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「戦争犯罪」についての簡単な論点整理

(2,099 文字)
「戦争犯罪」に関する、実体法の簡単な論点整理をしました
議論の前提として、あるいはニュースを見る前提として、ご参考ください
(自衛隊は例外的な存在なので、他国の「軍」について説明していると考えてください)

戦争中かどうか

まず、「戦争犯罪」として評価されうる行為は、時間的な判断が必要になります
「戦争開始前」なのか、「戦争開始後」なのかという区別です

例えば、戦車を運転する兵士が、信号無視をしたとしましょう
この行為は、戦争開始前ならば、交通違反になります
しかし、戦争開始後であったならば、戦時中の行為として交通違反にならない(違法性が阻却される)ことになります

このように、同じ行為でも「戦争開始」の前後で、評価が異なるのです

そこで、何を持って「戦争開始」なのか、という論点が出てくるわけですが、主に、
1.宣戦布告、
2.事実上の戦争状態
という考えがあります

現在では、2の「事実上の戦争状態」という考え方が主流となっています
これは、「宣戦布告」自体が「国際法上違法(国連加盟国にとっては違法)」という現状から、「宣戦布告」が行われなくなったためと考えられています

つまり、同じ「殺人事件」であっても、戦争開始前か、後かで「戦争犯罪事件」か「犯罪事件」かが違ってくるということになります
当たり前と言えば、当たり前の事ですね

身分犯

次に、誰が犯人となりうる犯罪か、という論点があります
例えば、一般市民が戦争中に洗濯機を盗んだら、それは戦争犯罪でしょうか?
もちろん、そうではありません
ただの一般法である刑法上の窃盗罪でしかなく、窃盗犯になります
しかし、軍人が洗濯機を盗んだら、戦場での略奪行為として戦争犯罪者となります
つまり、殺人や略奪によって戦争犯罪者になる主体は、軍人だけ(身分犯)ということです

また、戦争開始前に実行された「犯罪」が、「戦争開始後」に遡及的に「戦争犯罪」と評価が変わることもありえるでしょう
例えば、軍人によって民間施設の不法占拠や、民間人の誘拐が本格的な侵攻開始以前に行われていた場合など、様々な事例が想定できます

(一部の人々に見られる「戦争なんだから誰でも何でもやってもいい」というのは、完全に事実から乖離しており、犯罪性向の強い人たちの機会主義的な「個人的な思い込み」でしかなく、それは「戦争教という信仰」のようなものです。)

しかし、軍人ではない人たちも主体となりうる戦争犯罪行為があります
それが、平和に対する罪と人道に対する罪などの「戦争指導者」の行為です

平和に対する罪とは、戦争を始める行為が対象です(戦争継続という点では、戦争開始後も犯罪です)
人道に対する罪(人類に対する罪)は、民族浄化、ホロコースト、ジェノサイドを計画したり命令したりする行為が対象です
また、略奪や民間人の殺害、強姦などの戦争犯罪を計画したり、示唆、教唆した場合にも戦争犯罪として認められます
それらの戦争犯罪の実行を知りつつ、あるいは、知るべき立場でありながら、放置するのも戦争犯罪(不作為犯)です

人道に対する罪(人類に対する罪)

特に、ホロコーストの事例を見ればわかるように、人道に対する罪の保護法益は広く、敵対国の国民だけではなく、自国民も保護対象です
戦争開始より以前から、自国領土内で自国民を虐殺しても「人道に対する罪」の訴追対象となりえるということです
また、戦争指導者だけではなく、直接の実行する軍人の行為も対象です

一般市民の敵対行為(パルチザン)

(注:子供兵士についてはここでは考えません)

まず、各国の国内法でありうるパターンは次の二つです

1.原則、一般市民の敵対行為参加は合法。
 ただし、自国政府により禁止された場合にはその限りではない。

2.原則、一般市民の敵対行為参加は違法。
 ただし、自国政府により許可された場合にはその限りではない。

例えば、米国のような、銃の所持と個人の自衛権を広く認めている国においては、1の考え方が採られていると考えて良いでしょう
日本は明文化されていませんが、2となるのではないかと推測されます
ウクライナでは、2月24日以前は2となっていました

上記を踏まえ、国際法上の「一般市民の保護」との抵触(矛盾)についても検討が必要です
ジュネーブ条約で「一般市民」の利益を保護しつつ、「敵対国の一般市民」による敵対行為を自由に行うことを認めることは、兵士の生命を危険にさらすことになるからです

このため、国際法上、パルチザンは存在を認められていない(国際法による保護を受けられない)と考えられています
また、存在自体が国内法で犯罪と判断されうる可能性があります

しかし、国際法による保護の有無と、パルチザンの行為が犯罪もしくは、戦争犯罪として評価されるのかは異なる話です
では、パルチザンの敵対行為は犯罪になるのでしょうか?それとも戦争犯罪になるのでしょうか?

私が見る限り、国際法上の慣習(明文化されていない慣習法)では、大人のパルチザンを戦争犯罪とは評価していないようです
おおむね、刑法上の犯罪として評価され、国内の裁判で処理されてきているように見えます
ただし、国際テロ組織と認定された場合には、戦争犯罪として評価される可能性がありそうです

参考:

(終わり)

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