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ギブバース!

僕がプラモデルをいじり始めたのが小学4年生の頃だから、半世紀も昔のことだ。
なんで始めたのか、記憶にない。中学に入って急激に熱が冷めていったけれど、その理由も覚えていない。

家から自転車で10分ほどの場所にプラモデル屋さんがあって、週に一度は顔を出した。憧れはTAMIYAの1/35 ミリタリーミニチュアシリーズで、ドイツのタイガー戦車やソビエト T34/76など、箱に描かれた絵を手にするだけで、言い知れぬ幸福感に満たされた。

ところが1/35第2次世界大戦シリーズものは当時で1,000円前後して、小学生にはなかなか高嶺の花である。
TAMIYAは眺めるだけの方が多く、よく購入していたのがHASEGAWA1/72スケールの戦車だった。たしか200円するかしないかの価格帯で、もちろん消費税なんて無粋なものがない時代だ。

購入して家に帰り、建替え前に父親が書斎代わりにしていた2階の三畳間にこもり、箱を開ける。
プラモを組み立てるには小道具が必要で、ニッパー・ヤスリ・ピンセット・接着剤、着色するための筆と各種塗料、薄め液用のラッカーやシンナーを、小遣こづかいをやりくりしながら揃えていった。

塗料も各社で成分が異なり、たしかパクトラタミヤはラッカー系だったか。
そんなに匂いをきついと感じたことはない。ただ手に入りくく、値段も若干割高だった。

今では考えられないが、当時メジャーでコスパもよく、どこでも買えたレヴェルカラーはシンナー系だった。
このメーカーの瓶のふたを開けた途端、いい匂いキツイ異臭が狭い室内に充満し、塗装作業を進めるうち意識が朦朧もうろうとしてくるのである。
小学生の頃から僕は、知らず知らずのうちシンナー遊びをしていたわけだ。たしか接着剤に使っていたセメダインにも、シンナーが入ってたんじゃないか。

学校が半日で終わる土曜日は午後から、次の日曜日は1日中、三畳間にこもっては戦車を組み立て、お手製のジオラマに乗せては悦に入っていた。
シンナーに相当ヤられた頭で、文字通り恍惚としながら。

そうしたいい思い出忌まわしい記憶のある数年のプラモデル生活であったが、熱が冷めると同時にすっかり忘れていた。
そういえばTAMIYA本社は静岡市にあって、30年前越してきた時「あ、タミヤだ」と思ったものの、何の感慨も呼び覚まされることはなかった。

それから50年の歳月が過ぎようとする2022年6月、テレ東【木ドラ24】で、『量産型リコ』が始まった。

イベント企画会社に勤める小向璃子こむかいりこ(与田祐希)は、あらゆるものが平均的なタイプの人間として人生を歩んできた。そんな中、同僚・浅井(前田旺志郎)に言われた「量産型」という言葉に自問自答し始めてしまう。
そんなモヤモヤを抱えながら、仕事帰りに歩いていると、薄暗い店内の模型店を見つける。大量に積まれたプラモデルの中から「量産型ザク」に目が止まり、店主・やっさん(田中要次)に勧められるまま初めてのプラモデル作りに挑戦することに…

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はっきり言ってテレ東らしいチープな作りなのだが、プラモ女子という設定が実にニッチだ。それともちまたでは、本当に女子の間でプラモデル作りが流行っているのか。んなぁこたあ、ないだろう。

リコが初めて訪れるホビーショップ「矢島模型店」。店頭のショーウインドウに飾れたフィギアを眺め、おもちゃ屋と勘違いする。
誘われるように入店すると、左右うずたかく積み上げられたプラモの箱の谷間を進んでいく。この辺の描写から、少年時代のキラキラしていた日常が、老いた今になっても蘇ってくる。
違うと言えば商品が戦車や飛行機、軍艦などなく、ガンダム・シリーズで占められていることだ。おれ、マンダムなら知ってるが、ガンダムは全く知らない。店主やっさんの蘊蓄うんちくも、馬の耳に念仏状態である。

しかしその説明に興味を抱いたリコは、「これ、作ってみたいです」。すると狂喜するやっさん、店の奥の工作室でやってみるかとなる。

箱を開けると「ご開帳~」。
ニッパーで、ランナー(枠)からパーツを切り離すときの「パチッ」という音が心地良い。外れるとそれは「解放~」。
各パーツに接着剤を塗って、張り合わせていく懐かしさ。ところが今の主流は、接着剤不要のタイプらしい。プラモも進化してるんだ。
はみ出した接着部をヤスリで削る。ガシガシとこすれる音がまた心地いい。
最後の塗装で間違ったとしても、それは「ギフトだ」。
好きなように塗り直せばいい。「プラモはどこまでも自由だ」。

「量産型ザク、ギブバース!」
ここにリコだけの、量産型ザクが完成した。

『晩酌の流儀』同様、みどころはプラモ作成シーンに尽きる。しかしこっちも、先月始まったのはシーズン3だ。

それが(自分の娘より年下の)主役の女の子の人気によるものなのか、プラモデルに需要があるためなのかは不明だが、テレ東にはぜひ、こうしたオリジナルでニッチな路線こそ、今後も進めていってもらいたい。

イラスト Atelier hanami@はなのす

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