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現金に生きるのさ

プロジェクトの代表が今の組織体制を見直したいとおっしゃり、昨夜打ち合わせを行った。来月の事務局会議にはかり、その後に30名以上が参加する全体会議で承認を得たいと言われる。

地元の市会議員を長く務め上げ、今も様々な組織に関与している方で、関係者のポジションを一枚の組織図に落とし込むのが、実に巧みだ。

「事務局」が主体となって「企画会議」を開き、「食・農・おもてなし部会」「健康・スポーツ交流部会」「地域交流部会」「観光交流部会」「防災拠点部会」「道の駅推進委員会」をまとめる。
各部会には部会長と副部会長をおき、各々おのおのが責任と権限を持って、道の駅誘致のために活動するものとしている。

この組織図には、数10名の氏名が明記されている。全体会議が開催されれば、そこに名前のある大半の人たちが参加するだろう。
今年3月から月1回開催している「清水いはらマルシェ」の体制も、組織図に加える必要がある。現状はかつかつのスタッフ数で回しており、誰か一人でも欠けると、運営的に厳しい状態が続いている。今後安定した継続のために、増員は必須だ。

9月早々に予定されている行政との話し合い如何いかんでは、今後の方向性ががらりと変わってしまう可能性がある。これまで積み上げてきた話が進展するか、それとも補正予算が取れず暗礁あんしょうに乗り上げてしまうのか。
状況が判明するまで、結論めいたことは言えない。
一方で全体会議の日程はあらかじめ決まっているから、その場で今後の方向性を明確に示さなければならないジレンマもある。

僕から申し上げたのは、各部会からの積み上げによる決定プロセスが、ほとんど機能していないことだ。
いくら立派な組織図であっても、そこに多くの名前がかかげられていようと、実際に機能しているのは、10本の指に余る人たちでしかない。

かつて代表が所属した政党組織とは異なり、いくら汗をかこうと物理的利益は皆無のボランティア集団だ。プロジェクト最優先で動こうという人が極めて少数なのは、致し方ない。だからこそ、営利を追求できる集団にしていかなければならないと、僕なら思う。

先祖代々この地に暮らしてきた代表にとって、おそらく理屈で理解しても、しみついた感覚がそれを拒否しているように見受けられる。
それは決して金銭を目的とすることなく、仕事をひと段落した世代(60歳から70代半ばくらいまで)は地域のため、汗を流して当たり前という感覚だ。
若い内から諸先輩方の手伝いを始め、「そろそろ頼むぞ」と声がかかれば、後を引き継いでいくのが常識という歴史を過ごしたゆえだろう。

そこでつい先日開催され、まずは成功裡せいこうりに終わった夏祭りを例に尋ねてみた。
「いわゆる働き盛りの世代、ほとんど見受けなかったと思うんですが」
お揃いの法被はっぴを着て、準備から片付けまで携わっていた数10名の中に、現役世代は皆無だった。逆にお客としてなら、若い世代も数多く訪れていたが。

「我々の頃は、青年部があったんだよね。今は(すべての地区で)無くなっちゃったからなぁ」
つまり、青年部最後の世代とは代表たち70代であって、長く受け継がれてきた地域の「当たり前」を、それより若い層にバトンタッチできなくなってしまったというわけだ。

これは僕が関わるプロジェクトにも、ほぼそのまま当てはまる。若干名は働き盛りの世代も関わっているが、中核をなすのは70歳以上ばかり。62歳の僕で、最年少というありさまだ。

ひとつのプロジェクトを「続ける」だけなら、意志を持った当事者が瞬間的に馬力を発揮すれば、しばらくの間は可能かもしれない。
ただし長期にわたり「当たり前」が続いていくには、限られた人や世代の頑張りだけではいずれ難しくなる。
自分ではない誰かへと主導権を引き継ぎ、世代交代しながら大切な価値観を守りつつ、時代に合わせて柔軟に変化しつづけることが求められる。

かつてあった「当たり前」に続く仕組みが壊れてしまった以上、世代交代を視野に入れた新たな秩序を、長い時間がかかろうと作っていかなければならない。それを従来の「組織」という型に当てはめようとするのは、難しい気がする。

動ける(動く気のある)ごく限られた人間がしっかりと決定権を持ち、横断的にことを進めていくしかないだろう。
それが高齢者に限られるなら、その現実はそのまま直視し、いずれ若い世代でも関わることが可能なシステムを、構築していくしかない。

無理して動かそうとしても、現役世代は動かない。ターゲットをその層に求めるなら、魅力を感じた彼らが向うから寄ってくる仕掛けをするだけだ。
「当たり前」に関わりたくなるメカニズムの第一歩として、利益を生む事業を立ち上げる事以外にない。

理想は理想のままにしながら、高齢者だって現金に生きられるはずさ。

イラスト Atelier hanami@はなのす


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