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部屋の中の空

眠れなくなる夜は増えている、なぜかは知らない。あなたの寝顔を見て、貴方に言いたいことは多すぎるということに気付いた。
眠る貴方の身体はそばに横になっている。穏やかな呼吸の音は真っ暗で深々たる部屋に聞こえる。やっぱり誰かとこれになるのは夢だった。いや、誰かじゃない。あなたとだけ。
たとえ年を取っても、一緒にいるからちっとも困らない。あなたとなら何もかまわない。だからこそ今、丑三つ時に、あなたのことしか考えられない。今、初めて巡り合った時のように。何年前だったのかな?

恋って、いったい何だろうなといつも訝っていた。あなたに出会う前に、あなたのことを知る前に、頭に浮かべることは何もなかった。
十代の頃テレビでカップルの映像はいつも流れていたし、結婚式を中心する番組いっぱいあったし、中学校と高校の同級生はみんな付き合ったり別れたりしたものだ。若いころの私は恋愛なんて知るようがなかったので、想像だけで個人的な恋の着想(後になって間違っていたとわかったのだけど)を生み出した。恋はただの快楽だ。快楽じゃないと、恋でもない。短絡的で子供っぽい考え方。
ただ、私は独りだった。ただ愛されたいなと思ってばかりいた。ただ愛されないときっとめんどくさく見えるよと思ってばかりいた。
しかし愛するって何の意味するかという問題を思い付いたことがなかった。

そして二十歳になって、初めて恋に思ったものに触れ合った。なんて恥ずかしい、そんな若い年齢に世界の全てに目星が付いたというナイーブな思い。
彼女のために全てを自分からなくした、彼女のために私を構成した物は全てどんどん浅くなって、枯れて、消えるまで。それで、初恋につれて失恋も来た。
白い天井に瞳を凝らして日々を過ごしていた。話さずに、動かずに。身体が冷たくなっていた、くしゃくしゃのベッド捨てられた枯葉のように。周りに人に忘れられた。あの狭い部屋が普通より狭く感じられていて、天井と壁が息を詰めるほど近付いていた。狂いそうだったけど、立てる力(あるいはやる気)が全くなかった。
えに描いた餅はすっかり崩れてしまい、すっかり私のだれた身体を埋めてしまった。あの恋に思ったものに溺れ込んで私は自分をもう少しで失いそうだった。相手を見るだけ、相手にしか構わないだけ、相手を夢見るだけ、相手の言葉を聞くだけ、相手の気持ちを大切にするだけ。でも当時、初恋より高い物は何もなかった。空と宇宙も比べられないと思っていた。
勘違いした恋のコンセプトが頭に回り続けて、ちゃんと反省できなくて、どの場合でも、何をしても、結局悪い人に思われるんだろうということに思い込んでいた。白い天井を眺めながら泣いていた、何日間か思い出せない。
心の壁を開くなら、それが足りないと言う人がいれば、それはあまりだよという人もいるだろう。
あの時、私は誰だった?または私はナンだったっていう方が正確かもしれない。灰の山のようだった。恋のことを当時まで一向に勘違いしていたんだっけ?間違いなくそういうことだよ。

恋は簡単なべきじゃない。人生がこんなに複雑なものだけあって恋は簡単なもんか。一体どうして流行っている考え方によると全てが必ず上手く行けたり、喧嘩はしなかったり、違う立場があれば「レッドフラッグ」となったりすることがあるのか?どこから恋を簡単なものを目すという発想が来たの?
そんなことは出鱈目しかない。私は、そんな「恋」(そう言えるなら)はしたくない。チョロいことが嫌いわけじゃないけど、出来ないから。何の行動にも愛情、思いやり、言質を込めるのなら、全てが苦心になる。軽い物、浅い物には水泡しかない。
みんな傷付けたり傷付けれたりするのが怖いみたいだけど、このままで人生の内在的な幸せを忘れる気がする。恋のおかげで生きづらいことを少しだけでも積極的に立ち向かえるということを忘れたみたい。恋は最も神に近いものだ。神の直接で眩しい写りと言えるものだ。
人間関係、生命の一部として、思えるように軽やかなものはない。あなた、そう教えてくれたんでしょう。永遠に感謝する。

シーツの中で貴方は寝返りする。あなたの寝顔がこっちに向かって眠り続ける。そっと頭を撫でざるを得ない。このような時何も考えずにあなたをいつまでも見つめていたいだけ。そしてあなたは起きているうちに一緒に同じ方向、同じ境界線の方を見つめていたい。遠くからゆっくり進む船を見つめていたい。
しかし、私は目の前で眺める習慣なんかないと分かった。私は何が起こっても上を向いて考えるさる者だ。でもやっぱり、多くの場合はベッドに寝て天井を眺めるだけあって、それって目の前で見詰めるということを意味するんだっけ?
このベッドにあなたのそばにいるたびに天井を見上げるにつけ空を想像するしょうがない。あなたはどうでしょうかな。今また寝転んでみて、天井に目を向ける。そばにいるとこの部屋は壁がなくなり、木々になる。無限な木々。そしてこの紫の天井は果て無い空になって、数えきれない星に満たされる。ここから動いたりせずに世界が変わって、私達の望み通りすべてが様変わりする。

私達の上で果て無い空が広がる。天使の声が聞こえる、この森林で。どの世界で「約束をするどころではないよ、明日はどうなるかわからないから一瞬一瞬生きよう。」という論理は間違っていないの?この世界で。終わりそうな世界で。約束をせずに、自由に死に向かって二人は幸せそうに歩いている。
「世界にはもう何もないんだよ。」
私達の上で空は無限で森林を歩き続けよう。天使の声は二人にしか聞こえていないから。生きるうちに、このままで愛し合い続けよう。
明日あなたの黒い目は今日より美しいだろう。

明日起きたら、この空まだあるのかな。

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