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詩集

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目次 あなたはやわらかい/もの申す石/トン、タタ、タ/機微/まばたき
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#詩

【詩】まばたき

名乗らずに姿をあらわし 暗澹と消えていく得体のしれない思惑を 漂白する光の中に痛みを知る 乾いた瞳から鱗のように剥がれた皮膜を つまみあげて指の腹で触れ溶かすとき なまあたたかな声が聞こえる

【詩】機微

目の奥にある、君が捉えた――あるいはようやくたどり着いた、繊細な僕の面影、きらびやかな光のトパーズがこぼれ、その透きとおった心が無防備になる 本当ならば日差しのような澄んだ言葉を投げかけたいと願うけれど、僕の言葉はあまりにも粗忽に、やわらかいその場所を揺する 汗をかいたアイスコーヒーに向かって、まつ毛を落とす君の視線を、ただじっと見つめながら――そのストローの穴が、このささやかな誤解を、誰も傷つけずに、ただ細く、長く、吸い込んでくれやしないかなあと、飲み終えたカップの白い

【詩】トン、タタ、タ

トン、タタ、タ カサカサした夜の肌をたたき かすかな隙間から差し込んで ゆっくりとひろがっていく 誰の計らいのない響きを あたまがどんどん含んでいく トン、タタ、タ、タン トン、タタ、タ、タタタ タタタ、タ、トン、タン、タタ それは それは 大きな水のなかで じゃぶ じゃぶ 胸のまんなかを洗っている わたしの色がついた水は重力に従って 地球に「こっちだよ」と呼ばれるように 足のうらから  じっと地面にしみこんでいく すると 足の裏からこまかな根が生えて そこから深い

【詩】もの申す石

あなたがその愛を向ける対象に 宛名をつけたり 役割を与えたり 理由を与えたり そんな風に限らせないで 愛は、誰に向けても どこへ行っても どれだけの数を向けてもいい 愛は、あなたが思うより もっと自由な許しを含んでいる うまく言葉にできなくても まともな理由がみつからなくても あなた以外 誰のことも納得させられなかったとしても 「その愛」は許されている 例えばわたしが 奔放な出会いの旅をするのが好きなのは それがわたしの愛の表現 * 友人がくれた 空色の天然石を手

【詩】あなたはやわらかい

まなざしをさえぎるように 目をつぶり あなたを頬張る 顔をうずめていれば 一抹のさみしささえ清涼に喉をぬけ わたしのお腹のなかにゆっくりと落ちていく あなたはとてもやわらかい どんなに強くあろうとしても わたしに触れるゆびさきに まだ少年の含羞が宿っている わたしはただ あなたのなかにある 鈍色の渦にきづかないふりをして凭れるときの ――白々と夜が明けるのを待っているときの まるで すきとおった粒子に還るような まるで 「わたし」を遠くへなげすてるような あわいに