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青天の霹靂8(原因)

「まず言っておく。廉夏が言ったことは、必ずしも正しいとは言えないよ」
やさぐれまくっている廉夏の頭を、宥めるようにポンポンと廉は軽く叩く。
「さっき廉夏と冬眞が言ってたように、悪運の強さと死神も逃げ出してしまうようなお爺様だ。ここまではいいね?」
廉夏に確認を取りながら、廉は話を進めていく。
「かといって、これを殺したいと思っている奴は、多いが実際殺しにこれる、勇気のある奴もいない。ここまでもいいかい?」
とうとう、これ扱いされる豪造。だんだんと扱いが雑になっていくのは、たぶん気のせいじゃないだろう。
「うん」
コクリと廉夏は肯く。
「つまり、事件性も皆無と考えて良い」
「そうやって、可能性を潰していくと起こるべくして、起こった事象しか残らないってことね」
「ご名答」
大袈裟に廉は拍手をする。
それに、廉夏は不満げな顔をする。
「でも、それならお爺様はなぜそんな起こるべくして起こった事象なら、なにをそんなにやっていたの?」
クスリと廉は笑う。
「だからこそだよ」
「えっ、どういうこと?」
「早い話が、 そんなには人は強くあることはできないてことだよ」
「それって、どういうこと?」
廉は、身も蓋もないことを言う。
「ありえなさそうな人間の方が、以外と芯が脆かったりする。だから、突然衝動的かつ短絡的行動に走ってしまうものだよ」
「それって、つまり打たれ弱いってこと?」
廉夏も身も蓋もない聞き方をする。
「早い話がそうだね。例えば、孫の奇行とかね」
廉夏は、そう言われビクリとする。
「おや? 廉夏さん何か心当たりでも?」
廉は笑いながら言う。
「ベ、別にあれは、そんなんじゃなくって」
ゴニョゴニョ言い訳をする廉夏。
「心当たりがないのなら、別によろしんじゃないですか?」
廉は薄ら寒い笑みを浮かべながら、到底慰めとはとれない言葉を口にする。
「まぁ、会長のする突拍子のない行動に比べれば。廉夏の行動なんて可愛いものだろう。今回の件は、良いクスリになっただろうし」
それを受けて冬馬が言う。
「強すぎるクスリは、逆に毒にもなると言いますがね」
それに対して、
「毒ぐらいで、この人の場合はちょうど良いと思いますよ」
サラリと飛んでもないことを言う廉。3人で勝手なことを言ってると、低いうめき声が聞こえてきた。どうやら、豪造が目覚めたらしい。
「何だ、死んでなかったのか? つまらん」
廉夏が言うと、豪造は泣き真似をしながら、
「しどい、なんて冷たい孫なんじゃ。お前たちの中に、儂のことを心配するものは、誰一人としていないのか? よ~く、分かった」
その言葉を受けて廉が言う。
「大丈夫ですか?」
「何が『大丈夫ですか?』じゃ? そんなこと思ってもいない癖に」
ケッケッケーと豪造は言う。どうやら、ここにも機嫌を損ねた人がいるようだ。
「それこそ、心外です。私は心から心配してますよ」
「廉~」
感動したように言う、豪造。だが、続く廉の言葉に豪造の怒りは再熱する。と言うのも、こう言ったからだ。
「もう良いお年、自分の年を考えてやって下さい」
「そう言えばお爺様、いったい何を占っていたの?」
まさか廉夏に、あれを辞めさせるには、どうしたらよいかを占っていたとは言えない。
「さぁ、起きて下さい」
廉が言うと、その場でジタバタする豪造。どうやら立てないようだ。
「ほら、ご自分の年齢を考えたくなったでしょう?」
廉が、そう言うと豪造が怒ったように言う。
「弁護士の小早川を呼べ、すぐに、遺言状の書き直しだ」
小早川とは、神崎の財産管理を一手に引き受けている弁護士だ。もう、60を越えるがまだ現役バリバリの悪徳、いえいえ優秀な弁護士様である。30年前から豪造と意気投合し、顧問弁護士をやってもらっている。額に脂汗を浮かべながら、小早川、小早川という。
「それだけ、口が回れば大丈夫ですね。とはいえ、先生は先生でもまず医師に見せるのが、先です。ですから、東雲(シノノメ)先生にいらしていただきましょう。その後で、小早川先生に連絡するなら、して下さい」
廉は豪造の言葉に取り合わない。廉は豪造を、運び医師を手配する。
「じゃあ、私はもう行くので、お大事に」
時計に目をやり言う。それが、合図であるかのように廉夏たちも引く。部屋から出た瞬間、廉は声をかける。
「廉夏」
「分かっているわ、今週中には……」
廉夏は、ビックとし、恐々言うと、廉が冷たい眼差しを向ける。
「今週中?」
廉がジロリと睨めば、廉夏はすぐ否定する。廉夏はこの時、完敗した(笑)
「今日中に片付けます、はい」
「なんか強制したみたいで悪いな」
シレッという廉に、廉夏は引き吊ったように笑う。
強制したじゃないかと思いながら、廉夏は笑って言う。
「いえ、全然」
と、廉夏は否定する。
「じゃあ、綺麗にしとけよ」
「はい」
スゴスゴと廉夏はリビングへ向かっていく。その後ろ姿を見て冬馬はちょっとかわいそうになる。
「廉さんはあれ、片づくと?」
冬眞が聞く。
「廉夏が気に入るのは、2個だけだ。後はゴミ行きだろう?」
「流石ですね。僕も同じです」
「さっさと廉夏には片付けてもらうか。正直、俺も藁人形には、もう見飽きた」
「ですね。でも、廉夏さんの操縦廉さん上手いですね」
「あいつは俺が育てたようなものだからな。あいつの親と言うか、俺達の親は仕事で忙しくて、あいつを見られなかった。だから、亡くなったときもあいつにはテレビで見る人が亡くなったぐらいにしか、思わなかったと思うぞ。それが、京極で生を受けた者の宿命かもな」
遠くを見つめるように廉は言う。
「でも、そんなの悲しいですよ」
「それが、人より恵まれている者の定めだ」
廉はあっけらかんと言う。
「なんか恵まれすぎているのも、考え物ですね」
「そうだな」
廉は、再度時計を見る。
「まだ、休暇取っているんだろう。それなら、お前も廉夏を手伝ってやれ。元々お前のファンからなんだからな。お前にも責任がある」
「あっ、責任転嫁しましたね」
「どう思おうと、お前の自由だ。でも、お前のやることは変わらない」
それを聞いて、深々とため息を付くと、冬眞は廉を笑って送り出す。
「分かりましたよ。行ってらしゃいませ」
簾は、車のキーを指で回しながら言う。
「見物だね。お前らが奮闘する姿が目に浮かぶよ」
「ご期待に添えるように頑張りますよ」
「そうしてくれ。じゃあな」
廉は運転手は付けない。大手の社長なのに、可笑しいなと思い聞いたら、『車の中ぐらい息を付きたい』と返ってきた。つまりは、己以外信用を置けないと言うことか。
送り出したら、さっそく冬眞はリビングへと行く。

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