コップちゃん 第一話⑵
カサカサ。
カサカサ。
乾いたその足音は、間違いなくボクらに近づいていた。
「どきなさいよ」「そっちこそそっちいって」
食器たちはざわついていた。みんな、あの音の主とは触れたくないから、どうかこっちにはこないでほしいと祈った。
いまちょうど、水道のパイプのなかの、くねったところを動いているっぽい。中ということは、いきなりは現れない。まだ猶予はあるはずだ。
とくに夏が近づくと現れる珍客。
めったに使われないのに幅ばかりとる大皿は、動きようがないからじっとしたまま、目を閉じていた。
瞑想。
嵐が過ぎ去るのを待つのみ。
それが一番だ。慌てず、騒がず、波を立てず。
他の小さなお皿やワイングラスたちが大慌てで動いているあいだに、カサカサした音は、どこかに消えたようだった。
食器たちはホッとして定位置に戻り、また静かな食器棚に戻る。
このごろ、食器棚のドアすら開けられることもなくなった。
じっと耳を済ますと、家のひとはどうやら外でごはんを買ってきて、食べ終えたらゴミ袋にぽいと投げ捨てているだけだ。箸も食器も、燃えるごみ。いままであんなに食器にこだわっていたのは、なんだったんだろう。
そのせいか、誰かが家に来ることもなくなった。
このひと、このままボクら食器を使うことなんかないのだろうか。
となると、ボクら食器は・・・。
「知ったこっちゃないよ。ボクらは人間に使われなければ価値なんてないんだから」
ワイングラスがつぶやいた。
「そんなことはないよ。ボクらをつくってくれたひとがいる。その人たちのためにもじゅうぶん、価値はあるはずだよ」
そうボクは言ったものの、ボク自身、ほんとうは不安だった。
この先、どうなっちゃうんだろうかと。
そのときだった。
ブーーーーーーン。
カサカサしたあの彼が、
飛んだ!
食器たちは大混乱。
どこから現れたかもわからない、大騒動がはじまった。
(つづく)
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