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映像の流儀

テレ東で6月28日(金)から始まったドラマ25「晩酌の流儀3」。
1日の終わりに“最高の晩酌”を迎えるため、日常に溢れるありとあらゆる誘惑を断ち切るストイックな女性・伊澤美幸(栗山千明くりやまちあき)に焦点を当てたグルメドラマだ。

この番組、何と言っても映像が素晴らしい。
物語じたいは刺身のつまであって、24分番組中10分を費やす食卓の描写が、この作品のきもになる。

美幸が酒のアテにつくる料理の監修は、馬場裕之ばばひろゆきが担当。
お笑いトリオ・ロバートのメンバーだが、料理好きとしても有名であり、YouTubeチャンネル『馬場ごはん〈ロバート〉Baba's Kitchen』の現在の登録者数は、123万人に達している。ドラマにもスーパー「ツルマート」店員役として毎回登場する。

たとえば、スナップエンドウの明太めんたいマヨがけ。
この日の主役はししゃものアヒージョで、スナップエンドウは食卓に彩りを添える一品に過ぎず、調理も至ってシンプルだ。
筋をとり、茹でたスナップエンドウを湯切りし皿に盛る。そこに明太マヨを上からかけるだけの描写だが、一連の所作と映像が実に愛おしい。
美味おいしそうとかうまそうとかいうよりも、個人的にはその映像美に魅了されてしまう。

それにしても自家製キムチの仕上がりを確認したり、アヒージョに火をいれたりする際の栗山千明の目力めぢからがものすごい。こわいほどだ。
この人と言えば『キル・ビル Vol.1(2003年)』 のGOGO夕張だろう。
ユマ・サーマンとの戦闘シーンは『The MTV Movie Awards 2004』で「Best Fight賞」を受賞し、女優として世界的に認知される。あの時まだ18歳だったか。全盛期のタランティーノ、ここだけ観ても面白ぇー。

協賛スポンサーがサントリー・金麦のため、美幸がためにためて一日の締めに喉を潤す一杯は、発泡酒である。ビール好きであれば違和感アリアリだろうが、民放テレビの宿命で致し方ない。

そういえばテレビ放送はCMこそが「本番」で、番組はその合間に流すツールに過ぎないと聞いたことがある。
テレビ局にとっての収入源はスポンサー料であり、番組制作は全て支出になるわけだから、解釈はその通りだろう。CM放送だけで視聴率が稼げるなら、カネが出ていくばかりの番組づくりなんてしないはずである。

昔だと、たとえば『クイズダービー』はロート製薬一社の提供だ。「はらたいらさんに1万点」、流行はやったよねぇ。
20世紀の終わり近くまで、『サザエさん』で流れるテレビCMは東芝が独占。テーマソングが終わり 「明日をつくる技術の東芝がお送りしまーす!」とサザエさんがアナウンスするのが、番組のオープニングだった。

一社提供の弊害として、スポンサーの意向が絶対のため、出演者やゲストの人選に制約がかかっていたとはよく聞く。
競合する同業他社のコマーシャルに出演している芸能人や、スポンサーの商品にそぐわないと判断された芸能人は出演が許されなかった 。

ただ、そうだとすると『クイズダービー』でのロート製薬の人選は大したもんだったし、『サザエさん』放送中に東芝製品がクローズアップされていた記憶も特にない。近年のACジャパンのように、変に思想がかったものを垂れ流されるより、一社提供ははるかに健全だった気もしてくる。

いまじゃ企業も体力ないし、テレビ自体が魅力あるコンテンツじゃなくなっているし。
大企業の社長も役員も、創業者じゃなく雇われで数年いるだけの腰掛け組が圧倒的だから、ホレた番組をガチで支えようなんて気概、持てないだろうし。彼らにとっては無難にその数年過ごすのが、なによりのメリットなのだ。

栗山千明は演技に優れ、アップにも耐える美貌の持ち主だ。失礼な言い方だが、”観賞用”として目のご馳走になっている。このドラマの映像美を支える大きな要素だろう。

だけど何しろ、カメラなんだよなぁ。アングル、色味、ビールの泡や食材の湯気。プロが最高の機材を使い、プロデューサーが優秀だと、こういうが撮れちゃうわけだ。いいよなぁ。(明日に続く)

イラスト Atelier hanami@はなのす

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