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ユーラシア感のあるモンスター。

今日もフリーライティングをしてみた。
「ユーラシア大陸」という言葉の響きがすきだ。

北海道よりずっと北の、ユーラシア大陸から突き出た半島に、海風に晒された脱色された集落がある。

屋根は瓦で葺いてあり、どこか日本風の風情だ。トタンの壁、白ちゃけた青いドア。元々の色が一律に脱色されている。海から運ばれる塩気と日光によって。

家のそばには洗濯物を干すような竿が掛けてあり、濃い緑色のワカメが干してある。ワカメは間隔を空けていくつも並んでいる。

敷地を猫が横切っていく。茶色と白の縞ネコだ。あたりはまるで、架空の映画が上映されているような雰囲気。まだ人間は誰も現れてこない。ただ、猫が、一匹の猫だけが自信ありげに、行き先が決まっているかのようにいそいそと歩いて行く。

青いドアがガチャリと開いて、そこからサリーが出てきた。サリーという名前のモンスター。彼は緑色のふさふさの体毛をつややかに輝かせている。まわりの白ちゃけた風景とは対照的だ。彼だけが栄養が行き渡ったようにツヤツヤとしている。

サリーは辺りを探して猫がいるのを確認すると、一旦ひっこんでまた出てきた。アルミのトレイを引き寄せて餌をカラカラと入れた。猫はその音を聞いてか、サリーの姿を認めたからか、サッと戻ってきて、トレイに顔を突っ込んだ。

サリーはその場にちょっとの間しゃがんで、猫が餌を食べるのを見ていた。サリーの折り曲げた足のところは、ふさふさの毛が濃く溜まって、サリーを肉感的というか、ちいさな幼児のように見せていた。

サリーはモンスターだ。どうしてその極東の地に住んでいるのかは、わからない。猫とは友達のようだ。

というか、サリーが猫を食わせてやっているのだ。それと引き換えに何かを猫から得ているのかもしれない。何か、サリーには得難い情報とかを。猫にしかわからない貴重な情報とかを。そしてサリーはそれを駆使して、何事か企みを遂行しているのかもしれない。

企みと言えばそうかもしれないが、サリーにとっては、単に食べていくためのビジネス、仕事なのだろう。そうだろう。サリーはモンスターだが、人間のように料理をして食事を自分で作っているから。どこかで買い物だってしているのだろう。

サリーは誰かと一緒に暮らしているのか? それはまだわからない。ただ、その家での暮らしに十分慣れているようには見える。そこを根城ねじろにして、自分のやるべきことがきっちりと回っているようには見えた。

サリーの暮らしぶりは、村上春樹の小説に出てくる主人公の男が買い物を済ませて帰ってくると、買ってきた野菜を洗ってラップに包んだりとか、肉もラップに包んだりとかして、きちんとすぐに使える状態にして冷蔵庫へしまっていくのに似ている。少なくとも、僕にはそう思える。すべてのことは納得して行われている。今、こうすることが、将来どういう風に役に立つのかがわかっている。そうだ。これを段取りと呼ぶのだった。

モンスターのサリーが、段取りを体得して、猫の世話も楽し気にやっていて、小さい家で心地よく暮らしている。そのことを、僕はうらやましく思う。嫉妬さえしている。


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