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室屋義秀レース機に新HUDと学生作のグレアシールド装着

 AIR RACE X 2024年シーズンに参戦している室屋義秀選手のレース機に、新たな装備が加わった。福島県立テクノアカデミー浜の学生が製作したグレアシールドと、LEXUSが開発した新たなHUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)だ。7月4日、ふくしまスカイパークのHANGAR 1にて、そのフィッティングが実施された。


テクノアカデミー浜との協業によるグレアシールド

グレアシールドとは

 グレアシールドはコックピット内にあるパーツで、計器盤上部を覆うパネル状のものをいう。車の部品でいえば、ダッシュボード上部にあたる。

 単に計器盤裏側の配線などをカバーするだけでなく、環境光によるキャノピー内側への反射を抑え、良好な視界をキープする役割を担う。一瞬の判断の遅れが大きなミスにつながるエアレースにとって、軽視することはできないパーツだ。

 今回、グレアシールドの製作を担当したのは、福島県南相馬市にある職業能力開発校「福島県立テクノアカデミー浜」機械技術科の学生たちだ。室屋選手とは2020(令和2)年度より「REALSKYプロジェクト」として、エアレース機の部品製作や軽量スポーツ機(LSA)の開発に取り組んでおり、これまでにもエンジンカウル下部のエアインテーク部品を納入している。

 学生たちが製作したグレアシールドの素材はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)。画像左が新しく製作されたグレアシールド、右が従来のものだ。仮合わせの段階なので表面にツヤがあるが、この後に反射を防ぐための植毛加工が行われるという。

テクノアカデミー浜の学生たちが作ったグレアシールド(左)と従来品(右)

微調整は現物合わせで

 室屋選手のレース機、エッジ540V3の計器盤の裏側は各種の配線がぎっしりと詰め込まれている。これでも統合型ディスプレイの採用により、シンプルになってはいるのだが、それ以外にもテレメトリやHUDに使われるデータバスなどの配線が目立つ。もちろん、この計器盤もエアレースのためにワンオフで作られたカスタムパーツだ。

室屋選手のレース機計器盤裏側の配線
計器自体は統合型ディスプレイの採用によりシンプル

 事前に計器盤を採寸し、それに合わせて作ってはあるが、実際に装着して問題がないかをチェックする。

グレアシールドのフィッティング作業
実物合わせでのズレを確認する

 計器盤上部との間に若干の隙間があることが判明。一旦取り外し、慎重に削って寸法を合わせていく。

表面を削って寸法を微調整する
裏側の状態も確認する

 室屋選手も作業を見守る。その表情からは信頼の色も見受けられた。

作業を見守る室屋選手 

画面が拡大した新HUD

LEXUS車の技術を応用したレース機用HUD

 HUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)は戦闘機などに使われている表示装置で、最大の特長は「計器盤に目を落とさず情報を確認できる」ことにある。現在は旅客機などにも採用され、そのメリットが享受されるようになっているが、瞬時の判断が必要なレース機も同じように有効な装置といえる。

 戦闘機や旅客機などに使われているHUDは、投影装置とその映像を反射させてパイロットに見せる「投影板」ともいえる透明な板が必要だが、空気抵抗を低減するため極限まで形状が絞り込まれたエアレース機では「投影板」を設置するスペースがない。

 ここで「クルマ屋」であるLEXUSの知見が活かされた。一部の高級車に搭載されている、フロントガラスに情報を投影する技法である。情報を直接キャノピー内面へ投影することで、省スペースなレース機向けHUDが実現できたのだった。

 もちろん、ほぼ平面な車のフロントガラスと違い、レース機のキャノピーは曲面であり、そのまま投影すると像が歪んでしまう。チームの技術コーディネーターを務める中江雄亮氏(LEXUS)は、詳細は明らかにできないものの「歪みを逆算して映像の形を工夫したりしています」と過去に語ってくれた。

従来品との違い

 新しいグレアシールド製作に合わせ、LEXUS側でもHUD(ヘッドアップ・ディスイプレイ)の刷新が図られた。一目で見て判るのが画面の大きさだ。従来品では3段に表示部が分かれていたが、新しいものでは2枚の表示パネルを横に並べ、寸法を拡大して1画面として表示できるようになった。

従来のHUDユニット
新しいHUDユニット
新しいHUDのコントローラ

 画面が拡大したことで、より多彩な情報の表示が期待される。

輝度を増したマイクロLEDディスプレイ

 HUDに使われているのは、微細な3色(赤・青・緑)のLEDを配置してカラー表示を実現する「マイクロLEDディスプレイ」。従来に較べて輝度もアップしており、この大きさのマイクロLEDディスプレイをHUDに採用するのは「おそらく世界初(中江氏)」とのことだ。

チームのロゴ(鏡像)を表示したHUDユニット

室屋選手によるHUDの仮調整

 グレアシールドのフィッティング作業がひと段落し、今度はHUDの調整作業に移る。PCを接続し、調整用のサンプルパターンを表示して実際のキャノピーに投影し、コックピットに搭乗した室屋選手に確認してもらうのだ。

PCを接続し、HUDにサンプルパターンを表示させる
コックピットに搭乗した室屋選手
表示の歪みを確認するためのテストパターン

 あくまで「仮調整」ということなので、チューブラーフレームにキャノピーのみを取り付けた状態はユーモラスにも見える。

HUDの見え方を確認する室屋選手
実際の風景を見ながらHUDの明るさを確認する

 カラーバーの表示をコックピット後方から見てみると、確かにキャノピーに投影された画像は歪んでいる。

キャノピーに投影されたHUD画像

 室屋選手に以前うかがった話によると、表示される情報については「よく見える視野の中心部に表示すべき情報と、周辺視野でかまわない情報を選別している」とのことなので、今後様々なテストを経て、新しいHUDでの表示を詰めていくことになるだろう。

囲み取材での談話

 一通りの調整作業を終えた時点で、室屋選手とテクノアカデミーの学生代表との囲み取材の場が設けられた。

 室屋選手は、テクノアカデミー浜との協業について「これまでの実績があるので、こちらとしては信頼している」と語った。製作についてのコミュニケーションは「他のプロたちと開発する時と区別はしておらず、同じ方法論で仕事をしている」とのことだった。

囲み取材に応える室屋選手

 福島県立テクノアカデミー浜機械技術科(2年制)2年の西内竜也さんは、グレアシールド製作に携わったことについて「まさかこんなことになるとは」と驚きを口にしつつ、製作面での苦労を「樹脂に気泡が入らないようにするところが大変だった」と語ってくれた。

囲み取材での西内竜也さん

 卒業年次の西内さんは就職活動も始めており「第一志望の会社は航空機関連です」とのこと。この経験が今後のキャリアにつながることを期待したい。

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