AIR RACE X 渋谷デジタルラウンドのトラック解説
2023年10月15日に決勝トーナメントが開催される「AIR RACE X 渋谷デジタルラウンド」。AR技術によって渋谷の街中をレース機が飛び回るという前代未聞のモータースポーツだが、ついにレースが行われるトラックレイアウトが公開された。レースの予想や、現地でのAR観戦に役立ててほしい。
■ 3つのセクターに分かれたトラック
AIR RACE X 渋谷デジタルラウンドのレーストラックは、JR原宿駅南の国立代々木競技場付近からJR渋谷駅ハチ公口のスクランブル交差点(今や観光スポットとして来日観光客に人気)までの地域に、4つのゲートを使って設定された。山手線で1駅の区間だが、ゲートAからゲートDまでの直線距離は700m~1kmほどあり、両端でターンするスペースを含めれば2km弱という長さになる。
レースでは、この4つのゲート間を異なるルートで3往復する。それぞれは「セクター」という形で区切られ、折り返しのゲート通過後は指定の方法でターンしなければならない。毎回異なるターンが見られるのも注目のポイントだろう。
もちろん、AR技術を活用して「渋谷の街中」を飛ぶ想定なので、実際の起伏によってゲートの高度は異なり、ビルなどの建造物も障害として立ちはだかる。パイロットたちは「見えない高層ビル」を避けながら、それぞれのゲートを通過しなければならないという点も留意すべきだろう。
観戦会場として設定されているのは、有料会場として渋谷スクランブルスクエア東棟15階にある「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」、無料会場として渋谷PARCO10階の屋上ガーデン「ComMunE」(無料会場のComMunEは、既定の人数を超えた場合には入場できない場合あり)。そしてこの他にも無料観戦会場を設置すべく、10月6日までクラウドファンディングプラットフォームの「READYFOR」にて支援金(目標金額700万円)を募集している。
有料会場である「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」の入場に際してはチケット販売ではなく、READYFORでリターンのあるクラウドファンディングで支援する形式を採用。入場権の他にも限定グッズが付属したリターン内容もあるので、詳しくはクラウドファンディングのページを参照してほしい。
■ 3種類のバーティカルターン 注目は「バーティカルロール」マニューバ
レースでは折り返しとなるゲートを通過後、指定された方式でターンしなければならない。ターンは大きくフラットターン(水平旋回)とバーティカルターン(垂直方向に宙返りする旋回)に分けられるが、バーティカルターンには3種類の方式が定められている。それぞれを見ていこう。
ハイターン
半径の大きい垂直旋回で、高度500フィート(152m)まで達することが要求され、達しない場合はプラス2秒のペナルティが課される。大きくダイナミックな機動が見られるはずだ。
ローターン
半径の小さな垂直旋回で、最低でも高度250フィート(約75m)まで達することが要求され、達しない場合はプラス2秒のペナルティが課される。大きなG(重力加速度)がかかるため、オーバーG(12Gを超えると失格)にも気をつけなければならない。
バーティカルロール
AIR RACE Xで初採用されたターンで、ターンの頂点に達する前、ターンするゲートの平面を横切る前に機体の前後方向を軸に315度以上のエルロンロール(横転)をしなければならない。ターン時は最低700フィート(213m)の高度に達する必要があり、ロールか高度どちらかの要件を満たさない場合、プラス3秒のペナルティが課される。
■ セクターごとの解説
第1セクター
JR原宿駅方向から速度(GPS基準の対地速度)200ノット(時速約370km)で進入したレース機は、国立代々木競技場付近(東京都水道局代々木増圧ポンプ所とドーミーインPREMIUM渋谷神宮前に挟まれたあたり)に設置されたゲートAを通過してレースが始まる。宮下公園手前の明治通りに設置されたゲートB、山手線を挟んだ公園通りと神宮通りの交差点(渋谷モディ前)付近に設置されたゲートCを通過し、JR渋谷駅ハチ公口前のスクランブル交差点に設置されたゲートDを通過後、渋谷駅上空でハイターンしてゲートBを経由し、ゲートAへと戻る。
ここではビルの間を縫うようにして飛ぶレース機の、渋谷駅上空で大きく宙返りする様子が観戦のポイント。ビルなど高い場所で見るならば宮下公園(MIYASHITA PARK)や向かいのcocoti SHIBUYA、ハイターンの頂点最低高度は500フィート(152m)なので、渋谷駅前の渋谷フクラス(東急プラザ渋谷)屋上テラス「SHIBU NIWA(高さ103m)」、渋谷スクランブルスクエア付近が絶好の場所となるだろう。
第2セクター
渋谷駅側からゲートAを通過したレース機は、明治通り沿いのビル群を避けるように右へのフラットターン(水平旋回)で折り返し、第2セクターに入る。ゲートB、ゲートCを通過したのちはローターンで折り返し、山手線の西側にあたる神宮通りやファイヤー通りをすり抜けるように飛んでゲートAへと戻っていく。
