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祈り part2

結局、獣医さんとの約束の時間まで、しろちゃんは姿を現さなかった。
ママさんと友人と三人で、付近を探し回ったが見つからず、ちょうど三十分ほど前に、獣医さんから遅れそうとの電話をいただいたので、その時点で一旦お断りをした。
翌日、私は仕事が休みの日なので、午後一番にまた来てもらうようお願いした。

ここ数日の、しろちゃんの辛そうな顔を思い浮かべると、切なかった。

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翌日は、朝から激しい雨が降っていた。
朝早くに飲食店に行ってみたが、しろちゃんは見つからない。
2時間ほど後にも、また出向いて探し回ったが、やはり見つからなかった。
11時頃、また行ってみた。
雨が激しくて、出て来れないのだろうか。それとも、もうしろちゃんは生きていないのではないかと、胸が騒いだ。
左隣りのビルの駐車場、右隣りのクリニックの敷地内でも見かけたことがあるので、探し回った。
その日は祭日だったので、クリニックは閉まっている。
クリニックの駐車場を抜けようとした時、クリニックの玄関先に白い色が見えた。
しろちゃん。
クリニックの玄関のマットの上に、身を縮めるように座っている。
そろそろと、静かに近づいてチュールを差し出してみた。
しろちゃんは、チュールを半分ほど舐めた。
体は濡れていないようだ。どこかに潜り込んでいたのだろう。
さあここからだ。
持って来た洗濯ネットを取り出すと、しろちゃんは気配を察したらしく、逃げようとした。
すかさずしろちゃんの身体を押さえて、なんとか確保出来た。
私が素早かったのではなく、しろちゃんはもう逃げる元気さえないように見えた。たいして暴れることもなかった。
獣医さんの指示通り、洗濯ネットごとダンボールに入れた。
終始、胸がドキドキしていた。
ダンボールが濡れないよう、いつもしろちゃんたちがいる飲食店裏の物置に置いて、獣医さんを待った。
寒くないようにと思い、使い捨てカイロを入れ、毛布も敷いてある。
何度も中を覗き込んで、洗濯ネットの上からしろちゃんの鼻先や額を撫でた。
洗濯ネットの中で、しろちゃんは身を固くしているような感じだったが、時間が経つにつれ、少しくつろいだ姿勢になっていった。
最後の方は、撫でるとごろごろと喉を鳴らした。
ダンボールの中は、暖かくて暗くて狭くて、しろちゃんにとっては落ち着けたのかもしれない。
獣医さんが来るまで2時間近く、私は傘をさしてしろちゃんの近くに立っていた。
雨が激しくて、傘をさしていても濡れてしまうほどだった。

やっと獣医さんにしろちゃんを渡せた時は、本当にほっとした。

かなり痩せてしまっている。ひょっとしたらダメかもしれないと獣医さんは言った。
赤ちゃんも、多分ダメだったのではとも言った。
もし回復したらどうしますか?と問われたので、避妊手術をお願いする旨伝えると、その後はどうするのかとさらに聞かれた。
ここに戻すしかありません。私は公営住宅に住んでいて、飼うことができないので。
そう言うと、獣医さんは、じゃあ回復して避妊手術が終わったら、私が引き取って里親を探しましょうと言ってくれた。
思いがけない言葉だった。
勿論、即座にお願いした。
他にも手術が必要な子がいれば、連れて帰ると獣医さんは言ってくれたが、その時私が触れるのはしろちゃんだけだったし、大雨のせいか他の子は見当たらなかった。

お家の中で、美味しいご飯と安心と、飼い主さんからの愛情をもらえたら。
しろちゃんが幸せになれる。
本当に嬉しかった。

家に帰って、すぐに私は眠ってしまった。
昨日から眠れなくて、何度も行き来し、雨の中2時間も立ちっぱなしで、疲れていた。

眠りに落ちながら、しろちゃんのあの美しい瞳を思い浮かべていた。
希望が見えたと思った。

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