見出し画像

沈んだままの記憶

ここのところ、1本の動画編集に取り組んでいた。来年に古希こきを迎える女性経営者のトークをまとめていくのだが、最初は2~3分程度の作品にしようと考える。あまり長いと、関係者はおろかご本人だって飽きるはずだからだ。

職場とご自宅に伺い、正味しょうみ1時間半程度の映像を撮ってきた。それぞれのカットを確認した段階で、それらを数分にまとめるなど「あ、こりゃとても無理だわ」と直感する。

幼少期に始まり、小学校から短大までのエピソード。
就職し、そこで仕事の基礎をみっちり学んだこと。
結婚・子育て、そこから最初の事業に繋がっていく過程などは、一か所のみのセリフやフレーズで表せるものでは、とてもない。
今回はデモンストレーション用ということで、撮影も数時間と限られた条件で行った。これを本当の意味での「自分史」にまとめ上げるには、最低でも数日の打ち合わせと撮影、それに気の遠くなるほどの膨大な編集が必要になるはずだ。

最近では「道の駅」誘致と月1回のマルシェ開催ばかり気が行っていて、「本業」の方がすっかりおざなりになっていた。これはこれで飯の種としてやっていくべきだろうし、なにしろこの商い自体も嫌いじゃない。

今回、削りに削って17分の動画になった。昨夜のうちクライアントに送信し、先方がさっきYouTubeにアップしている。
はっきり言って、家族や知人以外の興味は引かない内容だろう。

それでも、経営という観点からなら学ぶべきものは多くある。
この人の場合、最初にゴールを見据えそこに向かっていく計画性など皆無で、近所の子供たちの勉強を見ているうち学習塾が生まれていたり、気に入ったバンド(後に大阪城ホールでライブをするまでになる)に演奏の機会を提供したくてライブハウスを作ったり、「花屋になれ」と見ず知らずの人に言われたのをきっかけにフラワー・ショップを開業したりと、すべて成行きで生きている。

その他の経営も兼ねながら、今また、新たな事業に向け動き出してもいる。
365日、休める日などないが、ご本人は毎日が楽しくて仕方ないという。
全てが順風満帆じゅんぷうまんぱんなはずもなく、近い将来、たたまなければならない部門もあるという。採算性の問題ではなく、その業界の将来性に限界を感じてのことだそうだ。

「お金は残らないの」とおっしゃる通り、お店からご自宅に繋がる造りも、いわゆる「金持ち」のお宅の気配などみじんもない。金儲けではなく、人と人とのつながりこそが財産と、心底考えているからだろう。

伊勢(内宮の中庭)で演奏された唯一のベーゼンドルファー(91鍵の特別仕様)が売りに出されたとき衝動的に購入してしまったというから、成行き人生も筋金入りだ。
手持ちにそんな資金などなく、知り合いの伝手つてから銀行と話をつけ、旦那さんに相談もせず買ってしまったそうだ。
買った後で置き場所に困り、それがきっかけとなってホールをオープンしたんだとか。まったく、いかれてるイカしてる。

「お金なんて、後からついてくるのよ」
これが言えるのはごく限られた人だけかも知れないが、実践しているんだからケチのつけようがない。
来年の古希で本格的な「自分史」もお考えという事だから、その際はぜひ共同作業で取り組みたいもんである。

この方の半生はネタの宝庫であるが、今後はネタなどまるでなさそうな人の「自分史」もつくりたい。
「何にもない人生」。そんなものが本当にあるのかどうか知らないが、あればあったですごい話である。たいがいの人は大なり小なり、「何かあった人生」を送っているはずだからだ。
個人的には、起きたことより起きずに終わったことの方に興味がある。
平凡な暮らしに訪れた人生の岐路、それはそのまま不変のドラマになり得ると思うのだ。

個人の記憶の底に沈んだまま、誰も知ることなく終わったはずの「自分史」。
すくいあげれば想定外の未来へとつながる、きっかけが生まれるかもしれない。

イラスト hanami🛸|ω・)و


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?