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冷たい街からやさしい街へ1 元明石市長 泉房穂氏

やさしい街づくりへの原風景

泉氏は12年の明石市長の在職期間中に、高校3年生まで医療費無料化、第2子以降保育料完全無料や中学校給食費無償など所得制限なしの子育て施策をはじめ、こどもを中心に据えた政策を打ち出して、結果として人口増、市の財政も赤字から黒字に転じたという実績を残しました。

子育てに関わる政策だけでなく、市民をひとりとして取り残さない、見捨てないという政策がありました。

その原点の思いは泉氏の4つ下の弟が生まれつきの障害を持って生まれたことにあります。
弟さんは歩くことができなかったのですが、家族の必死のリハビリで歩けるようになりました。
弟さんが小学校の入学の年齢になった時、遠くの養護学校に通いなさいと言われたそうですが電車やバスを乗り継いで通うのは不可能でした。
今でこそ、スクールバスがありますが当時はありませんでした。
ご両親は地元の小学校に通えるように市に訴え続けました。

市から提示された条件は2つで「何が起ころうとも行政を訴えない」「送迎は家族が責任を持つ」でした。
家計を支えるために漁師として働かれていたご両親は早朝から夕方まで仕事をしており、兄である泉氏が弟さんの登下校に付き添うことになりました。
雨の日も風の日も、泉氏は2人分の教科書をランドセルに入れ、弟さんの手を引きながら学校に通いました。

周囲の人の目は冷たく、誰も手伝ってくれようとはしませんでした。
この時、社会がいかに冷たいものなのかを痛感し、小学校5年生にして世の理不尽さを嫌というほど味わったそうです。

「冷たい社会をやさしい社会にかえたい」
「わたしたちのように苦しむ人をこれ以上増やしてはいけない」

大人になったら明石の市長となって街を変えようと10歳の時に決心したそうです。

泉氏は今年、還暦ということですが、ほぼ同じ年代として当時の空気感はわかります。

今は差別用語として使われないような言葉で揶揄されたり、虐められたりしたことがあったのではないかと想像します。

子どもは、大人の言動や心にあるものをそのままストレートに表現します。
大人が面と向かって言わないようなことでも、子どもは言ってしまいます。
当時は人権意識も低く、経済的格差や職業的な差別など、おしゃべりの種として平気で口にする大人も少なくなかったと思います。
見方を変えると自分が生きることに必死で他者に優しくなれない人が多かったとも言えます。

その時から50年後、泉氏は明石市長として数々の変革を起こし、明石は優しい町へと変わりました。
明石の駅前はベビーカーなどのお子さん連れも多く、何かあると駆け寄って助けようとする人も多いそうです。

子育て支援策は経済政策でもある

まず、明石市が行った子育て支援政策の5つの無料化政策をみてみます

所得制限なしの5つの無料化

1 (高校3年生まで)子ども医療費の無料化 薬代も無料 市街の病院も無料。

2 (第2子以降の)保育料完全無料化 兄弟の年来も関係なし 保育所・幼稚園 市街の施設もOK。親の収入も関係なし

3 おむつ定期便 市の研修を受けた見守り支援隊員(配達員)が、毎月おむつや子育て用品を家庭に届ける

4 中学校の給食費が無償 中核市以上で全国初

5 公共施設の入場料無料 天文科学館、文化博物館、明石海浜プール、親子交流スペース「ハレハレ」などの入場料が無料

所得制限を設けなかったのは、泉氏の子育て支援政策の基本は全ての子どもが対象で、親の所得によってサービスが受けられない子どもがいるのは理念に反するからといいます。

子どもは家族(親)の持ち物、所有物ではなく、社会で育てるものとも。

明石市の子供関連の予算は泉氏は市長になった2010年度は125億円でしたが、2021年度では297億円と、10年で2,38倍に増加しました。

この中に5つの無料化にかかる費用は34億円も含まれていますが、明石市全体の予算、2000億円に対して1,7%です。
年収600万の家庭が月々子どものお稽古に8500円融通するようなものです。

財源がしっかりしなければ無料化を実施できないという発想は誤った思い込みに過ぎません。

明石市は増税も何もせずに無料の子供関連施策を実施したように、国も予算を適正化すればできると泉氏は言います。

「子育て施策が高齢者にメリットがない」 は思い込み

子育て層を始め誰もが安心して住みやすい街になっていく施策をしていくなかで、明石は人口が10年連続で増え、出生率も上がり、税収も増えました。
街の商店街は売り上げが増え、移住者の増加によりいたるところで建設ラッシュも起こりました。
つまり、子ども施策は経済政策でもあり、街のすべてに波及効果があったのです。

子ども一人にかかる養育費はだいたい3000万円~5000万円くらいといわれます。
子どもが大人になってからの生涯賃金はだいたい2~3億円、子育て支援施策によって子供が増えることは、それだけで大きな経済効果が見込めるということになります。

明石市も税収が増えたことで、高齢者向けに「バス代(コミュニティバス)の無料化」「認知症診断費用の無料化」他、「ショートステイ1泊分、ヘルパー10回分、宅配弁当20食分無料化」などを実施しています。

子育て世帯はお金を貯蓄に回すよりも使います。

子どもは日々、成長します。
衣・食・住すべてに日々必要なものがあり、無料化施策により余裕が生まれれば、さらに子供のために必要な物、体験や経験のためにお金を使います。
それによって地域経済が回ることになります。

「所得制限をかけないと財政が圧迫される」も思い込み

「所得制限なし」「5つの無料化」によって大きな恩恵を受けるのは中間層です。中間層世帯は共働きが多いのですが、言い換えると「ダブル納税者世帯」ということになります。
また、中間層世帯は教育にも熱心で子どもにお金をかけます。

明石市は子育て支援サービスの支援サービスの無料化に所得制限をかけないことで、負担が軽減されて、経済の好循環を生みました。

また「5つの無料化」は納税者である私たちが支払ったお金の一部がサービスとして反ってきているという見方ができます。

多くのメディアでは財政が厳しい、教育や福祉にさらにサービスするには財源が不足しているといいます。

私自身も最近までそんなものなのかしら~くらいに思っていましたが、なんと日本の国民の負担率はとても高いのです。

2023年2月に財務省は国民負担率は47,5%になる見込みだと発表しています。
国民負担率とは所得に占める税金や社会保険料の割合を現したものです。
1970年度には25%未満でしたが、2013年に40%を超え、現在5割に迫っています。

それに対して国民が受けることのできるサービスが全く見合っていない、世界の中でも珍しい国のようです。

ここ30年くらい日本はほぼ経済成長していないのですが、政治の在り方、行政の在り方もその原因になっているように思います。

明石市は増税することなく、数々の施策を実施して黒字化したのですが、税金や保険料をその時々において適正に運用したからです。

少子化が問題となってかなりの年月が経ちますが、現在何をすべきか何に重点を置くべきなのか、そこさえ見誤ることがなければ明石市だけでなく、日本、私たちの生活ももっと暮らしやすく変わっていくのだと思います。

続く



自分の実体験をもとに書いています。 悩むことも迷うことも多かった、楽しんできたことも多いにあった 山あり、谷あり、がけっぷちあり、お花畑あり、 人生半分以上過ぎたけど、好奇心はそのままに 何でも楽しむ気ありありです。よろしく!!