「スタローンになりたいな」第3話
粗末な小屋の中、服を脱がされたカナ・ロールの上に覆いかぶさるおじさんの目はギラついていて呼吸も激しい
薄明かり下、入口のすき間からバッファ・林が覗き見たカナの顔は全くの無表情で感情の色が読めない
おじさん「うっ」
おじさんは嘆息すると下ろしていた衣服を上げ彼女の身体から離れる
そして入口付近に身を潜めその光景を凝視していたバッファに気がつく
おじさん「何だ、お前。見てたのか…」
そしてバッファの下半身に目をやると邪悪に笑った
おじさん「バッファ、お前、一丁前に勃たせてるじゃないか」
動転したバッファは何も言えなかったが目ではどうしてもカナの裸を追ってしまう
しかしカナはまるで魂が抜けてしまったようにぴくりとも動かない
おじさん「安心しろ。人間とAUMの間に子供は出来ない。それに…」
おじさんはバッファの耳元でささやく
おじさん「AUMは早い成長と短い寿命の分だけ女の旬も短い、こいつもすぐにオレの嗜好を外れちまう。その後はお前がすきにしたらどうだ」
バッファ「うわぁぁぁ」
バッファはその言葉を聞いておじさんを殴りつけようと飛びかかる
しかしその拳が届く前におじさんの蹴りがバッファの腹部を直撃してバッファは身動き一つしないカナの近くまでふっ飛ぶ
おじさん「お前との組手は楽しいよ。なんたって殺しさえしなけりゃ、どんだけ殴っても問題ないんだからな。バッファ、お前は痛みを感じない上に回復も早い。これだけ便利な生肉でできたサンドバック、ここでの退屈な生活にはピッタリだよ」
おじさんが屈み込んだバッファを上からめちゃくちゃに蹴るのでバッファは身動きが出来ない
おじさん「まったく、トレーナー時代は金回りも良くて好き放題出来たってのに、どこでオレの人生狂っちまったんだろうな。今回みたいにガキをちょっと味見したくらいで問題にしてクビにしやがって。オレの人生お前らAUMのせいでめちゃくちゃだよ」
必死で身を守るバッファはカナの方を見る
彼女の目には生気が感じられず身体から力が抜けてしまっているのは変わらずだが口元がわずかに動いた
そしてその彼女の目尻から涙が一筋流れる
バッファはそれを直視することが出来ず苦悶の表情を浮かべて視線を下に逸らす
しかしその先で彼が見たのは彼女の脚の付け根から幾筋に伸びて作られた床の小さな血溜まりだった
それを見た時バッファの中で身体の中が沸騰するような感覚が湧き上がった
おじさんの蹴りを手で払い除けるバッファ
立ち上がりカナの前に立ちふさがる
おじさん「…おう、どうした。急にやる気になったか。ただ本気で来るなら、殺すつもりで来いよっ、おらぁ」
▲バッファ・林の独白
そこから先の記憶はおぼろげではっきりしない
気がつくとカナの小屋の中、目の前では動けなくなったおじさんが半殺しになって倒れていた
オレはオレの隣で呆然となっていたカナを連れ出し
パンの配達で近くまで来ていたおばさんに助けを求め
オレたちはすぐにその場で保護された
その後オレたちのいた牧場の実態が明るみになり
オレたちはその牧場から学校と呼ばれる場所に移されることになった
しかし年齢と雌雄が考慮され
オレとカナは全く別の場所にある学校に別れて連れ出された
学校はまだ若いAUMが公式な賭博試合に参加する前段階の訓練を受けるための場所らしかった
数えで4歳になったAUMは大抵そこに送られ
寝食をともに1年間その場所で最低限の読み書きや戦闘訓練を受ける
オレはそこで初めてカナ以外の自分と同年代のAUMと対面した
それで知ったことは
オレたちが育った牧場は普通のAUMが育成される牧場と比べてかなり環境が劣悪であったらしいということと
痛みというものが分からないオレは
周囲と上手くやることが出来ずひどく嫌われやすいタチであるということだった
集団生活が当然となる学校でオレは完全に孤立していた
またおじさんがカナにしていた行為の意味を知ったのもこの学校での授業だった
親の能力が子へと色濃く受け継がれやすいAUMにとって生殖はとてつもなく重要な行為らしい
しかも早い成長と短い寿命によるとても早い生命サイクルは進化のスピードを尋常じゃなく高速にした
同じ似姿をしながらも人間が3代の子孫を残す間にAUMは10以上の代をかさねる
