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ロシア政府系シンクタンクのヘルソン撤退評価

11月10日 露シンクタンク専門誌:(3,810 文字)
ヘルソンの反響が響いている
http://prisp.ru/analitics/11833-ponomarev-dolgoe-eho-hersona-1011…

政治学者でPRISPセンターの専門家であるニコライ・ポノマレフが、へルソンからの避難が露軍に与えるイメージの影響について語る

11月9日、露軍司令部はへルソン市から露軍を撤退させることを決定した
専門家や広報担当者は、そこに隠された意味を見出そうとし、何が起こったのか、さまざまな説明を競うように考案している
しかし、どのような説明をしようとも、へルソン撤退決定が新たな刺激を与え、露人自身の目から見た露軍の権威を著しく低下させることは明らかであろう

フィンガー・ストライク・スタイル
さかのぼって、2022 年 3 月末、特別軍事作戦 の初期段階の戦略と戦術に関する決定は間違いだらけだったという論文が Web 上で活発に議論された

以下の議論は、この観点を補強する基礎となった
その支持者によれば、ウクライナに派遣された露軍司令部は、ウクライナの軍隊を打ち負かすには明らかに不十分だったが、可能な限り広い戦線を広げた
最終的に、軍隊の分散を招き、大きな損失と攻撃力の喪失につながったという

この論文を支持する初期の根拠は
1)キーウ、チェルニヒウ、スミ、ポルタヴァ地方からの露軍の撤退
2)バラクレア、リマン、クピエンスケを守る部隊に十分な予備軍がない
3)(政治指導者が春にそれを否定していたが)部分動員の事実
であった

また、露軍の損失構造も浮き彫りになった
露国防省によると、3月25日における、露軍人死者数は1,351人である 9月21日には、その数は5,937人に達していた
(注:これが露政府系シンクタンクの記事であることに注意)
このように、露側の回復不能な損失のほぼ23%は、紛争の最初の1ヶ月間、すなわち「電撃戦の試み」の期間に発生しているのである
すでに、5 万人の動員部隊が前線にいるという主張を背景とすれば、へルソンの放棄は、特別作戦の開始時に、その非常に大きな軍隊ですら自信を持ってコントロールできない領域を露軍が占領し、部分動員を持ってすら前線の戦力バランスの不均衡を是正できなかったことを裏付けるものと論理的に解釈できるだろう
ジャーナリストのアナスタシア・カシェバロワは、このテーマについてこう語っている
「私たちは大きな一口を飲み、喉を詰まらせ、そして今、吐き出しているのです
イジューム、バラクレイア、リマンなどを再吟味しました
多くの人を咀嚼して、それを反芻しているのです」
(注:つまり、「食べたものをゲロって、もう一度食べます」)
このことは、露防衛省だけでなく、特別軍事作戦の第1段階の計画の基礎になったデータを提供した情報機関の代表者にも問題を提起することになる

「消耗させる」についての疑問

へルソンからの撤退は、特別軍事作戦の第2段階(マリウポリ攻略後)の戦略・戦術の選択に関する決定の正否の議論と同じです
この問題に対して、露軍参謀本部の行動を批判する人たちは、原則として次のような議論を展開する

まず、ウクライナを「消耗させる」戦術は、都市を包囲・襲撃し、紛争を長引かせ、住宅地での戦闘を長引かせ、民間人の被害を最大化するが、ウクライナに大規模反攻(9月の「ハルキウ電撃戦」のように)を行う準備する時間を与えることだと考えている

第二に、要塞に守られた敵(露軍)を破壊しようとする試みは、「塹壕」に向かって前進する側(ウクライナ軍)の損失が大きいという伝統的な考えと結びついている

第三に、紛争が長引く中、EUに対する社会経済的影響への不満は高まったが、欧州のエリートは(産業界が米国に逃げ始めているにもかかわらず)キーウへの支持をほとんど維持していることである
同時に、冬が近づいても、ウクライナ人に対する大きな抗議デモは起こっていない

これらは、前線での活動を制限しながら「敵を消耗させる」計画の実現性に疑問を投げかけるものである
へルソン撤退は、この立場を支持する人たちを確実に活性化させるだろう
彼らに言わせれば、露軍は、ウクライナ軍の主力部隊を撃破しながら、側面突破のために大規模な複合部隊を組織し、ウクライナ軍の陣形を包囲する脅威を作り出すことに専念するべきだったのだ

