見出し画像

2024/5/2 デカローグ2・デカローグ4

連続公演で上演されているデカローグのプログラムBの感想Noteです。
デカローグそのものについては、前回のNoteで簡単に触れているのでプログラムA(デカローグ1・デカローグ3)の感想Noteと合わせて読んでいただけると幸いです。

1.デカローグ2-ある選択に関する物語

(0)前書き

交響楽団のバイオリニストである30代の女性ドロタと彼女と同じ団地に住む医長の二人。ドロタは思い病を患って入院している夫アンジェイの余命を至急知りたいと医長を訪ねる。ドロタは愛人との間にできた子を妊娠していた・・・・・。
(デカローグ公式プログラムより引用)

(1)序盤〜中盤

まず、ドロタと医長の掛け合いから始まる。
病院で入院している夫に対して、妻のドロタが寄り添うシーンから始まる。病院でのシーンが終わり、ドロタは家路につく。ドロタがマンションに着いて少し経った後、同じマンション住む医長が帰ってくる。
彼らはマンションの1階に住む住人(医長)と最上階に住む住人(ドロタ)という関係でもあったのだ。病院で会ったにも関わらず、ドロタはどういうわけか夫の容体が今後どうなるのかをしきりに医長に訊ねる。
医長は病院外であること、また容体については決まった面会の時間に伝えられるから、水曜日の15時〜17時の間に来なさいと答える。
しかし、やはりドロタには何か訳があるのだろう。次の日になると、マンションの一階に住む医長を半ば待ち伏せするような感じで、ウロウロし最終的には医長が折れて、その日の午後に話をすることとなった。
その後、場面は病院に変わり、ドロタは医長に対して夫がこれからどうなるのかを問う。しかし、医長は病院で結果を伝えることはなく、そのまま場面が変わりドロタが医長の家を訪れ、医長はドロタを迎え入れる。
医長(医者)にとっては、目の前の患者に対して今ある最善を尽くして治療をしたり、回復をしたりするのが自身の役目なのである。そんな彼にとってドロタの質問である「夫がどうなるのかということ」は、答えることができない無理難題な質問であった。最善を尽くした上で、結果がどうなるかは本当にわからない。また、人を助けることが使命である医者にとって簡単に人の生死を断言するということは到底不可能なのである。

(2)終盤

未だ危篤状態にある夫と、そんな夫に反して愛人と関係を持ちそれによって授かった新たな命。何が正解でどの選択をすれば、ドロタが抱える自身の苦しみから自分を解放することができるのか。本当の答えはないまま、ドロタは自分が愛する夫を選択し、自身が授かった子どもを堕ろすと決めた。
もう何もかもがギリギリの状態で、自身の精神状態が途切れそうな限界の中で彼女は自分の中で区切りをつけようとしていた。
しかしそんな中、医長が自身の医者生活の中で初めて自分の掟を破り、自らの口でドロタに夫が死ぬと伝えようとするのである。
医長にとって未来のこと、ましてや予測不可能なことを簡単に口にすることは最も避けるべきタブーであった。
医者の仕事は目の目にいる患者に対して、その場・状況での最善を尽くし少しでもその先の回復に繋げることという信念を持って仕事をしてきた医長にとって、自分の目の前にいるドロタの状況・彼女の意志を考え、それらに医長が初めて屈してしまったのである。
実際にはドロタの夫が助かる見込みは、限りなく低い確率で残っていたものの医長は亡くなってしまうという確率が上回ると信じて、ドロタに彼女の夫はもう助からないということを告げる。
これを聞き、ドロタは寸前のところで子どもを堕ろすことをやめる。
これはドロタにとって、自分の中に授かった新たな命を見殺しにすることなくまた、禁断の事実を夫に知られぬまま愛人と新たな人生を歩むという彼女にとってはおそらく一番良いシナリオに進むことになると思われた。
しかし、待っていたのは衝撃の結末。
ドロタの夫が奇跡的に回復しとことと、ドロタから子どもが産まれるという残酷な現実(子どもは愛人との間の子である)
「死」という絶望の淵から生還しこれからの未来という「光」に向かって進もうとする夫と、それとは対称的に自身が招いた最悪の混沌の中これからを生きていかないといけないドロタ。
ここから先のストーリーがどうなるか。これは観客たちの想像に委ねられるという形で舞台は幕を閉じた。

