Seiichi Futakuchi Old Basson Historical bassoon
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ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 9
ジェームス・ウッドによる改造 シューシャルトのバスーンについて、ネットの記事を探していたら以下のようなことが判明しました。 この楽器はもともと4-Keyなのですが、19世紀ロンドンの木管楽器製作者、ジェームス・ウッドによって改造されたようです。 ・Low E♭とF#キーの付加(あきらかにキーのデザインが違う) ・ウィングジョイントの南端は高ピッチ対応のため2度カット(その後延長された) これらはおそらくウッドの仕事だと推測できます。 その後オリジナルに近い長さに継ぎ足
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 8
閑話休題 シューシャルトのバスーンについては、情報がほとんどないのですが、アメリカの新聞記事のデータベースに当時の記事として面白い情報をみつけたので掲載します。 (出典) The Performing Arts in Colonial American Newspapers, 1690-1783 Text Database and Index (by Mary Jane Corry, Kate Van Winkle Keller, and Robert M Keller)
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 7
リードについて ヒストリカルファゴットのリード全般に言えることは、 1,どの国のモデルなのか 2,当時のオリジナルメーカーの実働年代はいつごろか 3,当時のその国のピッチがどのくらいなのか、 4,実際に演奏に使用する場合のピッチ 5,(レプリカの場合)現代のどのメーカーのレプリカなのか A.オリジナルの計測値を忠実にコピーしているメーカーなのか B.現在の演奏家の要望をフィードバックしているメーカーなのか がリードを製作する際に考慮すべき要素になります。 今回はオリジ
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 6
修復についてのまとめ(覚書) リードのお話の前に、まず今回の修復をするにあたってのコンセプト、そして作業を大きく進めるのに役立った「2つの重要な気づき」についてお話します。そのまえにこの楽器についての情報をもう一度まとめておきます 楽器の由来・歴史的背景 ・1980年サザビーのオークションに出品されたもの ・堂阪清高氏が落札 ・製作年について シューシャートの製作活動は1741-1754とされるが、以下の資料より1740年より前であった可能性がある この楽器が使用され
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 5
ソケットを修復しました 最小径はレプリカよりやや狭い9mmに決定して、ソケットを固定しました。 見た目も損なわれずできたと思います。 内径のブラッシュアップの準備 オリジナルジョイントの内径は下端から4センチほど上のあたりにえぐれがあったので、樹脂で埋めて再度削り出すことにしました。 さて、ここからが勝負、です。このままではおそらく第2オクターヴの音階が並ばないので、またまた試奏しながら最大径を広げていくという作業です。 どの運指を採用するかが重要 バロックファ
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まだまだ、長い道のりです。オクターブが全然おかしいのはテナージョイントのテーパーの問題なのでまず最小径の位置を決めることだと考えました かなり、試行錯誤を繰り返しました(詳細は記述しませんが) その結果、2024年の年明けには以下のような状態までこぎつけました。 こちらは、レプリカのテナージョイントを試奏したものです。せめてこれくらい音が並ばないとコンサートでは使えません。 作業の記録 内径の修復と並行してオリジナルのトーンホールも修正しています。 オリジナルを直す!
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 3
試行錯誤 オリジナルの部分をそのまま残しての修復ですから、ここからの作業は ・最小径の適切な深さを決める ・ブーツジョイントの接合部に対して広すぎる最大径をブーツに合わせる ・トーンホールを広げ音程と吹奏感を微調整する ・決定した最小径のソケットを固定 ・欠落部分の修復 ・最終調整 となります。 つまり、ちょっと修正して吹いてみる、の繰り返しです。 この動画ではぶら下がりまくりで、eがe♭になってます。 最小径の深さを再検討する必要がありますね。
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録 2
テナージョイントの状態を観察 ・ソケット部分に折れ、欠損 ・数カ所に割れの修復痕がある(修復年代は不明)ここからの漏れはなし ・ソケット下端から最小径にかけて破損と腐食がひどく大きく広がったまま ・過去に修復を試みたときの蜜蝋が内径に残っている ・ソケット周辺の木部は腐食が進んでもろもろになっている ・テノン部分の漏れがひどい(おそらく腐食による劣化、木がスカスカ) この状態から、コンサートで使用可能な状態にする修復の手順を考えました。 修復手順 1,作業工程 ・内
ヨハン・ユスト・シューシャルト(Johann Just Schuchart :London. ca.1741-1753))破損したテナージョイントの修復記録
この楽器について (バロック・ファゴット:形式、構造、音響、演奏のクオリティ:マシュー・ダート著 によると、 シューシャルト のファゴットは1つ現存しているそうです。つまり今手元にある楽器です。 製造年代は 1741 年から 1753 年の間であると考えられますが、諸説ありそうです。 この世界でただ一本の楽器の楽器を落札したのは、私の師・堂阪清高氏です。その時からテナージョイントはボーカルソケットの部分が破損しており、最も大切な最小径部分も原型をとどめていない状態でした。
