せめて無性生殖で殖えたい

私の中で赤ん坊が育つことについて考える。初めの方は嬉しいかもしれない。これから新しい命との生活が始まる。多分周りとの関係値も変化する。まだ見ぬパートナーも喜んでくれて、二人でわくわくする。親もきっと安心したような顔をして、微笑んでお祝いの言葉を投げかけてくれる。大好きな紅茶やコーヒーに制限がかかるのはちょっと嫌だけれど、たった1年我慢しようと思える。

腹は大きくなる。みちみち皮膚が伸びて重くなって、すとんとしたこれまでのお腹ではなくなる。異様に膨らんで、時々私のものではない動きがある。気持ちが悪い。私の中に私ではない何かがいる。周りの人は私のその腹を触って、あ、動いたなどと微笑んでいる。受け入れられない。私にとってはこんなに得体のしれない気持ち悪さがあるのに、あたかも幸せの象徴のように扱われることが。でもいざ産まれてきた自分の赤ちゃんは小さくて可愛くて、きっと嬉しい。育てるのはきっと大変だけど、なんとかやっていけるかもしれない。でもその子のために私の数十年を割く覚悟もない。

欲しいと思った時に、ぽんと産まれればいいのに。体の中で1年も待たずに、その場で。人間が無性生殖だったらいのに。ただ殖えたい。変異で遺伝子が数個違うだけの個体がいい。遺伝子の多様性がどうのなんて言ってるから、私みたいな生殖に協力的でない人が生まれるんだ。仮に私が妊婦になったって、世間一般のような華やかさや可愛らしさなんて絶対にない。無性生殖になりたい。無性がいい。



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