JT重力をやってみよう-古典解1(計量の解)

JT重力における古典的な運動方程式の解を考えていきます。まずは計量について解きます。ここではLorentz符号で行い、物質の作用も含めておきます。

$$
S=\frac{\Phi_{0}}{16\pi G_{N}}\left( \int \sqrt{-g}R+2\oint\sqrt{-h}K  \right)+S_{JT}[g,\Phi]+S_{m}[\phi,g]
$$

なお、測度などは一部省いています。第1項は定数のディラトン背景で、トポロジカルなEintein-Hilbert作用に対応しています。$${S_{0}=\Phi_{0}/4G_{N}}$$とすればはじめの記事の形になります。第2項は前回求めたJT重力のLorentz符号版の作用です。

$$
S_{JT}[g,\Phi]=\frac{1}{16\pi G_{N}}\left( \int \sqrt{-g}\Phi(R+2)+2\oint \sqrt{-h}\Phi(K-1)\right)
$$

第3項は物質の作用です。ここでは計量とのみ結合し、ディラトンとは直接的には結合しないとします。

計量の解

まずは計量についての解を考えます。ディラトンについての変分を求めたとき、曲率を次のように得られます。

$$
R(x)=-2
$$

2次元においては局所的な曲率の値を知ることで座標変換を除き計量を求められます。ここでは$${\mathrm{AdS}_{2}}$$の多様体となります。

共形ゲージを用いると便利です。光円錐座標の$${u=t+z,\, v=t-z}$$を用いて

$$
ds^{2}=-e^{2\omega(u,v)}dudv
$$

座標変換を行うことで常にこの形にたどり着けます。計量の自由度は$${\omega(u,v)}$$のみとなります。このとき、曲率を

$$
R=8e^{-2\omega}\partial_{u}\partial_{v}\omega
$$

と書けます。

よって$${R=8e^{-2\omega}\partial_{u}\partial_{v}\omega=-2}$$よりLiouvilleの方程式の形にまとまります。

$$
4\partial_{u}\partial_{v}\omega+e^{2\omega}=0
$$

一般解は$${u,v}$$の関数$${U(u),V(v)}$$を用いて

$$
e^{2\omega}=\frac{\partial_{u}U(u)\partial_{v}V(v)}{(U(u)-V(v))^{2}}
$$

と書けます。この解はこの先で境界条件を課すことで制限されます。いま、$${u\to U(u),v\to V(v)}$$と変数変換したと思うと計量は

$$
ds^{2}=-\frac{4dUdV}{(U-V)^{2}},\quad e^{2\omega}=\frac{4}{(U-V)^{2}}
$$

となります。これは$${\mathrm{AdS}_{2}}$$の光円錐座標$${(U,V)}$$におけるPoincaréパッチを表します。

Poincaré座標

いくつかのよく用いられる形にまとめてみます。ここで$${U>V}$$とし、時間座標$${T=(U+V)/2}$$、空間座標$${Z=(U-V)/2}$$と置くことで(たぶん最もよく知られた)Poincaré座標の形が得られ、

$$
ds^{2}=-\frac{-dT^{2}+dZ^{2}}{Z^{2}}=-R^{2}dT^{2}+\frac{1}{R^{2}} dR^{2}
$$

となります。ここで$${R=1/Z}$$と置きました。この計量は等長変換群$${ \mathrm{SL}(2,\mathbb{R})/\mathbb{Z_{2}}=\mathrm{PSL}(2,\mathbb{R})\simeq \mathrm{SO}(2,1)}$$を持ちます。これはPoincaré光円錐座標にMöbius変換

$$
U\to \frac{aU+b}{cU+d},\quad V\to \frac{aV+b}{cV+d}
$$

で作用します。ここで$${a,b,c,d\in \mathbb{R}}$$で、$${ad-bc=1}$$です。

この座標では$${U=V}$$または$${Z=0}$$に境界を持っています。地平面は$${U-V\to \infty}$$に、または未来の地平面$${U\to +\infty}$$と過去の地平面$${V\to -\infty}$$を持ちます。この幾何は高次元の極限ブラックホールにおける地平面近傍極限で見られるものです。地平面は無限の固有距離のところにあります。

グローバル座標

次にグローバル座標を求めます。$${U,V}$$座標を次のように置きます。

$$
U(u)=\tan{u},\quad V(v)=\tan{v}
$$

この式での$${u,v}$$は新たな光円錐座標としているため、以前出したものとは別なので注意してください。この変換で

$$
\begin{align*}
  ds^{2}&=-\frac{4dUdV}{(U-V)^{2}}\\
  &=-\frac{4}{(\tan{u}-\tan{v})^{2}}\left( \frac{1}{\cos^{2}{u}}du \right)\left( \frac{1}{\cos^{2}{v}}dv \right)\\
 &=-\frac{4}{(\sin{u}\cos{v}-\sin{v}\cos{u})^{2}} \\
  &=-\frac{4}{\sin^{2}(u-v)}dudv
\end{align*}
$$

