琴線にふれる言葉を拾う 202304-3

ボブ・ディラン 戸惑わせ続け81歳
4/11朝日
彼は「ライク・ア・ローリング・ストーン(転がる石のように)」を体現する存在として、変容し続け、動き続けることを肯定する。

→外山滋比古さんの本によると、転がる石に生える苔はイギリスでは良い物、アメリカでは悪い物

『食客論』=星野太・著 永江朗・評 
4/15毎日
本書のなかで最も強烈なのは、石原吉郎についての章だ。(略)
収容所では過酷な労働を強制されるだけではない。絶対的に食糧が不足する中で、ひとつの飯盒に入った食糧をふたりで食う。公平に分け合って、などとのんきな話ではない。飯盒をはさんで、殺し合いにならないギリギリの緊張が続く。食事の分配が終わったあとは、無我に近い恍惚感がやってきて、相手に対して完全に無関心になるのだという。

→ギリギリの緊張(高揚)後の解放による恍惚感(陶酔)

椋欄を燃やす 野々井 透 箸
雑誌「波」2023年4月
本書には、書き下ろし中編「らくだの掌」が収録されている。詰まらないのではなく、あいだを詰めない暖昧な距離のなかで、ひとはおたがいを生かし合うことがある。作者は、そのあわいに踏み込み、生のざらつきを確かめようとしている。

「汝、星のごとく」で2度目の本屋大賞 凪良ゆう
4/13京都
そもそも人との濃密な関係が苦手。だから、20歳ごろから暮らす京都市はとても居心地が良いという。「人との距離感が心地いい。にこやかに距離を取る感じが、私には水が合っている

→殺し合いにならない生かし合う距離感

配信ライブに見つけた「宝島」、サカナクション・山口一郎さんに聞く、演劇と融合「感動の種類増やす」
2023/04/16 日経MJ(流通新聞)
――人工知能(AI)を使って曲を作るような技術も出てきています。
 「僕が幼少期から書き続けてきた文章をAIに学習させて歌詞を書かせてみようっていうプロジェクトを一時期やっていました。僕はAIが作り出す音楽というものに対してすごく肯定的です」
 「テクノロジーって様々な感情のミックスをおこなってくれるものだと思うんです。人間が作ったものと同じ感動を生み出すかはわからないんですけど、新しい感動を生み出してくれるような気がします

→そもそも人間の創作と同じ感動を求めることが間違いですね

空港ピアノ 永田紅
4/18京都
言葉だってそうだろう。出典のわからない、忘れられない言葉の断片を、ずっと心に抱え続ける時間。そのもどかしさと、ある種の甘美さ。何事もいとも簡単に検索出来てしまう時代にあって、探し求める情熱や、わからない状態に耐える時間が、自らの拠り所になり得るということを忘れがちだ。

→最近ネガティブ・ケイパビリティ関連の言葉が目立つ

人にラベルを貼る功罪
草食男子 標的にされる 深澤真紀
4/19朝日
「草食男子」という言葉の生みの親は私です。女性をもののように扱うのではなく、リスペクトし、対等な関係を結べる下の世代の男性たちに向けた褒め言葉でした。しかし、結果的には若者たたきに使われてしまった。そのことを今でも申し訳なく思っています。

→ナマケモノというのはもちろん、心ない人間たちがつけた名前だ。
→ナマケモノは動物でありながら、より植物的な方向に進化したのかもしれない。
「ナマケモノ教授のムダのてつがく」より

怖い!は生きる力 楳図かずお
4/19読売
コンピューターは自分が覚えた言葉の中でしか思考できない。その言葉がどんどん増殖して、ある限界を超えた時、何か生命のようなものが生まれるかもしれない・・・。そう思ったんです。
これは、僕の故郷に近い和歌山で生まれた博物学者、南方熊楠の影響があるかもしれません。何かがたくさん集まると、別の違う何かが生まれるという熊楠の生命観はすごく面白い。それを「言葉」に当てはめたのは、僕の勝手な創作ですけどね。
南方熊楠は粘菌の単細胞アメーバが集まると「変形体」を作って自律的行動を起こすことから、粘菌を植物でなく「動物」だと考えた。

→大阪万博のキャラ「ミャクミャク」を連想する

私小説 再考の機運
4/18読売
文芸評論家の阿部公彦東京大教授(英文学)は「小説は大きな物語や理念も提示できるが、私小説はそこをぐっとこらえ、あえて些末さやむなしさにこだわる」と語る。自我が世界を組み伏せられず、むしろ不可能が示されることで、「世界がこうあるしかない」との諦めが表現できるという。「言葉の力が強すぎると作り物に見える。私小説のリアリティーはむしろ言葉の敗北に始まる。西村賢太さんは自我の負けっぷりを巧妙に表現している

→「負ける建築」ならぬ「負ける私小説」

人のように答えるAI
春日武彦
4/11朝日
人間味を出すという意味では、あえて抜けたところがあるように作られた「弱いロボット」あたりに突破口があるかもしれない。AIが自分の失敗談を語れるようになったら、大変な飛躍になると思います。

→AIが自分の失敗談を語る私小説、でもChatGPTかもしれないので共感はしない 

ムラブリ、独自世界観もつ言語の研究――伊藤雄馬著(読書)
2023/04/15 日本経済新聞 朝刊
 タイやラオスの山岳地帯に住む少数民族ムラブリ。本書は絶滅に瀕(ひん)したムラブリ語を15年にわたって研究する著者自身の悲喜こもごもの人生譚(たん)であり、ムラブリがいかなる独自の世界観をもつ人びとかを開示した学術書でもある。
 「Up is Good」「Down is Bad」を普遍的な特徴とみる認知言語学の説とは違い、「心が上がる」が「悲しい」や「怒り」、「心が下がる」が「うれしい」や「楽しい」の意味になるムラブリ語。興奮に相当する言葉がなく、ささやかな主張をするにも「私は怒っているわけではない」と繰り返す人びと。そこから他民族との接触を避けて森のなかでひっそり暮らす中で生まれた感情規則や他人に認めてもらうのとは異なる幸福のありようが浮かび上がる。
 著者は言う。蛾(が)が光に集まるといった生物の生得的な習性のひとつ「走性」のように、自分は「正の走“ムラブリ”性」に導かれ、ムラブリの身体性を獲得してしまった。

→ムラブリをムチャブリに持っていこうとする「正の走"ムチャブリ"性」を抑えられない

怖い!は生きる力 楳図かずお
4/12読売
僕にとって、笑いは恐怖の1ジャンルなんですよ。僕が好きな言葉は、「追っかければギャグ、追っかけられれば恐怖」。鬼ごっこのように、追っかける方は楽しい。逃げる方は怖い。同じ物事を違う方向から見ているだけです。

→番組「逃走中」の役割の逆転でギャグになるか見てみたい

生きる意味があるかのごとく
芝伸太郎 もみじケ丘病院 精神科医
4/18京都
さて、人生に意味があるのか否か。正解のないこの問いにおいても「あるかのごとく」振る舞うこと、つまり認識を超越する実践が未来を切り開く駆動力になります。「生きる意味があるのか」と問うのではなく「生きる意味があるかのごとく」歩んでいただきたい。人生の意味に悩めるすべての方々へ、精神科医から贈る言葉といたします。


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