そうやって戦いに勝利したAUM同士をかけ合わせ続けきたことこそ現代のAUMの強さの源泉だそうだ
故に戦いに勝利し続けた強力なAUMの子
その下準備としてのAUMの種付けの権利は
とてつもない高値で取引されていて賭博試合の賞金以上にAUMやそのオーナーの懐を潤している
チャンピオンになったAUMは翌年に100以上の相手と交尾するのもざらだ
というのが学校の教師の受け売りだった
牧場から保護された直後
オレとカナは治療だ何だと病院に入院させられていてまともに顔を会わせる機会もなく別れた
しかし最後にオレは病室のカーテンのすき間から一瞬だけ彼女の顔を見ていて
それはまるで全ての感情をあの小さな小屋の中に置き忘れてしまったように無表情
やはり以前の屈託なくオレに笑いかけてくれた無邪気さの面影は無かった
おじさんのことは分からない
多分生きているのだろうが
色々表に出したくない事情もあったのか
オレたちが人間であるおじさんに危害を加えた件で処分されることは不思議と無かったしオレもそのことはどうでもよかった
オレに痛みが分かったならば
カナの変化にももっと敏感に気がつくことが出来たのだろうか
もしそれが出来ていたならおじさんの悪行を防げて
カナは今も以前と同じよう無邪気にオレに微笑んでくれていたのだろうか
考えることが苦手なオレにはそんなことよく分からなかったし過ぎてしまったことを今から取り戻すことは出来ない
だからオレは強くなることにした
カナをどんな相手からも守れるくらいに強く
カナがどんな時も素直に「助けて」と言えるほどに強く
オレは孤立しながらも学校で必死にトレーニングを続けた
オレは筆記の成績はひどかったが戦闘の成績はかなり優秀だった
そしてオレが学校に移されてから1年後に卒業を兼ねた合同オークションが開催され
その事前に行われる模擬試合でオレは相手を再起不能になるくらいボコボコにした
その後に行われたオークションでオレに入った入札は1つも無かった
オレはどれだけ強くなった所でスタートラインに立つことすら出来なかった
▲バッファ・林の独白、終わり
何もない部屋、バッファは気力を失い壁にうなだれている
ラ「何だいここは、随分と嫌な臭いがするね」
無遠慮にその部屋の中へ侵入してくるイオン・ラ
彼女の身長はまだ小さく立っているのに目線は床に座っているバッファよりも少しだけ高いくらい
バッファ「………」
ラ「全く君はやり過ぎだよ。加減ってものを知らない」
バッファ「アンタ誰だ?」
ラ「AUMの試合っていうのは殺し合いじゃない。あくまでも求められているのはショーなんだ。人々が応援してくれて、そこにお金を賭けてもいいと思えるようなね」
ラは溜め息をつく
ラ「それなの相手も自分もあんなに傷めつけちゃうなんて。怪しげな出自も相まってオークションで買い手なんかつくはず無いよね」
バッファ「そうだな、誰か知らないけどアンタの言う通りみたいだな」
ラ「あらら認めちゃったよ。つれないなあ、そんな君を買おうって奴がここにいるっていうのに」
バッファ「は?」
ラ「バッファ君、君のこと少し調べさせてもらったよ。
現代ではまずお目にかかることも無いマイナーな血統とそれに付随する痛みを感じないって能力。それから君が学校に来る前の牧場であった事故について」
イオン・ラは嬉しそうに笑ってバッファに顔を近づける
ラ「君からはね、とても古臭い戦争の頃の記憶がぷんぷんとするんだ」
バッファ「…どういう意味だ?」
ラ「君という存在がとても貴重だということだよ。あと、君と同じ牧場にいたカナ・ロールさんだっけ?」
バッファ「カナのことも知っているのか?」
ラ「詳しいことまでは分からないけど、彼女は君にとってとても大切な相手みたいだね。だけど、今のままじゃ彼女には近づくことすら出来ないのは君自信にも分かっている」
そう言ってラはバッファの手を握り彼を壁際から立たせた
ラ「初めましてボクは君のトレーナーを務める予定のイオン・ラだ。君はボクと戦争じゃなく革命を起こしにいくんだ」
ラはバッファの手を引くと明るい場所へと連れ出す
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