となります。さらにグローバル時間座標$${t=(u+v)/2}$$と空間座標$${z=(u-v)/2}$$を定義します。この$${t,z}$$も以前のものとは別です。

ここでは2つの境界があります。$${u=v}$$または$${z=0}$$と、$${u=v+\pi}$$または$${z=\pi/2}$$です。

ブラックホールパッチ

最後にブラックホールパッチについて考えます。これは以下の変数変換によって得られます。

$$
U(u)=\frac{\beta}{\pi}\tanh\left( \frac{\pi}{\beta}u \right),\quad V(v)=\frac{\beta}{\pi}\tanh\left( \frac{\pi}{\beta}v \right)
$$

以前と同様に計算すると計量は

$$
ds^{2}=-\frac{\pi^{2}}{\beta^{2}}\frac{4}{\sinh^{2}(\frac{\pi}{\beta}(u-v))}dudv
$$

と書けます。また同様に$${t=(u+v)/2}$$と$${z=(u-v)/2}$$を定義します。ブラックホールパッチはPoincaré座標に含まれます。ここでの設定では、Poincaré座標が

$$
-\frac{\beta}{\pi}<
\begin{matrix}
U\\
V\end{matrix}
<\frac{\beta}{\pi}
$$

の範囲のみを取るためです。また、この幾何学では有限の距離において$${u-v\to\infty}$$となる地平面があります。いま、$${r_{h}=2\pi/\beta}$$と置き、動径座標として

$$
r=r_{h}\coth{(r_{h}z)}=\frac{r_{h}}{\tanh(r_{h}z)}=\frac{r_{h}\cosh(r_{h}z)}{\sinh(r_{h}z)}
$$

を導入して書き換えることを考えていきます。

$$
\begin{align*}
ds^{2}&=-\frac{\pi^{2}}{\beta^{2}}\frac{4}{\sinh^{2}(\frac{\pi}{\beta}(u-v))}dudv\\
&=r_{h}^{2}\frac{-dt^{2}+dz^{2}}{\sinh^{2}{(r_{h}z)}}
\end{align*}
$$

ここで動径座標を代入します。双曲線関数の微分

$$
(\coth x)'=-\frac{1}{\sinh^{2}{x}}
$$

より

$$
dr=\frac{r_{h}^{2}dz}{\sinh{(r_{h}z)}}
$$

なので

$$
ds^{2}=-\frac{r_{h}^{2}}{\sinh^{2}(r_{h}z)}dt^{2}+\frac{\sinh^{2}(r_{h}z)}{r_{h}^{2}}dr^{2}
$$

となります。さらに双曲線関数の関係式

$$
\frac{1}{\sinh^{2}{x}}=\coth{x}-1
$$

を用いると

$$
\frac{r_{h}^{2}}{\sinh^{2}{r_{h}z}}=r_{h}^{2}\coth{r_{h}z}-r_{h}^{2}=r^{2}-r_{h}^{2}
$$

です。ゆえに計量は

$$
ds^{2}=-(r^{2}-r_{h}^{2})dt^{2}+\frac{1}{r^{2}-r_{h}^{2}}dr^{2}
$$

となります。このパッチは高次元の極限ブラックホールにおける地平面近傍で直接目にするものです。Euclidブラックホールを考えればHawking温度$${T=\beta^{-1}=r_{h}/2\pi}$$を得て、これは近極限ブラックホールの温度となります。

さらに、地平面から測った固有距離$${\rho}$$を用いれば

$$
\sinh{\rho}=\frac{1}{\sinh(\frac{\pi}{\beta}(u-v))} \to ds^{2}=-\frac{4\pi^{2}}{\beta^{2}}\sinh^{2}\rho dt^{2}+d\rho^{2}
$$

と書けます。この表式で地平面近傍の極限$${\rho \ll 1}$$をとればよく知られたRindler幾何になります。

コメント

以上のように計量の解は$${\mathrm{AdS}_{2}}$$多様体の一部です。よって、$${Z=0}$$にホログラフィー的境界を持つようなホログラフィーの文脈で解釈できます。なお、$${\mathrm{AdS}_{2}/\mathrm{CFT}_{1}}$$は少し微妙なところがあることが知られています。すなわち、真の$${\mathrm{AdS}_{2}/\mathrm{CFT}_{1}}$$はゼロエネルギー状態でのみ意味を持つとされます。JT重力ではそれを解決できたことが大きな成功の一つでした。また、真の$${\mathrm{AdS}_{2}/\mathrm{CFT}_{1}}$$はバルクの理論が強結合となり、簡単な記述ができません。

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