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仁義なき管理

年度末が近づくと、業界は入札のシーズンを迎えあわただしくなる。
各社営業マンは入札会場を掛け持ちし、とくに議会が終了した直後のピーク時は案件が集中するため、分刻みの移動をいられもした。

入札案件も、絶対に落札しなければならない「本命」と、「お付き合い」の二通りがある。(最初から取る気のない)顔見せが目的の後者であれば、事務員さんまで動員して対応した。社長も僕も、とうぜん一要員として動く。

そうした最中さなかくだんの営業クンが退社した。
指定管理者の案件を担当するようになってからは社長と直接やりとりしていて、僕とは完全な没交渉。挨拶もなしにいなくなったので、辞めたことも少し後になって、総務の報告で知った。

「やっぱりなぁ」と思ったのは彼がプレッシャーに弱く、弱い犬ほどよく吠えるの典型で、部下や現場の人に居丈高いだけだかな態度で振る舞うのを何度も注意してきた過去があるからだ。
いくら威張りくさっていても、自分で判断し形にしていく能力は未熟なままで、放置プレイの親分(当時の社長)なんかに管理は無理と判っていた。
まして隣の県より遠方にある、実績のない指定管理者物件の立ち上げである。どうせ泣きが入って面倒見なきゃいかん事になるだろうと、ちょっと憂鬱ゆううつに覚悟はしていた。

社長室に呼ばれ、「営業の○○クンな、退社したから」と、ご本人の口から通達がある。
「それで例の春野町の件な、アンタの方で面倒見てやってくれ」

親分、日本語の使い方が間違ってますぜ。面倒見て「やってくれ」の主語は誰になるですかい? 
辞めて面倒の見ようがない営業クンじゃ通じないし、社長と二人で担当するって宣言してたじゃないの。すると「やってくれ」は社長、アンタってことになるんじゃないの。だったら「やってください」くらいの謙虚な態度くらい、とってもいいじゃないの。

ウチの親分、まるで金子信雄演じる山守義雄(仁義なき戦い)のようなキャラである。
「おやっさん、はっきり言わしてもらいますがのぅ、○○も悪いがアンタも悪い。どっちこっち言うてないですよ」
と菅原文太のセルフの一つ、吐き出したいところではあったがまぁいいや。
じゃ、どこまで準備できてるのか教えてよ。

「詳しいことは、向う(合同出資会社)の営業の○○君と打ち合わせてくれ」と言った後は、プロポザール(企画競争入札)時の資料を渡され「頼んだぞ」でおしまい。
アンタ、ホントに自分では何にもやってなかったのね。

ペーパーの中身を見て、さらにビックらこいた。
こんな提案しちゃって正気かよ。
これっぽちの数字で5年間も請け負ったら、間違いなく数千万円単位の赤字になるやんけ。

とどめはパートナーになる会社の担当者に会って、1か月後にオープンを控えた進捗しんちょく状況を確認した時だ。
こちら(静岡市)からとても毎日通える場所じゃないし、すでに現地で人を採用して、準備に入っているものとばかり思い込んでいた。

甘かった。
候補者もいるにはいたが断られ、打つ手なしの状況だという。
「そちらの○○君と僕とで、交代で通うか話していたんですよ。そうしたら彼、急に辞めちゃって。入札も重なって動きとれないし、もうどうしていいのか絶望的な状況ですよ」アイツの性格じゃ、こりゃトンずらするわな。
社長のいう「面倒見てやってくれ」とは、協同会社の彼のことを指していたのか。
んなわきゃねぇだろ。

以降は明日に続くが、ちなみにウチの会社を辞めた営業クン。業界の慣例に従うように、同じ清水の同業者のところに就職した。
わざわざ向うの常務が訪ねてきて、採用する旨ご挨拶いただく。東京6大学の一つを卒業し、国家資格も持っている彼を、有能な人間と判断しても不思議じゃない。

「ナニやらせんの?」
「ん?もちろん営業だよ」
「営業だけはやめた方がいい。事務屋としては使い方次第だけど」
相手は(僕の会社の)脅威になるから、妨害したいがための発言だろうくらいに受け止めたようだ。

結きょく彼は営業として採用され、何があったか半年も経たずに退社したと聞く。
更にもう1社、同じ市内の同業他社に就職し、こちらは2か月持たなかったとそうだ。その後のことは知らないが、彼のキャリアで3年以上在籍した会社は、ウチだけだったことになる。

自慢じゃないけどねぇ、ワシん所でダメなら、あとはもうないんだぜ。
ホント自慢にならんけど、心底そう思った。

イラスト hanami🛸|ω・)و



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