蒲焼うなぎ

蒲焼うなぎ

最近の記事

羨望と憧憬

テーマ→行かないで 思うようにワガママを言えなくなったのはいつからか。 小さな子供みたいに足に縋りついて、大きな声で思うように泣いて、床に転がって、息が切れるまで、思いが尽きるまで、泣き疲れて眠る。 幼子を見て羨ましい、と微笑ましいと。そんな風に思うようにいつの間にかなっていた。 大人になってしまったね。 フッと誰もいない公園のベンチに一人座る男はごちる。   『男なら泣くな』 昔かたぎの養祖父ならばそんなそぶりでも見せればゲンコツ片手に追いかけてきな。懐かしい思い出は胸

    • 馬鹿騒ぎの始まりくらいは

      テーマ➡︎始まりはいつも 記憶の始まりはいつも大切なものを奪われる事から始まる。 もういつだったかすら覚えていない過去なのにそれだけは鮮明だった。家が燃える音、肉が焼ける臭い、耳をつんざく悲鳴と一度見たら忘れられない死は決して消えない憎しみの色としてこの胸にこびりつく。 一度だけ、途方もなく長く生きた時間の中で憎しみを忘れた時がある。排斥されるだけの己の中の不死。それを化け物と恐れた人間たちの目が無かった時間。 化け物にセンセイという名を与えた子供と二人で逃げ出した日

      • テーマ→忘れたくても忘れられない

        静かな風が吹き抜ける。 吹き抜ける風に煽られる髪を抑えながら小高い丘の上に立つ大きな木に向かって静かに歩いた。 今年もこの日がやって来た。 大地に根付く大きな根を踏まないようにしながら根元に立つ。見上げた先に広がる大きな枝葉にはいつ来ても護られているような気持ちにしてくれる。 首元に巻いたマフラーは流れた時の長さの分だけ色褪せた。同じように流れた時を思わせる皺くちゃの指先であの時と変わらないまま愛おしくマフラーを撫でる。 高台から見下ろした街にはあの日の戦禍の影は見えな

        • テーマ→ジャングルジム

          ジャングルジム 幼い頃に住んでいた街に十数年ぶりに帰って来たのは、行き詰まった人生をやり直すためでは無い。 ただなんとなく、振り返る事で郷愁に浸りたかった。 何の悩みもなく、守られている事すら気が付かないほどに当たり前だった。 子供で居られる時間の、子供だけに許された当たり前すぎた特権に気がついたのは否が応でも大人になってしまったからだろうか。 ふらりと通りかかった公園は思い出深いものだった。 幼い頃に遊んだ公園。 泥だらけになった砂場。水遊びした水飲み場。 何処まで

          明日、もし晴れたら

          明日、もし晴れたら 『明日、もし晴れたらピクニックにでも行こう』   当たり前のように いつもと同じように 優しい笑顔を向けられて泣きそうになる。 『兄弟みんなでちょっと遠いかもしれないが。 綺麗な森があるんだ。 そこでたくさん美味しいものを作って持って行こう。 何が食べたい? パンやサラダだけじゃなくサンドイッチやワイン、 ジュースもいるな』 ニコニコと嬉しそうに笑っている兄は いつも兄弟の事に関して話す時目尻を下げて話す。 大切な大切な宝物を慈しむような、その目を見

          明日、もし晴れたら

          真夏の夜の夢

          8月も最中になると日が落ちても簡単に気温が下がる事はない。黄昏時といえども大通りに人は溢れ、宵闇を迎えてもなお人が家路につく事はないだろう。 すれ違う人々の向かう先から祭囃子が聞こえる。 足元を駆け抜けていく子供の浴衣姿にようやく今日が花火大会の日であると気がついた。 疲れているな。 自重する溜息には色濃い疲労が見える。 ふと手元の携帯の表示板の8月15日の文字に去年の夏を思いだした。 去年の今日はまだ学生だった。 任務帰りの道すがら、お祭り騒ぎが大好きな担任教師が駄

