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Fade Outできない

『KOIZUMI IN THE HOUSE』からは、も言われぬ死臭が漂ってくる。
『好奇心7000』や『マイクロWAVE』のように直接的に死を扱った歌詞もあれば、『Kyon Kyonはフツー』『男の子はみんな』のような過剰な”普通”を演出したものまで、全てが死への傾倒を感じさせる。
こういう音楽は、それまで聴いたことがなかった。

冒頭の『Fade Out』は、アルバムの白眉はくびである。アシッド・ハウスというらしい。
ジャンルはよく分らないのだが、この単調で、さしたる意味もなさげな歌詞も、近田春夫のアレンジに乗ることで死への逃避行が頭に浮かんでくる。

詞の内容からはチェット・ベイカー『レッツ・ゲット・ロスト』を想起させるし、曲調としてはマイルス・デイヴィス『イン・ア・サイレント・ウェイ』あたりを思わせる。デヴィッド・リンチの映画『ロスト・ハイウェイ』のテイストもありそうだ(時代的には映画の方が後だけど)。

友達とディスコで踊る約束を破り、「スリルにおぼれて」「二人きり ハイウェイに消えていくわ」。
Fade Outなのは、はかなき二人の未来かもしれない。

続く『好奇心7000』では、テレビ業界の裏側が描かれる。

TVの楽屋で 見てはいけないものを見た
誰も知らないロマンス
実はそんなの毎日あたりまえ
もっとすごいことだって見たわ

いまであればさもありなんな歌詞だが、35年前に現役アイドルが歌ったものとしては、かなり刺激的な内容だ。

昨日ブレーキが壊れてた もすこしで 死ぬとこだった
スタジオで 見つかった ダイナマイトに どくろのしるし ついていた
ドラマのなかでマシンガン いつのまにか本物ひきがね ひいてゲストが
悪戯電話 脅迫状 ノイローゼ 乗る筈だった飛行機が
TVの裏側 見てはいけないものを見ただけ だけ だけ

作詞・作曲・編曲ともに近田春夫。
日本語とリズム。必ずしも相性の良くない両者のノリが、ここでは実にいい。

私も少し 弱みを握られてるから これが証拠のカセット
実はそんなのよくあるブートレッグ もっとひどいやつ聞いてみたいだけ

「ブートレッグ(著作権者に無断で販売される海賊版商品)」なんて単語を知ったのも、このアルバムが初めてだ。
しかしコレ、当時KYON2キョンキョンが所属していたバーニングプロダクションの闇の噂、そのものじゃないか。
よくぞここまで、あらわに表現したもんである。怖いこわい。

3曲目『STAND UP』の歌詞は不倫がらみだが、これも前曲同様にバーニングプロダクションがらみを意識して聴くと、かなりヤバい感じになってくる。

あなたのオフィスで 私の部屋で 人目をさけて
夕暮れヨコハマ 雨のエアポート しのび会うたび しのび会うたび
あなたの指先 あたしの体 朝まで抱いて もいちど抱いて
海辺のリゾート ホテルのプール 誰にも言えぬ 秘密のにおい

歌謡曲黄金期のオマージュにあふれた歌詞が、また憎たらしい。

STAND UP うしろ指なんてさされない
STAND UP 噂になんてさせないわ
STAND UP 不幸わせなんて似合わない
STAND UP 立上がります明日から
くずれそうな私をHelpしてネ!!
Help me! Help me! STAND UP for my Right!!…………

最後はボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『ゲット・アップ、スタンド・アップ』のパロディで締める。
近田さんの楽屋オチの多さはハイドン級であり、僕が知らないだけで、ネタはもっと散りばめられているのかもしれない。

で、次がいよいよ本題というか、ふと思いついた楽曲になるわけだが、なぜここまで引っ張る理由があったのかは、当人にも全く不明である。

明日に続く(つーか、明日で終わらせたいもんである)。

イラスト hanami🛸|ω・)و

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