この夏、露の専門家たちは、現代戦の監視と偵察は攻撃部隊の秘密裏の集中と配置を不可能にし、大規模な奇襲作戦を「無効化」していると主張した
しかし、「ハルキウの恥」は、敵が制空権を持っていても、このような作戦が可能であることを示した
数万人の動員部隊が戦線に到着によっても、露軍がへルソンを守りきれなかったことは、特別軍事作戦の第2段階とは「機会を逸した時期」だという懐疑的な見方を強めるだけだろう
ウクライナの防衛力を「削る」過程で発生した損失は防衛力の不足に、確実に影響してくるだろう
ウクライナの防衛をゆっくりと「押し切る」という戦術は、フランスの野原の冷たい塹壕の中でレマルク(「西部戦線異状なし」の著者、独人)のような英雄たちが経験した不運と同じ脈絡で認識されるだろう
孫子はこう言っている
「最良の戦いは敵の策略を打ち砕くこと
次に良いのは敵の同盟を打ち砕くこと
次に良いのは敵の兵力を打ち砕くこと
最悪は要塞を包囲することだ」
この言葉は、「削る」戦術を議論する上で、必ず何度も出てくるはずです

後方への攻撃

同様に、へルソンからの撤退のニュースは、ウクライナ領への作戦の戦略・戦術の問題を再び議題とすることになる
特別作戦開始以来、「なぜ後方へ攻撃が行われないのか」という議論が盛んに行われている
「ウクライナの『意思決定センター』軍事・政治指導部を排除し、ウクライナ軍を混乱させろ
ウクライナ当局の軍隊の移動と補給に使用する輸送インフラを攻撃せよ
これらの作業が行われれば、ウクライナ軍の攻撃力が最小化されることは明らかである」
そして、へルソン撤退の原因についての議論によって、『本国への攻撃』に関する新たな波が押し寄せてくるに違いない

権威に対する打撃

最後に、へルソンの放棄は、露軍隊の権威に新たな打撃を与えることは必至であった
特別軍事作戦が始まった頃は、大多数の仲間は、露軍が2日以内にウクライナ軍を打ち負かすと確信していた
そして、その思いは「3月上旬には必ずキエフを奪取する」という期待に変わった
5月の連休には、紛争が長期化することが明らかになった
9月には、ウクライナ軍が前線の別働隊で露軍に戦術的な敗北を与えることができることが明らかになった
へルソンから撤退すれば、ようやく多くの露人はウクライナ軍を対等の相手と認識し始めるだろう
前線の状況に対する不満の高まりは、露軍や政治指導者に対する不信感の増大と、エリートに対する「犯人捜し」の要求の両方に合法的に転換しうる
この場合、体制側はどちらのデメリットが小さいか判断しなければならない
露軍の権威の低下、軍部隊の一般的な統制力の低下を受け入れるか、スケープゴートを探し、政治エリート内での対立のリスクに直面するかのどちらかであろう
へルソン撤退は、敵対行為の経過に関する公式情報の認識にも影響を与える可能性がある
そのため、状況はさらに悪化している
露国防省の公式データによると、へルソン方面のウクライナ部隊は、露軍部隊に対して大きな数的優位はなかったのだ
(注:露国防相の公式データによれば) ウクライナ軍のかなりの部分は領土防衛部隊だ
ウクライナ軍のヘルソン部隊は、補給に大きな問題を抱えていた
要塞化された露軍陣地を攻撃した際の損失は、1対7である(注:ウクライナ軍が7)
同時に、露軍は航空と砲兵において優位に立っていた
このようなニュースにより、当然だが、一般の露人はウクライナ軍の敗北と撤退のニュースを期待していた
それが結局、9月より露連邦の一部となったはずのへルソン放棄の報告で終わったのだ

この選択を支持するすべての合理的な議論は、過去数か月にわたって蓄積されてきた露軍司令官の誤りと何らかの形で関連している
この観点は、反対派であると非難されることがほとんどない人たちによっても支持されている
(例えば、ジャーナリストのアンドレイ・メドベージェフ)
特にへルソンが現状で十分に供給できないのは、ウクライナ側がドニエプル川に架かる橋を砲撃するのを誰も阻止できていないことが原因だ
へルソン撤退の動機はともかく、ひとつだけはっきりしていることは、国際的にも国内的にも、露とその軍隊の信頼性を著しく損なうことになるということだ

これはとりわけ、露の体制が選択したウクライナを位置づける戦術(ウクライナに対するレッテル戦術)によって促進されることになるだろう
もし特別軍事作戦が「バグラチオン作戦(第二次世界大戦におけるソ連の対ソ反攻作戦)」をなぞっていたたなら、ウクライナ軍とその政治体制を「独立していない」と表現する試みは完全に正当化されただろう
しかし、わが軍は2カ月前から露に編入された領土を失っている
公式発表によれば、この領土は堕落者と麻薬中毒者が統治していたのである
このままでは、舌鋒鋭い懐疑論者が、露の将兵に別のものを買えと忠告し始めるだろう
(終わり)

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