このセクターでは、低空を自在に飛ぶレース機の動きが観戦のポイント。渋谷駅ハチ公口前のスクランブル交差点だけでなく、渋谷モディ前のスクランブル交差点やタワーレコード前、宮下公園(MIYASHITA PARK)付近で迫力あるフライトが堪能できそうだ
第3セクター
第2セクターを終えゲートAに戻ってきたレース機は、頂点での最低高度が500フィート(152m)に達するハイターンで折り返し、そのままゲートCへ直行する。ゲートDを通過後は今回の目玉、バーティカルロールでターンし、ゲートAに直接戻ってゴールとなる。
垂直方向での動きが多いセクターなので、地上よりもビルから観戦した方が楽しめるかもしれない。バーティカルロールでは最低でも高度700フィート(213m)に達することが要求されるので、渋谷フクラスの屋上テラス「SHIBU NIWA(高さ103m)」では上昇中のロールが真横で見られるだろう。また、渋谷スクランブルスクエアは高さ230mなので、最上階の展望施設「SHIBUYA SKY(高さ229m:有料)」では、下から間近に迫ってくるレース機を見られそうだ。
■ その他レースでのタイムペナルティ
レースでは各種のルールが定められており、違反すると飛行タイムにタイムペナルティが加算される。それぞれのタイムペナルティは以下の通りだ。
スタート速度超過
GPSにより記録された対地速度が定められたスタート速度を超過すると、3ノット以内であればプラス1秒、それ以上ではDNF(途中棄権)となる。渋谷では200ノット(時速約370km)なので、203ノットまではプラス1秒のペナルティ、それ以上ではDNF。
スタート高度超過
コースのベースライン(地上での標高)に対し、50mを超える高度でスタートゲートを通過するとDNF(途中棄権)となる。
ゲート通過高度違反
コースのベースラインに対し、50mを超える高度、または15m以下での高度でゲートを通過した場合、2秒のペナルティが加算される。
インコレクトレベル(機体姿勢違反)
ゲート通過時、バンク角20度以上の傾きがあった場合、2秒のペナルティが加算される。
クライミング・イン・ザ・ゲート(ゲート通過中の上昇角違反)
ゲート通過時、10度を超える上昇角が記録されていた場合、2秒のペナルティが加算される。
ディセンディング・イン・ザ・ゲート(ゲート通過中の下降角違反)
ゲート通過時、2度を超える下降角が記録されていた場合、2秒のペナルティが加算される。
パイロンヒット
レーストラックの中心線から12m以上36m未満の範囲でゲートを通過すると、3秒のペナルティが加算される。この範囲を超えた場合は「コース逸脱」としてDNF(途中棄権)となる。
インコレクト・ハイ/ロー・ターン
ターンゲートと次のゲート(リカバリーゲート)との間のバーティカルターンで、ターン中の最高高度がトラックのベースラインを基準とした規定値(ハイターンでは500フィート、ローターンでは250フィート)に達していない場合、2秒のペナルティが加算される。
インコレクト・バーティカル・ロール
バーティカルロール中、最高高度がトラックのベースラインを基準とした規定値(700フィート)に達していないか、再びターンゲートの平面(ゲートの中心線を基準とした垂直面)を横切る以前に315度以上のロールを実施していない場合、3秒のペナルティが加算される。
オーバーG
レーストラックを飛行中に12Gを超える負荷が計測された場合、そのフライトはDQ(失格)となり、パイロットは直ちに着陸し、機体に応力による損傷がないか検査しなければならない。
セーフティ・クライムアウト
レース機のゲート通過が検知されないまま、30秒以上が経過した場合、当該のフライトは途中棄権(DNF)したとみなす。
それぞれの飛行経路と飛行高度は、飛行データ計測システム(RDU)用として機体に設置されたGPSアンテナの位置を「機体基準点(FRP)」とする。多くの場合、コックピット後方の胴体表面に装着されるものと考えられるので、垂直尾翼を除いた胴体の上面と考えても差し支えないだろう。
■ パイロットは飛行中にどうゲートを参照する?
リアルメタバースプラットフォーム「STYLY」上で観戦するレースでは、観客の前にエアゲートが見えるものの、実際に飛ぶパイロットは飛行中、その姿を見ることはできない。では、どのようにゲートの位置を確認するのだろうか。
エアレース エックス実行委員会の説明によると、地上に飛行データ計測システム(RDU)用として各ゲートの位置に合わせ、小さなピラミッド型あるいは他の材料で作られたマーカーを設置し、それを基準に飛ぶことになっているという。飛行中のパイロットが視認しやすくすることも可能なようだ。
とはいえ、速度200ノット(時速約370km)での飛行中、そのような目標を確認してターンすることは難しい。幸いにして練習飛行はいくらでも可能なので、飛行を重ねてデータとパイロット自身の感覚とのズレを調整し、あとは体で覚えた(英語では「マッスルメモリー」と呼ぶ)感覚でゲートを感じ取り、飛行することになるだろう。
飛行中にゲートを視認できない分、パイロットの正確な操縦操作がキーポイントになる「AIR RACE X 渋谷デジタルラウンド」。観戦する際には、各パイロットの研ぎ澄まされた感覚を目の当たりにすることとなるだろう。
画像提供:エアレース エックス実行委員会