哺乳類であるコウモリ、絶滅した爬虫類である「翼竜(プテラノドンなど)」である。これら3グループが獲得した翼の形態は、それぞれ異なることから、各グループがもつ翼は収斂進化したものであると考えられる。

図1. 翼竜、コウモリおよび鳥における翼の形態
翼竜では、第4指が伸長し、第4指と脛の間に飛膜が張ることで翼が形作られている。コウモリでは、第2~5指が伸長し、その指間に飛膜(指間膜)が張るとともに、第5指と脛の間にも飛膜(体側膜)が張ることで翼が形作られている。鳥では、上腕、前腕、手の後方に風切羽と呼ばれる羽根が整列することで翼が形作られている。翼竜では第5指が、鳥では第4および5指が消失している。I-Vは各指を示す。図は、Wikipedia内のものを改変。

 モンハンシリーズに登場する飛竜もまた、進化の中で翼を獲得した1グループである。飛竜の系統は、爬虫綱竜盤目竜脚(形)亜目に属することから、飛竜の翼もまた、上記3グループとは別に収斂進化したと考えるのが妥当である(飛竜の系統の詳細は「モンスターの系統分類」を参照)。
 現存する全ての飛竜種は、「ワイバーンレックス」から分岐・派生したと考えられている。ワイバーンレックスの前肢では、第4および5指が前腕の外側方向に伸長するとともに第4~5指間に飛膜が張ることで翼が形作られている。原始的な竜脚形亜目のグループとして知られるテコドントサウルスやアンキサウルス類、プラテオサウルス類の前肢には独立した5本の指があり翼は見られないことから、ワイバーンレックスの翼は、原始的な竜脚形類がワイバーンレックスへと進化する過程で獲得されたものであると考えられる [4-8]。

図2. ワイバーンレックスの外部形態の復元図
ワイバーンレックスの前肢では、第4および5指が前腕の外側方向に伸長し、第4~5指間に飛膜が張ることで翼が形作られている。I-Vは各指を示す。赤矢印で示した突起には、ケラチン質の爪が見られないことから、これは指ではなく橈側手根骨が隆起したものであると考えられる。青矢印で示した突起から前肢にかけての飛膜内には指骨が見られないことから、この突起は爪ではないと思われる。ピンクの破線内は第4および5指骨があると思わしき領域を示す。

 復元図を観察すると、伸長した第4および5指の間に飛膜が張ることで成るワイバーンレックスの翼は、翼竜、コウモリおよび鳥の翼とは形態が大きく異なっていることが分かる。続いては、ワイバーンレックスから分岐・派生した各現生飛竜の翼がいかなる形態をしているかを観察する。

図3.現生飛竜における翼の形態比較
Aは火竜リオレウス。Bは轟竜ティガレックス。Cは迅竜ナルガクルガ。Dは角竜ディアブロス。リオレウスでは、第2~5指が伸長し、第2~5指間および第5~前腕および上腕間に飛膜が張ることで体幹部ほどにもなる巨大な翼が形作られている。ティガレックスでは、第4および5指が前腕の外側方向へ伸長し、第5~前腕間に飛膜が張ることで翼が形作られている。ティガレックスは祖先であるワイバーンレックスの形態的特徴を色濃く残すと言われているが、両種の翼の形態は異なっている。ナルガクルガでは、第4および5指が前腕の外側方向へ伸長し、第4~5指間および第5~前腕間に飛膜が張ることで翼が形作られている。ディアブロスでは、第3~5指が前腕の外側方向へ伸長し、第3~5指間、第5~前腕および上腕間に飛膜が張ることで翼が形作られている。グラビモスの系統はディアブロスの系統に近縁であり、本2系統は同様な形態の翼をもつ。

 以上より、現生飛竜グループではその生活史に合わせて翼形態が多様化していることがわかる。このような翼形態の多様化は、翼竜やコウモリ、鳥には見られないことから、飛竜の翼はこれら3つのグループのそれと比べ、進化的制約が少なく、進化・多様化しやすいのかもしれない。今後は、モンハンシリーズ内で翼を獲得したもう一つのグループである鳥竜の翼の形態進化についても考察していきたいと思う。

【引用文献】
1. Hedges SB and Kumar S (2009) The Timetree of Life. Oxford University        Press, New York, USA.
2. Sumida SS and Martin KLM (1996) Amniote Origins: Completing the Transition to Land. Academic Press, San Diego, USA.
3. Pough FH and Janis CM (2018) Vertebrate Life (10th ed.). Oxford University   Press, New York, USA.
4. Benton MJ, Juul L, Storrs GW, Galton PM (2000) Anatomy and systematics of the prosauropod dinosaur Thecodontosaurus antiquus from the upper Triassic of southwest England. Journal of Vertebrate Paleontology 20, 77-108
5. Yates A (2003) A new species of the primitive dinosaur Thecodontosaurus (Saurischia: Sauropodomorpha) and its implications for the systematics of early dinosaurs. Journal of Systematic Paleontology 1, 1-42
6. Mallison H (2010) The digital Plateosaurus II: An assessment of the range of motion of the limbs and vertebral column and of previous reconstructions using a digital skeletal mount. Acta Palaeontologica Polonica 55, 433-458.
7. Stefan R, Heinrich M (2014) Motion range of the manus of Plateosaurus engelhardti von Meyer, 1837. Palaeontologia Electronica. 17, 10.26879/428.
8. Galton PM (1976) Prosauropod dinosaurs (Reptilia, Saurischia) of North America. Peabody Museum of Natural History, Yale University, USA.


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