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Triste(寂しい、悲しそうに、嘆き)
2021-08-03 13:16:44 テーマ:ブログ Telemann Bassoon Sonata in F minor TWV 41 この曲はファゴット奏者にとってはバロック期のソロソナタの定番であり、私もリサイタルで演奏、その後はバロックファゴットでも演奏したことがあるのですが、自分にとっては「しっくりいかない」作品でずっと遠ざけていました。得体の知れない違和感を感じているのです。また、冒頭に「Triste(寂しい、悲しそうに、嘆き)」と記されています。これがなかなかの曲者で、この表記をどう表現するかが問題で、変に抑揚をつけると主観的でグロテスクになってしまう恐れもある曲です。 さて昨年、あるアンサンブルの練習の際に、チェンバリストの中田聖子さんが「この部分の和音が変?? でも普段、自宅の楽器で使用している ミーントーン系の調律法でさらっていると、変だとは全く思わないんですよね」と、そのときにこのソナタもミーントーン(中全音律)が合うのかもと考えました。この仮説を証明しようと彼女にお願いして演奏実験を行いました。平均律とミーントーンでのセッションです。ファゴット現代奏法の第一人者、中川 ヒデ鷹氏(東京音大講師)、妻でありトランペット奏者の池田 有加、そして私が参加しました。 (このときの実験について書いている中田聖子さんのメルマガPDFです↓ https://drive.google.com/file/d/13Vv2sfyAiEWyAND6sLDSq-CsisZhiyCG/view?usp=sharing 中田さんのご好意でリンクを貼らせていただいていますよろしければご覧ください) 平均律で中川氏が演奏 中川氏はこの作品をことのほか大切にしており、度々演奏しているので、さすがに第一級の完成されたセッションでした。しかし、中川氏が曰く「表現の行き詰まりを感じている」とのこと。おそらくこの感覚は私自身の「しっくりこない」感覚とおなじだと思いました。それは平均律調律での演奏ではなかなか解消されませんでした。 次に、ミーントーンに調律を変えて、再び中川氏のセッション。実際に聴いていてもとてもいい感じ、感覚的ないい方ですが、使える色が増えて、深い表現ができた演奏でした。セッション後の中川氏コメントは 「何も考えなくても演奏が出来る状態になった」「シンプルに吹いても、勝手に表現が起こる」ということでした。そのまま次に演奏した、e-mollのガンバソナタの1楽章も、その言葉通りの素晴らしい演奏になりました。 その後、私がバソンで、最後に有加がトランペットでそれぞれセッションをしたのですが、まさに中川氏のいう通りでした。また、トランペットによる演奏(有加にとっては音大受験曲)はフレーズによっては、音色ののびやかさによってファゴットよりいい感じ(中川氏/私)になることもわかりました。 その後、中田さんからミーントーン調律で動画撮影の依頼があり、私のバソンで2回目のセッションを動画にしました、近々にご紹介できると思います。 2回のセッションのまとめ お話しする前の前提として(鍵盤楽器との演奏について) これは、鍵盤楽器とソロ曲を演奏するときの考え方もあるのですが、ピアノであれチェンバロでもオルガンでも私はいわゆる「伴奏とソロ」という発想でピアノの蓋を閉めたり、チェンバロの音を大きな音で塗りつぶしてしまうような演奏は好みません。基本は常に対等であり、自分は和音の中を漂っていて、ときに沈んだり、浮かんだりして音楽を表現したいからです。以下はこのことを前提としてお話させていただきます。 結果はやはりミーントーン(modify)で演奏するのが私にとっては正解でした。とにかく全ての音がとてもしっくりと収まります。だから意図的なことを何もしなくてもチェンバロの紡ぎ出す色合いに乗っかって吹くことで自然に音楽表現が意図されたようになっていくのです。Tristeという指示は演奏者が特に意識しなくても、和声の変化、色彩と旋律を演奏するときの音程感だけで十分に表現できると思います。 このときは、ヴァロッティ調律でも演奏しました。この調律法はバロック音楽を演奏するときに、よく使われており古典調律の中でも比較的平均律に近い調律法でどの調性でも対応可能ですが、ヴァロッティで演奏してみた感想は「あれ?」「これは普通だよね」でした。 吹いている感覚としては、かなりいろいろ無理して吹く感じです。結果は決して悪くはないのですが「整っているけど、色や味が薄い」という印象でした。まさに「表現の行き詰まり??」(あくまで好みの問題ですが) 以下、実験を通じて発見した演奏上のヒントなどを書いてみます。(ここからはかなり独断です) 冒頭の3連音符は「なにもできない」「なにもしない」「やるなら最小限」がいいと思います。開始のcは裏拍でアウフタクトなので軽く、ここを情感たっぷりに演奏してしまうと、全体の味付けがゴツくなりがち。3連音符が続くパッセージはこの曲では2箇所で3連音符自体「イレギュラー」な存在です。なのでことさら強調する必要はありません。私は独断で6連音符のように扱います。(コンクールではアウトかも。。) 9〜11小節目にかけてはc、dを経てebにたどりつき収まる、同様に28〜30小節めのfまで(この f で音楽を収めてすぐに次のcからはじまる半音階の下降に移行します) この楽章で私が最も好きなのは21〜24小節目のフレーズです。特に「b♭」「c」は小節線を超えた瞬間に濁りのなかに入ります、埋没するもよし、強調するもよし、この楽章で一番美しい響きだと思います。ミーントーンの良さを一番感じやすいのもこの部分です。このような場所はファゴットでの演奏は伸びやかさに欠けるので、工夫がいりますがミーントーン&トランペットによる演奏はより美しく響きます。 この楽章で特徴的なのがソロとバス(チェンバロの左手)に現れて受け継がれる半音階進行です。途中では上昇と最後には長い下降。この部分はチェンバロの響きの中に漂うように交互にあらわれる半音進行を楽しんでください。特にd♭の入りはデリケートに。 長い間、遠ざけていた作品ですが、ミーントーンでならば自分のレパートリーに入ります。機会があれば、コンサートでもう一度取り上げてみようと思っています。