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毎日書く #03-2 アルジズと「プラムとイノシシ」

真夏になる前。
まだ畑へ出ても汗をかかずに済んだころ。

イノシシけのフェンスが縦横に巡らされている一角に、古いプラムの木がある。
老木と言っていい、古い幹。
曲がった枝がたわんで、ちょうど手の届くところへ実を付けている。

甘い香りが猛烈にかおる。
甘い。
すでにたくさんの実が熟し、落ち、朽ちかけ、猛然と香りを放っている。

それから、ちょうどいい具合に熟れている実。
ちょうどよさがあまりにも完璧で、おそろしくさえある。
畏怖の気持ちが沸き起こる。
傷一つなく、ぱりりとふくよかで、全き果物世界。
色はまさにプラム色。

がぶり。
かぶりつく。汁気を余さずすする。
甘い。
食べれるところはそれほどない。
種を吐き捨てる。

がぶり。
啜る。
ひゅっ。種を吐き出す。

プラムの木の根元に、イノシシの墓がある。
「イノシシの墓」と木の墓標すらある。
墓標はもちろん、ありあわせの切れ端で、文字は油性ペンで丁寧に書いてある。

わたしはイノシシの墓のところへ、落ちたプラムのまだきれいなやつを集める。果肉のけてないやつ。まだきれいなやつ。
たくさん集まる。
なにしろ、おびただしい量がそこらじゅうにあるのだから。

イノシシにもプラムをあてがいたいのだ。
あの〈プラム性〉でイノシシを埋めてしまいたいのだ。
もう埋まっているけれど、もっと深く埋めてしまいたい。
どうせなら、きれいなもので。

わたしはせっせと実を集める。
墓がプラム色で覆われる。ささやかながら。

墓には花筒もある。竹でできている。
何も挿してなかったので、そこへはマリーゴールドを挿す。水も入れておく。すぐに乾くだろうけど。

わたしはイノシシを埋める。
うず高く埋める。
プラムの地層を作って、それをかぶせる。

暑い・・・。
独りだ・・・。

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