2.デカローグ4-ある父と娘に関する物語

(0)前書き

快活で魅力的な演劇学校の生徒アンカは、父ミハウと二人暮らし。母はアンカが生まれた時に亡くなった。父娘は友達同士の様に仲睦まじく生活していたが、ある日アンカは「死後開封のこと」と父の筆跡で書かれた封筒を見つける。その中身を見たアンカがとった行動とは…….。
(デカローグ公式プログラムより引用)

(1)序盤

どこにでもいる父と娘の日常シーンから、物語は始まる。
なんとも微笑ましいシーンからのスタートである。だが、この微笑ましいシーンの直前に、娘のアンカがソファで寝ている父ミハウの目の前に置かれた封筒を見つける。そこでアンカは封筒の中に手紙が入っていることに気づく。その後父が起きてくるが、アンカは封筒も手紙も見なかったことにする。父がその場を離れてから封筒を確認するアンカ。その封筒に書かれていたのは「私の死後開封すること」というなんとも意味深な一言だった。
娘に起こされた父ミハウは最初は寝ぼけていたが、時間が経つと当然机の上に置いていた封筒を思い出す。しかし、その日は出張で飛行機に乗らなくてはいけない日だった。急がなくてはいけない状況でありつつも、手紙のことが気になるミハウ。最終的に手紙を見つけるものの、どういうわけかその封筒を持っていくことなく、慌てて部屋の机の引き出しに入れたのである。
そして空港につき、アンカとしばらくの別れを告げた後、慌てて「家賃と電話代の支払いを忘れたから、机の引き出しにある書類を持っていって払ってくれ!」とアンカに伝える。
もはやここまでくると、わざとあの手紙を娘に読ませるつもりだったのではないかと思えるぐらいに、露骨な誘導に感じた。
(ここは後々、読ませるつもりだったとストーリー上で明かされる)

(2)中盤

父が出張で飛び去った後も、この手紙とアンカの間に並々ならぬ葛藤が描かれている。果たして本当に開けて読んでもいいものか、自分が同じ立場でもアンカと同じことを思うが「私の死後開封すること」と封筒に書いてあったら絶対に気になってしまうと思う。
最終的にアンカは封筒を開けて、手紙を読むまでに1週間も葛藤するわけだが、この期間の彼女の葛藤は日々の生活で常に手紙を自分のそばから離さないようにする行動からも表現されていた。
ついに手紙を読むアンカ。そこには衝撃の内容が記されていた。
アンカの父であるミハウは実は血のつながった実の父親ではないこと。アンカの母はアンカを産んですぐに亡くなることがわかっていたためなのか、自分が産んだはずのアンカに出会うことはほぼなかったということ。
そういった状況を踏まえた上での亡き母が案ずるアンカへのメッセージ
20歳とはいえ、まさか一番そばにいて愛する父が本当の父ではなかったという事実はアンカにとっては衝撃的な事実であったように思う。
時が経ち、アンカはこれまでと同じように出張に行っていた父を空港に迎えに行く。
ここでアンカは封筒の中の手紙を読んだこと、それに対して父であるミハウがどう思っているのかを空港の出迎えで直接聞く。
これに対する父は、アンカに対して最初で最後のビンタをしてしまう。
お互いに動揺する中、アンカは鍵を忘れて家に入れない状況になってしまう。

