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招かざる訪問者との物語⑤

【家族団欒 長女からの大事な話】No5
我が家のマンションは、玄関ロビー前にバス停があり、最寄り駅迄は、バスで10分。マンション一階には、スーパーがあり2年前に新築で購入したのだが、利便性は申し分無い。エントランスには、大きな杉の木が聳え立ちこのマンションのシンボルを成している。

「ただいま。」玄関のドアを開けると、愛犬ゴウが尻尾をグルングルと回しながら駆け寄ってきて飛びついた。全身から歓迎の気持ちをぶつけてくるゴウを抱き寄せそんな愛犬の喜びに応える。
リビングから妻が出て来て「お帰りなさい。直ぐに検査してくれて良かったね。」と微笑んだ。「ありがとう、今日一日凄く忙しかったけど、直ぐに検査してくれて良かった。」と述べた。洗面所で顔と手を洗いうがいを済ませて、娘達に知られないように、寝室にて妻に今日一日の出来事を報告した。朝一番でかかりつけ医に行きこれまでの経緯を伝え、新たにA大学病院への紹介状を書いていただいたこと。その後急いでA大学病院の消化器内科を受診して、検査して頂けたこと。その後、膵臓内科I教授の診察を受けたことを報告した。妻は真剣に私の話しに耳を傾けている。I教授から膵臓に腫瘍が2つ見つかり、とりあえず来週と再来週に超音波内視鏡など、更なる精密検査を受けることになったことを伝えた。そしてその結果を見て今後の治療などが決まると報告した。
妻は、神妙な面持ちで私の話しを聞き、深くため息を吐いたのち、「でも早くに検査してもらえて良かったよ。」と述べた。とりあえず今日出来るベストは果たせた。不安な気持ちをぐっと堪え、2人無言で抱きしめあった。

リビングに行くと、2人の娘達はソファーに寝そべりテレビを観ながらスマホをいじっていた。既に夕食は済ませリラックスした様子である。私も少し遅い夕食を摂った。全粒粉パンとシチュー、枝豆に舞茸のソテー。妻が作ってくれた料理をたいらげ、ようやく落ち着いた。

長女の真千子がダイニングテーブルで食事を済ませた私に「パパとママ、来月5日の日曜日って空いている?」といつになく真顔で聞いてきた。「特に予定は無いけど、何かあった?」と答えた。真千子は、少し葉にかみながら「実は、哲也君が挨拶したいんだけど大丈夫?」と私と妻の反応を確かめるように聞いてきた。
真千子と彼氏の哲也君は、長女が大学生時代からの付き合いで、何度か会ったことがある。
誠実そうな好青年で私も妻も、このままずーっと付き合っていれば、いずれ結婚するのかなぁ?と思っていた。

娘を持つ父親の気持ちは、娘に幸せになって欲しい事だけだ。
幸せとは家族が仲良く、いつも会話が絶えない団欒のある家庭を持つことだと思う。

哲也君となら大丈夫だろうと思っていた。
娘に「2人の結婚、喜んで祝福するよ。来月5日大丈夫。家に来るならその後、みんなで外食でもしよう。もちろん愛犬ゴウも一緒に」

2人の結婚。嬉しくもあり、でも家族4人で過ごす時間は限りがあるのだと思うと少しさびしくもある。
私の身体のことを考えると、切ない気持ちをぐっと堪えた。
今は、今日一日を悔い無く過ごすこと。
娘達が一人前になって我が家を巣立って行くまでは、頑張らないと。

深夜遅く、ベッドに横になり目を閉じて今日一日を振り返った。中身の濃い一日だったと思っているうちに深い眠りに落ちた。

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