馬鹿騒ぎの始まりくらいは
テーマ➡︎始まりはいつも
記憶の始まりはいつも大切なものを奪われる事から始まる。
もういつだったかすら覚えていない過去なのにそれだけは鮮明だった。家が燃える音、肉が焼ける臭い、耳をつんざく悲鳴と一度見たら忘れられない死は決して消えない憎しみの色としてこの胸にこびりつく。
一度だけ、途方もなく長く生きた時間の中で憎しみを忘れた時がある。排斥されるだけの己の中の不死。それを化け物と恐れた人間たちの目が無かった時間。
化け物にセンセイという名を与えた子供と二人で逃げ出した日から始まったそのたわいのない日常を平和と呼ぶと知ったのは、連れ戻されて牢に閉じ込められた時だった。
人はいつだって心の中に鬼を飼う。
弱さと悲しみは憎しみを生み、恐れと恐怖は他者から奪う事を憐れみと誤魔化す。逆もそうだと知った。
だからこそ、この悲しみを糧に滅ぼそうと思ったのだ、自分を。憎しみから逃れる為に。
それなのに。
『先生』
崩れ落ちそうな廃墟の中、目の前の男はそんな己の弱さを突きつける。
『迎えに来たんだ。先生』
先生なんて美しいものにはなれなかった。
結局は憎しみに負けた。守るべき生徒すら守れず、未練たらしく生き延びている。
それでもボロボロになり、這いつくばり、今にも死を迎えそうな姿で、目だけは爛々と輝く男は己を先生と呼ぶ。その目に映る資格のない自分を。
『迎えに来たんだ、先生』
いいのだろうか、彼らのところに戻る事が。
差し出された手を取ってあの幸福だっただけの時間に、戻る事が許されるのだろうか。
思巡する震える指先を促す様に、差し伸べる手の指先も震える。あと少し、あと少しだけの残された時間だけでも。
そんな甘えを振り切る様な痛みが胸を突き刺した。
ゆっくりとゆっくりと赤く染まる胸をまるで他人事のように感じながら目の前の男を見る。
『残念だったな』
突き刺さる刀の痛みよりも目の前の男に宿る己の憎しみが痛い。護るべき生徒に、護れないどころか己の憎しみを背負わせてしまった。
肉体を奪われた生徒は、これから死にゆく己の憎しみの傀儡とされて世界を滅ぼす事になるだろう。
止めなくては。止めなくては。
せめて生徒だけでも。
滅びゆく世界も自分もどうでも良い。
遠くなっていく背中を震える指先を伸ばす。
記憶の始まりはいつも大切なものを奪われる事から始まる。世界の終わりまで、奪われる事で終わりたくない。
死にたくない。
死にたくない。
今ここで死ぬわけにはいかない。
終わりを望み続けた自分の、始めて感じる生への渇望にも気づかずに必死になって這いつくばって前に前に進み出す。
その後ろ姿に。
『松陽先生?もしかして、銀さんの先生ですか?』
慌ただしい足音と共に
闇すら切り裂く小さな太陽たちが舞い降りた。
銀魂の松陽と高杉の関係性良いよねー
って常に思ってる。
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