          真夏の夜の夢

          赤い糸

          昨日の鬼滅が凄かった、と言う感想文 『私と鬼舞辻無惨は赤い糸で繋がっているんだ』 お館様がそう仰った時に思わずまさか、と声が出た。 よもやそんな言葉がお館様の口から飛び出すとは思わなかった。冗談にしては度が過ぎた冗談だと思う。 『お言葉にしては余りあると思います。』 肌がざわつく程の怒りを顔に出さないように力を込めて拳を握る。 元々姉さんと違って感情を抑えるのは苦手だった。 お館様が、誰よりもお館様ご自身を卑下している。そう感じた。なぜ? そんな事はない。そんな事はあ

          小話5

          導入がさ、 うみねこのなく頃にを思い出しちゃった。 かがみの特殊少年更生施設、めちゃめちゃ楽しいです ※※※ その日、唐突に絶縁の手紙が届いた。 彼とは中学の友達の一人で、大人しい気質同士と漫画が好きな点で気が合った。 彼の描く世界観に魅了された一番の読者だった私と彼。 私たちは間違いなく、学校という小さな箱庭の中の数少ない同志だった。 あの事件が起こるまでは。 その日も夕闇が迫る頃だった。 陽があたる世界から隔離されるかのように忽然と居なくなった彼。誰もそれを咎め

          小話4

          『不条理』 採用通知を手にして喜んだ日を覚えている。 あれが地獄の始まりだった。 始まりは無視。 次は仲間はずれ。 その次は仕事を私だけ外して他の人たちに根も葉もない噂話での孤立。 それから備品隠し。 公然の嫌がらせは公認の嫌がらせに変わる。 ため息を吐きながらこの10年を振り返る。 泣いたなー。 乾いた笑いを死んだ目でしながら求人を読む。 証拠を揃えて訴えた日もあった。 喧嘩両成敗って、一方的にやられただけで あちらの言いがかりを信じるの? なんて日もあって、なん

          小話3

          君の目を見つめると ここに一枚の古びたブロマイドがある。 過ぎた年月をものがたる据えた匂い、今にも破れてしまいそうな色褪せた写真には大輪の花のように美しく微笑みを溢すスタァの姿が映っていた。 この笑顔の裏での苦労を微塵と感じさせない。 見る人全てを笑顔にする、そんな完璧な笑顔。 その胸のうちを知るからこその尊さを思う。 『おばあちゃんってすごい美人だったんだね』 葬儀の用意で慌ただしく動いていた母が休憩に来た部屋に、先程片付けで見つけたこのブロマイドを見せる。 母は

          小話履歴2

          満天の星空なんて都会ではほとんどご縁がない。 高層ビルにネオンライトが煌々と輝く不夜城では 星の微かな瞬きは掻き消えてしまうだろう。 今日も残業を終えた帰り道。都会の片隅でひっそり生きていると、ふと別世界に行きたくなる。 異世界転生が流行る理由なんてこんなものかも知れない。日常に疲れた人はふと、全く違う世界に生きる自分に夢を馳せることでなんとか必死に生きている、そんな。 銀河鉄道に乗ってみたいな。 ジョバンニのように、あるいはカンパネラのようにそのままどこか遠い世界に。

          小話1

          テスト投稿してみたい。 胡散臭い神職者っていうとどうしても声が子安さんか石田さんになるなぁという妄想からの産物でも。 『大事なものは瞼の裏に。』 『本当に大切なものは目に見えないんですよ』 片田舎の小さな教会の牧師様は、ニコニコしながらそう仰った。人の良さだけが形作ったような、掴みどころがない浮世離れした目の前の牧師は、実は世俗の穢れと誰よりも向き合っている。 今この場にいる生きる事に疲れて懺悔を前に、この牧師はにこやかに微笑むとそう告げたのだ。 『大切なもの…で