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瀬ノ尾と泳の会話

「瀬ノ尾さん、また日に焼けましたね?」
「ゴルフ行ったからな」
「沖縄ですか?」
「そんな遠くに行くかよ。ムーンレイクだよ」
「あぁ、桜咲いてました?」
「咲いてた。けど俺、桜はあんま興味ない」
「どうしてです?」
「あたりまえすぎるっていうか、そら、春なら咲くわな、ていうか、何かで~んとして風情がない」
「まぁ、そんな風にも考えれますよね」
「ところで、お前、今暇? コーヒー作る時間ある?」
「いいですよ」
 長洲泳ながすえいは、瀬ノ尾せのおのキッチンで湯を沸かす。
「IH、目盛り5にしろよ。時間かかるから」
 瀬ノ尾が隣の部屋から言った。
「この、外国のパッケージの粉使っていいですか?」
「あぁ、いいよ。それベトナムの」
「ベトナム行ったんですか?」
「先月ね」
「知らなかった」
「仕事先の社員旅行にまぜてもらった」
「めちゃ、ラッキーですねぇ! つうか、ふとっぱらな会社」
「そう。俺、そこの社長に気に入られてるつうか、気が合うから。『瀬ノ尾さんも来たら?』とか言われて。旅行代持つからって言うからさ。ベトナムはよかった」
「写真とか撮りました?」
「うん、あー、これとか」
 泳は瀬ノ尾のスマホを覗き込んだ。
「何か祭りみたいな?」
「そう。中国の春節、じゃないんだろうけど、そういう感じのやつ。夜遅くまで外でみんなうろうろしてるの、子どもとかも。のんびりしててよかったよ。治安も悪くなかった」
「神戸の中華街みたいですね」
「もっと広くて、あちこち椅子とか出してあって、開けた感じでよかった」
「はい、どうぞ」
「お、ありがと」
 瀬ノ尾はうまいともまずいとも言わずにコーヒーをすすった。
「で、何だっけ?」
「ん?」
「何の話してたっけ?」
「何でしたっけね?」
「お前、ほんといいかげん」
「俺っすか?」

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