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青天の霹靂15(とうとう動き出す)

「つまり、廉さんもそこに違和感を感じたことに、否定はなさらないんですね」
「さあ、それは、どうかな? 自分で答えを見付けろ。ただ、俺から言えることは、経営者の近くには、反対のことを言う立場の者も必要だと言うことだ。必ずしも、意見を認めてくれる者だけが大切だとは、限らない。特に俺みたいな人間にはな。反対してくれる者が重要だ。いつもハイハイ言われてると、自分のしていることが正しいことなのか分からなくなるからな」
廉はそう言って、笑った。
「でも、あのご当主だと、歯向かったら、すぐに首が飛びそうですよね」
「私もそう思うよ。ああいう輩は、ちょっと考えて支えないと、自分がどうなるか分からない」
その時、廉夏は二人の話に割り込まず、大人しく後ろからついて行く。
廉夏が後ろを歩いているとき、誰かに、背中を押された。
「キャ~」
廉夏が足を滑らせたが、廉夏の悲鳴に、前の二人はすぐ反応した。
「危ない」
そう言って冬眞と廉が受け止めてくれる。
「廉さん、お願いします」
冬眞はすぐに追いかけるが、階段の上は人が多くて分からない。
ダメだと言うように首を振ると、廉は苦笑いする。
「犯人の方が、このホテルに熟知してるか? 我々の方が部が悪いな」
冬眞は廉のその言葉を聞き、ゆっくり階段を下りて来る。
「大丈夫ですか?」
「……うん」 
ちょっと変な顔をする廉夏。
「動き出したか?」
「でも、変なのリルカはあそこにいる」
廉夏が指さしたのは、下のパーティー会場だった。
彼女は挨拶まわりをしていた。
「つまり、廉夏を狙っているのは、彼女だけじゃないってことか?」
廉が怪訝そうに言う。
それに次いで冬眞も言う。
「犯人の狙いはただ、怪我させたかっただけってことですかね?」
「でも、今回は私たちが気付いたから、よかったものの、下手したら死んでるぞ」
「生きてても死んでても良いってことですか? 目的は何なんでしょうね?」
「狙われてるって、私たちに印象付けたかっただけかもね。でも、足捻ったわ。いじゃい」
涙目になって、廉夏が言うが、右足をついていない。
「大丈夫ですか?」
「冬眞、ちょっと代わってくれ」
それに冬眞は頷くと、廉夏を受け取る。
「犯人にとっては、私が生きようが死のうがどっちでも良かったなんて、失礼な話よね。私の生き死にどっちでもいいなんて、つまりは、この犯人にとって、私が目的じゃないってことでしょ?」
クスッと冬眞は笑う。
「じゃあ、目的が廉夏ちゃんならいいんですか?」
「相手が私に本気でくるなら、それを私も本気で受け止めましょう。だって、それだけ、相手が本気なら受け止めて上げなきゃ失礼でしょう。目的が何にあるにせよね。でも、そうじゃないなら、それを利用するなんて許せない」
ちょっと違うとこで怒る廉夏に冬眞は笑う。
「さすが、廉夏ちゃん」
「殺したいってことは、それだけの動機が相手には、あるってことでしょう? だったら、真剣に受け止めなくては、相手に失礼よ。その殺意がどんなに、理不尽だと、思えるものであってもね。それが、京極である者の定め」
廉夏も廉と同じようなことを言う。
それを聞き、冬眞は笑みを漏らす。そして、戻って来た廉に視線を向けると笑う。なんて似たもの同士なんだ。
「何だ?」
廉が聞く。
「いえ、やはり人間似ていくものだなって思って」
「ああ、廉夏とか?」
「そうです」
「こいつも、そう育てた気はないが、向けられる殺意を甘受する傾向がある」
「でも、逆に、怖いですね」
「ああ」
廉は頷く。
「僕、京極を継ぐと言うことを甘く考えていたのかもしれません」
冬眞が、そう言い、廉は笑う。
「恐いか?」
素直に冬眞は、頷く。
それを見て廉はさらに笑う。
「ええ、恐いです」
正直に言う。
「京極の名を継ぐことが嫌になったか?」
廉が冬眞に聞く。
「恐いですけど、僕は逃げませんよ? そこから、逃げたら、廉夏ちゃんに、怒られてしまいますから」
廉に笑って言った。
そうすると、廉夏は怒ったように言う。
「たとえ、冬眞兄ちゃんがどんな、選択しても私は詫びなど求めないわ。私をそんな小さな女にしないで」
腹を立てる廉夏に苦笑いで冬眞は謝罪する。
「すいません」

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