満足した等差数列都市。
阿久沢牟礼さんの掌編小説をおもしろく読んだ。
一日に1メートルの西伸を続ける都市が舞台だ。仮に名前を「西伸」としよう(僕が勝手につけています)。
そのまんまだ。中華風でもある。
西伸は城壁を西へ拡張しつづけて数百年、それに合わせて人々が住む街ものたりと伸びている。国があらゆる生活の面倒をみてくれる。
日に1メートルの等差数列の都市。飲ませ食わせさせられ、少しずつ肥大するエコシステム。
街の上空を飛ぶ鳥の眼からは、二次元情報しか見えない。眼下に広がるのは細長い城壁と、現場で働く人たちのこれも細長い住宅群。
人々はレンガを作り、それを積み上げて壁を作るわけだから、もちろん三次元の作業なわけだけども、二次元的には線状の巨大生物群がいるばかりだ。
とはいえ、そこに住んでいる人間にとっては、すべては合理的だ。
とはいえ、読んでいる僕たちからすると、家を毎日1メートル西へ拡張するのは、合理性からの逸脱に映る。だからこそ物語の中では、この奇矯な風習は、国際機関から文化遺産として保存されているのだ。
とはいえ、とはいえ。一周回って(?)考えてみると、この街は竜安寺の石庭のように、粛々と、満足している。満足した等差数列都市。
しずかだ。それに、その街はどうやら電気などなくても全てを賄うことができるようだ。しずかだ。
僕らの不安を掻き立てる「纏足」的静かさ。
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