(3)終盤

ここからは、アンカとミハウの2人の和解と互いへの理解に対して物語が進んでいく。真実を知ってしまったアンカにとって、簡単には受け入れることのできない父と自分の状況。一方の父にとっては、アンカを一生懸命育ててきたことは嘘偽りのない事実。お互いの想いがすれ違い、ぶつかり合うシーンに移っていく。父ミハウは実の娘としてアンカを育ててきたため、ゆっくりとアンカの言葉に耳を傾ける。一方のアンカはミハウに対して、自分を娘ではなく女として見ることができるかといった問いかけをすることで揺さぶりをかけるが、最後はしっかりとミハウがアンカを抱きしめることで物語が閉じられる。

3.デカローグ2と4の緩やかなつながり

今回のデカローグ2と4では、デカローグ4-ある父と娘に関する物語の中盤で緩やかなつながりを感じ取れる。ここでもデカローグ特有の異なるエピソードでの登場人物のクロスオーバーが発生する。
今回は、デカローグ3で登場した医長が寒い中外で父の帰りを待とうとするアンカに対して声をかけるシーンで登場する。アンカを寒い外に出すわけにはいかないと思って、医長が自分の家の準備をしている途中で、アンカの父が帰宅しアンカと抱き合う。タイミング悪くそこに家から出てきた医長があ鉢合わせてしまう。ここは笑いのポイントになるシーンだった。医長はもう大丈夫だよねと言い残してその場を立ち去っていった。

4.感想

デカローグ2と4を鑑賞した感想は、現代にも繋がるリアルな人間模様が描かれた作品だったように感じた。
・デカローグ2
劇中では、如何にドロタが限界ギリギリの中で生きていたかが細かく表現されていたように思った。
常に手元から離すことのできないタバコとマッチ。
結婚して夫がおり、その夫が死と隣り合わせの重病に伏している中、愛人と関係を持ち妊娠したこと。
また、自分の状況がどう考えても良くないとわかった上で、自分の中にある新たな命と向き合わなくてはいけないという苦しさ。
これらは彼女が自分の部屋に帰るたびに、立ち止まったり、座り込んだりすることでバランスがもはや維持できていないことを表現しているように感じた。
軸となるストーリーの部分はかなりズッシリとした感じである一方で、ところどころで笑いが起こるシーンもあった。
特に医長が彼の助手に対して毎日語りかける話の中では、歯が抜ける抜けないという本当にしょうもないことを何日も何日もかけて話をしていて非常に面白かった。
構成としては、医長とドロタ、ドロタ自身、医長自身、そして病院
登場人物は決して多くはないものの、場面展開はかなりたくさんあったため物語の進行としてはとてもスピード感があるものだった。
・デカローグ4
これまでの演目とは違い、話の冒頭でこれってなに?というテーマが与えられた状態で話が進んでいくことが新鮮だった。
ここまでの4話の中で1番コメディ要素が多く、肩肘張らずに見ることができた。
アンカが眼科に診察に行った時は、左目の診断ではfathと読ませた後、最後はerと結び、fatherと当てずっぽうでもわかるような検査方法にしたり、
眼科医の息子がアンカと同じ演劇学校を志望校と入学していることを話し、それにまつわるあれこれをアンカから聞いても最後の決まり文句は決まって「うちの子じゃ無理だなぁ〜」でしまっていたり、
演劇学校での演劇指導の時にも、最初はアンカとそれに対する俳優役の青年が稽古という形で進んでいたたがどういうわけか途中から演劇指導の先生がアンカに対して直接的な表現を使用したりと、
演技指導じゃなくて、先生の単なる本心では?みたいな描写になっており会場全体にも笑いが起きていた。
他にも、アンカが封筒の中にある手紙を見た際に出てきた封筒の切れ端を父が拾い上げ、ゴミ箱に入れるシーンでもゴミ箱のふたを閉めると時差でポン!とゴミ箱が元通りになりそれをなんども繰り返すシーンはありきたりだが古風な笑いとして非常に面白かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?