中国軍中将が尖閣で「異例の言及」?

 日本の中国報道では驚くことがたまにあります。純粋に「へえ!?」というよりも、「それ、本気でニュースだと思ってるの?」という感じのことを言っています。

 今回紹介するのはそういう意味で驚いた記事です。共同通信の「特ダネ」のふりをした、ただの読み物。ニュースですらありません。

 見出しにある通り、中国軍中将が沖縄県・尖閣諸島を巡り「戦争恐れず」と語ったことについて、「異例の言及」と位置付けています。
 結論から言うと、この発言は異例ではありません。むしろ模範解答です。なぜなら、中国軍の最高司令官である習近平中央軍事委員会主席(共産党総書記、国家主席)の発言を引用しているだけだからです。
 「戦争を望まないが恐れない」とは、中国語でどのように言ったのかは確かではありませんが、”不惹事也不怕事“でしょう。
 直訳では「事を(自ら)起こさないが、恐れない」。「事」とは文脈から言って明らかに「戦争」「武力衝突」です。この言い回しは、鄧小平の発言がオリジナル。尖閣問題では、張志軍・外交部副部長が2012年に使いました。


習近平も領土問題に関連して、この表現を使っています。例えば下の通りです。

 軍機関紙・解放軍報も2022年9月27日に尖閣を含む領土問題に関連するものとして、この習近平の発言を紹介しています。下の記事の一番上にあります。

 共同通信は「軍関係者が尖閣を巡り『戦争』に言及するのは異例だ」と書いているので、あくまで記者会見などで生身の人間の中国軍人がこういう言い方をしたことに限定して伝えたと強弁するかもしれません。あるいは「事」ではなく、はっきり「戦争」と言ったのかもしれませんが、そうであっても強弁というか詭弁というか。無知でなければ、読者に対して傲慢ですね。
 共同は「将来的な領有権奪取の強い意志が鮮明になった」と書いていますが、何を寝ぼけたことをという感じ。こんなものはとっくの昔にはっきりしています。

 この「特ダネ」がどうして産出されたのかは想像するだけですが、立ち話のような写真が出ているので、討論会か何かの公の会合の後に話しかけたらオンレコで写真撮影ありで取材に応じてくれたというのが真相ではないでしょうか。これは全くの私の想像なので間違っているかもしれません。
 少なくとも軍事科学院の幹部という何雷中将は、あくまで学者の親玉であって、軍の意思決定に関わる人物ではありません。いきなり日本人の記者に話しかけられても、学者なので模範解答はできるでしょう。過去に何度も何雷中将が全人代の折に中国メディアの取材に答えたり、解放軍報に論文を出したりしています。もちろん習近平指導部の公式見解の宣伝役としてです。
 今回の共同通信報道の意義としては、最近の日中関係を反映して「尖閣を巡って戦争も辞さず」という公式見解を口にしたという程度でしょう。日本との対立を隠したい時期ならあえてこういう発言をしないということはあり得たかもしれません。
 模範解答と言えば、中共支配地域における検索エンジン、百度で“不惹事也不怕事 钓鱼岛"を引いてみたところ、張志軍発言が出てきました。発言の最後が穴開きになっており、4択で選ばせる問題となっております。中国では入試や昇進試験でこのような問題が出るそうです。

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