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夜の公園にて さくら猫 あまちゃんの独白

寒い冬の夕暮れ
いつもの所で、りっちーさんと

いつものようにりっちーさんが僕を呼んでる。
実はさっき毎日ご飯をくれるチトさんが来て、おなかは減っていない。けど、小走りで出て行くよ。
りっちーさんが石のベンチに座って、おいで、する。好きな人に会うと、しっぽがピンと立つよ。何でかな。猫って面白いな。って僕、猫だけどね。
ひらりとりっちーさんの膝の上に飛び乗ると、りっちーさんは笑いながら、僕を抱き寄せる。りっちーさんは僕を優しく撫でてくれる。気持ち良くて、ぐるぐる言っちゃう。気持ちいいときや嬉しいとき、喉が鳴るんだ。ブラッシングされるとゴーゴーっていうときもあるよ。不思議だね、猫ってさ(笑)。
紐とか、猫じゃらしとか、ネズミの人形とか、りっちーさんは色んな物で遊んでくれる。めちゃ楽しい。
りっちーさんは食べる?って言いながらチュールを見せる。
食べるさ!チュールは別腹だもの。チトさんがご飯を毎日持ってくることを、りっちーさんは知っている。だからチュールは一本だけね、って言うんだ。ちぇ、もっと食べたいのにな。
早朝は、ちくわのおいちゃんって呼ばれている人がご飯をくれる。最初はちくわばかり持ってきてくれて、それはそれで美味しかったんだけど、誰かからちくわは塩分が多いからダメ、って言われたんだって。だからちくわのおいちゃんだけど、今はカリカリをくれるおいちゃんだよ。かつおの燻製とかもくれるときがあるんだ。優しいおいちゃんなんだ。
でも僕、結構食いしん坊だから、すぐお腹すいちゃう。へへっ。
りっちーさんは、仕事が休みの日(ってりっちーさんが言ってた)、お昼頃に来てくれるときがある。そのときはたくさんごはんを食べさせてくれるよ。お刺身とかもくれるんだ。美味しいよ。お魚は大好きなんだ。

りっちーさんの膝の上でチュールを食べたら、りっちーさんは僕を毛布でくるんでくれる。そして、いつものように色んなお話をしてくれるよ。猫の僕にはよくわからないこともあるけど、ちょっと低いりっちーさんの声が僕は好きだな。猫は大きな声や、甲高い声は苦手だからね。
公園の近くに大きな工場があって、たかい煙突があるんだって。夜、時々その煙突からオレンジ色の炎が出るんだって。
今日も炎が出てるよ、綺麗だね、ってりっちーさんは言うんだ。僕は視力があまり良くないし、オレンジ色って色は、多分僕たち猫には見えない色だと思う。でもりっちーさんがそう言って、僕の顔にほっぺをくっ付けてくると、僕にも、綺麗なオレンジ色の炎が見える気がするのは何故かな。


じゃあ、あまちゃん、またね。

りっちーさんがそう言って、僕の背中をトントンしたら、そろそろりっちーさんが帰る頃。
また明日ね、ってりっちーさんは言って、僕の頭を撫でる。
僕もそろそろ夜の見回りの時間かな。
りっちーさんの膝から降りて、パトロールに出かけるよ。

あまちゃん、また来るね。待っててね。

りっちーさんの声を背に、僕は歩く。
りっちーさんは、また心配そうな顔で僕を見てるんだろうな。

大丈夫、また明日、僕はここにいるよ。
きっと…。
でももし、僕がりっちーさんの前に現れなくなっても、
りっちーさん、どうか泣かないで。
僕をお家に連れて帰れなくてごめんね、ってりっちーさん、いつも言ってるね。
世界中にあまたいるお外猫達、分の一の存在、それは僕の運命。
だけど、たくさんの人達が僕にごはんをくれて、ノミダニのお薬もつけてくれて、冬は植え込みの中にあるハウスの中に毛布を敷いてくれて、僕を育ててくれた。
僕はラッキーなんだと思う。だから、ありがとう。
ありがとうしか言えないよ。


りっちーさん、もし、僕がここにいなくなったら…。
どこかのお家にもらわれたって思ってね。

冬はあったかくて、夏も暑くなくて、僕に石を投げる人なんていなくて、恐いカラスも虫もいなくて、美味しいご飯をいつでもいっぱい食べられて。
とても幸せに暮らしている、って思ってね。

あまちゃん。

りっちーさんが呼ぶから、もう一度だけ振り向くよ。
僕は猫だから、ひとりでも平気なんだ。寂しくなんかないんだよ。心配しないで、大丈夫だからね。
じゃあね、りっちーさん。
僕、パトロールに行ってくるね。

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