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祈り part3


1週間後、獣医さんに電話をした。
しろちゃんは食べたり食べなかったりで、点滴もしているけれど、なかなか風邪も治りきれないと獣医さんは言った。
おっぱいを吸わせた痕跡は、やはりないとのことだった。死産だったのか、うまく育たず死んでしまったのか。ひょっとして赤ちゃんを助けようと、ご飯も食べずに必死にお世話をしているうちに、自分が病気になってしまったのかも知れないとも思った。
外での悪い環境の中で、出産し赤ちゃんを育てるということは、やはりかなり大変なことなのだろう。
心配だったけれど、もう私にできることはない。
しろちゃんの生命力を信じるしかない。
不思議なご縁で出会ったしろちゃん。
あの綺麗な瞳に、魅入られてしまった。
あの金眼銀目の瞳が、永遠に閉じられてしまう日は、ずっとずっと先の話でありますように。

そう祈るしかなかった。

前回の記事

しろちゃんを獣医さんに預けてから、ちょうど2週間後。
獣医さんから電話があった。
今朝しろちゃんが…。
2、3日前から、暖かい毛布の上を嫌がって、トイレの中に寝てたりしてたんだけど。
昨日、私の顔をじっと見つめてね。
寒いところがいいの?って聞いたら小さく鳴いてね。
毛布の上に戻したけど、やっぱりトイレで寝たいみたいで。
今朝そのまま、トイレの中で死んでいました。
女性の獣医さんは、優しい口調でしろちゃんの最後を話してくれた。

しろちゃんが横になって、目を閉じている姿を想像した。
華奢な白い体は、2度と動かない。
あの綺麗な瞳は、早くも永遠に閉じられてしまった。
これが、お外猫の過酷な運命なのだろう。
幸せな家猫になれる日は、間近だったのに。
悲しくて、残念でたまらない。

しろちゃんがいた飲食店の敷地には、しろちゃんの兄弟や、しろちゃんの産んだ子供たちが数匹暮らしている。
しろちゃんの子供の白猫ちゃん。
美人。この子は少し怖がり。
同じく、キジ猫君。
やんちゃで、かなりの甘えん坊。
しろちゃんの兄弟と思われる、黒猫母さん。
いつも思慮深く私をみつめる。とても物静か。
やはりしろちゃんの兄弟の、キジ猫母さん。
只今、正体不明のおばさん(私)の品定め中?
他にもチビたち。
それぞれに個性があって楽しいけれど、勿論単純にそうと言ってもいられない。
聞けば、ママさんもそろそろ引退を考えていると言う。すぐ隣にお住まいがあるので、猫たちの面倒は見るつもりだとは言うが、飲食店は取り壊す心づもりのようである。

さて。
お外の猫たちのため何か出来ることを探そうと、老後の目標に掲げてはいたが、少し前倒しで、活動することになるかも知れない。

しろちゃんを幸せに導いてあげることは、できなかった。
しろちゃん以外にも、悲しいお別れを幾度か経験した。
小さな命の灯火が揺らいでいるのに、何もしてあげられなかった。
ただ心配して、祈るしかなかった。

私に出来ることなど、たかが知れているだろうし、ひょっとしたら、何も遂げられない可能性もある。

だけど道が見えた。
その道を進むしかないように思う。
一歩を、踏み出さなければいけない気がする。

ただ、祈るだけではなく。

それでも、祈りと共に。


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