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あっためてあげる

『マイクロWAVE』の出だしは、こんな詞である。

「さあどしたの こっちへおいで あっためてあげる!」
真夜中に誰なの ドアに叫んでる! 
まだ夢の続きかしら チチチ静まる時計
しっぽまでどしゃぶりで ひどい仕打ちね私
Sorry昨日のこと もうよそう
こっちへおいで 温めてあげる  uh  uh
レンジで死んだ レンジで死んだ
こげついた 愛 愛 ヤー
レンジで死んだ レンジで死んだ
あついあつい最期
マイクロWAVE マイクロWAVE
マイクロWAVE マイクロWAVE

作詞・作曲・編曲 井上ヨシマサ

たぶんライナートートで読んだ気がするのだが、この曲は以下の逸話をもとに作曲されたと記されていて、35年間その記憶をずっと引きずってきた。

1980年代。アメリカに住むおばあさんが、電子レンジをプレゼントされた。
ある日、飼い猫がずぶ濡れになって帰ってきたのでかわいそうに思い、おばあさんは電子レンジで乾かそうとした。
実際に猫を入れて加熱したところ、爆発を起こし、猫は死んでしまった。
おばあさんは電子レンジの取扱説明書に「動物を入れないでください」という注意書きがなかったのはメーカー側の責任であるとして、PL法(製造物の欠陥によって生命、身体または他の財産に損害を被った場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができる法律)に基づき、販売元に多額の賠償金を請求した。
裁判所はおばあさんの主張を認め、販売元に賠償金を支払わせるとともに、説明書に注意書きを追加するよう命じた。

当時、なんちゅうアホで恐ろしい国だろうと思ったもんだ。訴訟を起こすおばあちゃんもおばあちゃんだが、それを認めて賠償金を払わせてしまう裁判所とは、一体どういう精神構造なんだろう。

ところが今回改めて調べてみると、この逸話はアメリカの訴訟事情や製造物責任法(PL法)を皮肉った、ブラックジョークであるということが分かった。なあんだ。35年間も信じてきたのに、真相は違ってたんかい。

しかし、この少し後の1992年。ニューメキシコ州に住む女性がマクドナルドのホットコーヒーを膝の上にこぼして火傷やけどを負い、賠償金を求めた裁判で勝利する事件が、実際に起こっている。
(和解後に)日本円で3億円程度が支払われたそうだから、「ネコ電子レンジ事件」を真に受けたとしても、間抜けとまで言えんだろう。
なんでも訴えたもん勝ちのお国柄だけは、影響受けやすい我が国にあっても馴染まないままである。これはええこっちゃ。

と、こんなおバカネタでなしに、上記都市伝説をそのまま再現するような事件が、今世紀に入り起こっていた。
カナダのアルバータ州カムローズで、少年4人による強盗事件が発生。
彼らはただ金品を盗もうとしただけでなく、その家で飼われていたペットの猫を電子レンジに入れて加熱し殺害している。
AFP通信によれば、少年らはキッチンの戸棚にペンで「かわいい猫だね、電子レンジの中を見てみな」と落書きまでしていたそうだ。

類似の事件は、これまで複数件も起きているようだ。

こっちは意図的な動物虐待で酌量しゃくりょうの余地もないが、文明の利器っていうのにはおそろしい活用法があるもんだ。日本ではまだ起きていなさそうなのが、何よりの救いかもしれない。でも欧米のマネッコばかりしていると、精神構造まで似てきちゃうから要注意だぞ。

何日も『KOIZUMI IN THE HOUSE』を論じてきたわけだが、実は『マイクロWAVE』の歌詞は現実に存在しなかったという真相を、35年ぶりに知ったと言いたかっただけなのである。
歯に挟まった小骨がようやくとれた感じで、個人的にとてもすっきりした気分なわけである。

おかげで久しぶりに『KOIZUMI IN THE HOUSE』を聴くことになって、やっぱり特異な音楽であることを再認識できた。
この人にこんな作品が?
長い歴史を重ねた表現者にあって例外的な存在を発見するのは、楽しいもんである。

最後にそんなたぐいの中から1曲、フランスの現代音楽家ジョリヴェが来日したときハマって作曲したという『パチンコ(2台ピアノのための)』。
いま初めて演奏聴いたけど、現代音楽って、何かと紙一重だよなぁ(と、まったく関係ない話で、この項は終了となるのでした)。

イラスト hanami🛸|ω・)و

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