マガジンのカバー画像

長編小説「着物でないとっ!」

34
北九州門司港で和裁士になるための修練をしているゆき。彼女が通う学校にある日、老松という男が現れ、学校の存続に問題があることをネタに脅迫をされる。
運営しているクリエイター

記事一覧

小説『着物でないとっ!』① 

プロローグ「チリン、チリン」  ハンドルのベルが商店街にこだまする。自転車が、少しずつ店…

ともひろ
1年前
7

小説「着物でないとっ!」②

2 幸みどり  最近、学長である幸みどりは良く眠れない。近頃、学院の周辺に住む人たちから…

ともひろ
1年前
3

小説「着物でないとっ!」③-1

3  老松正男 その日、午後の作業が始まり一時間ほど経過した頃であった。ゆきは時間こそか…

ともひろ
1年前
5

小説「着物でないとっ!」③-2

3  老松正男  幸みどりは下関に生まれ、高校卒業までを山口にある萩で過ごした。元々、洋…

ともひろ
1年前
6

小説「着物でないとっ!」③-3

3  老松正男   一方のゆきは少しずつ幸と老松が話していた状況を理解していった。このよう…

ともひろ
1年前
3

小説「着物でないとっ!」④-1

4 篠田 諭 「あぁ、疲れた!」 「ゆきちゃん、今日はどうかしたの? 何か元気ないね」 篠…

ともひろ
1年前
5

小説「着物でないとっ!」④-2

4 篠田 諭  篠田 聡。四十歳。三年前に妻を病気で亡くし、現在は小学生の娘と門司港でふたり暮らしをしている。以前は小倉の飲食店で働いていたが、五年前に喫茶BINGOを開いた。お店は、一年ほどは順調だったが、生活のリズムが変わったためか妻が体調を崩し、入退院を繰り返すうちに思いがけなく病院で亡くなった。一時は自分を責めて元気を無くして店を閉めざるを得なかったが、妻との約束のために三年前に再開したのであった。  篠田の携帯が鳴った。ゆきたちに断って電話に出る。 「うん。そう?

小説「着物でないとっ!」⑤-1

5 決心 車の右手には関門海峡を行き交う外国船が視界から途切れることなく見えている。ハ…

ともひろ
1年前

小説「着物でないとっ!」⑤-2

5 決心  長府は下関の東部に位置する。かつては長州藩の支藩であった毛利藩毛利家の城下町…

ともひろ
1年前
1

小説「着物でないとっ!」⑥-1

6 取引き 長府から帰った後に、ゆきは老松に連絡を取り会うことにした。幸を同席させるか…

ともひろ
1年前
2

小説「着物でないとっ!」⑥-2

6 取引き  老松はゆきの気持ちに気づいた後もしゃべり続けた。しかし、それは、もはや目の…

ともひろ
1年前
2

小説「着物でないとっ!」⑦-1

7 原点  次の日から、門司和裁の忙しい日々が始まった。  オーナーの八尋が和裁の店につ…

ともひろ
1年前
1

小説「着物でないとっ!」⑦-2

7 原点                     ゆきの脳裏に当時の講師の言葉が蘇る。 「…

ともひろ
1年前
1

小説「着物でないとっ!」⑧-1

8 野々村 圭 「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですか?」 ゆきは声をかけた。 「いや、門司和裁の先生たちが何やら、商店街に仕立てのお店をだすっていう話を聞いたのでね。いったいどういうことかなと思って見にきたんですよ。まさか、和裁士のひとが直接仕立ての注文を受けるようなお店ではないですよね」 「ええ、ここは仕立ての作業を見せて和裁のことを知ってもらうための店にしようと思ってます」 ゆきは、男の質問の意図が解らないまま返事を返した。 「責任者はどなたですか? 私は、小倉の